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【七夕賞】田中勝春騎手にマッチしたエヒト ベテランが引き出した最大の強みとは

2022 7/11 10:50勝木淳
2022年七夕賞回顧,ⒸSPAIA

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キーレースだった京都記念

宝塚記念を除外になったヒートオンビートがここに出走してきたことで、例年の七夕賞と比べると主軸が明確になったレースだった。普段の七夕賞ならば、単勝オッズひと桁台がずらりと並ぶところが、今年のひと桁台はヒートオンビート、アンティシペイト、ヒュミドールの3頭のみ。上下差があるといった評価のもとで七夕賞は行われた。

その上位評価3頭は2、3、5着。勝ったのは6番人気エヒト。前走京都記念7着から巻き返した。京都記念はアフリカンゴールドが勝ち波乱決着だった。しかし、出走馬のうち3、4着は鳴尾記念3、2着、6着レッドガランは新潟大賞典V、さらに8着馬はマーメイドS2着、9、12着馬はOPを勝つという上半期のキーレースだった。エヒトは京都記念7着以来の実戦、ベテラン田中勝春騎手とのコンビが見事に当たった。

2017年以降、福島芝2000mの種牡馬別成績のうち30走以上で勝率トップはスクリーンヒーローの13.5%、2位がルーラーシップの12.3%。ルーラーシップ産駒といえば真っ先にキセキが思い浮かぶが、同馬のように荒っぽい競馬がもっとも強みをいかせる。多少強引でも速いペースを刻み、やや上がりを要し、瞬発力勝負を避けながらも、全体として速い時計で決着する。キセキが2着に踏ん張った18年ジャパンCがその理想形といえる。

自然な形でまくりを決めた田中勝春騎手

エヒトはそんな理想的な流れをモノにした。ロザムール、トーラスジェミニに格上挑戦のヤマニンデンファレと先行勢は賑やか。枠の差をいかしてロザムールが先手をとり、トーラスジェミニが番手に控えたことで、予想ほど急流にはならなかったものの、12.3-11.0-11.1-12.0-12.1。1000m通過58.5とペースは落ちず、緩急のいらない競馬になった。エヒトは先行勢の後ろ、枠なりに外目を追走しプレッシャーのない位置を確保した。

残り1000mは12.1-11.9-11.9-11.6-11.8と後半800mすべて11秒台。平坦小回りの福島芝2000mらしい極端に速いところもないが、落ち込みもないラップだった。残り800m標識あたりから田中勝春騎手は外を確認、馬の行く気に任せてじわじわと進出開始。エヒトは気分よく走り、4コーナーで3番手の外。速い流れを一歩先に動く荒っぽさはルーラーシップ産駒がもっとも力を出すパターン。それも強引ではなく、自然な形でやってのける。馬との呼吸を大事に乗る田中勝春騎手の真骨頂だ。エヒトの強みと騎手の信条が一致したレースだった。

もう大ベテランの域に入る田中勝春騎手は19年マイスタイルで勝った函館記念以来の重賞V。昔から夏に強いジョッキー。今回の勝利で今後は田中勝春騎手にマッチする騎乗馬が集まることが予想される。まだまだ活躍してくれるのではないか。

流れが合わなかったヒートオンビートとアンティシペイト

2着は1番人気ヒートオンビート。エヒトに2馬身半差は意外だが、上記の通り理想的な運びだった勝ち馬に対し、こちらは前半、中団の後ろ。勝負所もエヒトと比べると、エンジン点火にかなり時間がかかった。小回りの競馬経験の差もあったが、昨年暮れから重賞で3戦連続3着以内の実績はすべてスローペース。ゆったり入って加速する流れが得意で、ルーラーシップ産駒が得意な持続力勝負では分が悪い。同じ系統でも適性はさまざま。今回は流れがフィットしなかった。それでも2着確保は力の証。条件さえ合えば重賞には必ず手が届く。

3着アンティシペイトはエヒトと同じルーラーシップ産駒で、前走はこのレースと相性がいい福島民報杯勝ち。その前走は文字通り荒っぽいまくり競馬で勝ち切った。今回もエヒトと同じタイミングで動き出したが、まくり切れなかった。前走はかなり速い流れになり最後はバテ比べ、後半600mは12.5-11.8-12.7。重賞の今回は最後まで11秒台でスムーズに進出できなかった。やや力が足りなかった印象。母の父ディープインパクトまでエヒトと同じで得意な形も同じ。エヒトのような位置を取れる機動性が欲しいところだが、今回のような持久力戦で力を発揮する余地は十分ある。


2022年七夕賞回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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