パンサラッサの巧みな逃げ
パンサラッサが福島記念に続き、重賞2勝目をあげた。同じ逃げ切りでも内容が異なる。逃走者パンサラッサはいよいよ完成の域に達したといっていい。
福島記念は正面スタンド前を目一杯使う2000m戦。オクトーバーSで最適な戦法をみつけたパンサラッサは同じ手に出た。ついてきたコントラチェックは、スプリント重賞オーシャンSで前半600m33.7を番手で追走した経験がある。パンサラッサはそれを振り切ろうと正面直線で加速、前半600m33.6というスプリント戦のようなラップを刻んだ。これが効いた。中距離を走る馬はこれほど苛烈なラップに対応できない。福島記念の勝因は勇敢に挑んだ序盤にあった。
中山記念には、その福島記念で追いかけたコントラチェックも出走。しかし同馬は当時15着。今度は同じように深追いしない。芝1800mは1コーナーまで距離がなく、福島記念のようなダッシュを効かせにくい。トーラスジェミニ、ワールドリバイバルといった逃げたい馬を巧みに制しつつ、今回はじわっと先頭に立った。1、2コーナーから向正面にかけて、パンサラッサは大逃げに持ち込まない。もはや単なる逃亡者ではない。後ろを引きつけても馬が落ち着いていた。
総合力を感じるラップ構成
そのラップは12.7-11.2-11.3-11.1-11.3、前半600m35.2、1000m通過57.6。馬場は絶好の状態、飛ばし過ぎてはいない。パンサラッサはマイペースを貫く。ペースダウンもできたはずだが、トーラスジェミニやワールドリバイバルにハナを伺うスキは見せられない。吉田豊騎手が手綱を引けば、いずれかが先頭に立っただろう。しかし、そんな場面はなく、緊張が続く。
後半800m11.5-11.6-12.2-13.5。3、4コーナーにかかってもパンサラッサは一定のペースを刻み続け、1200m1.09.1を記録。好位勢はこの時計に対応できなかった。徐々に後ろを引き離し、4コーナーで福島記念と同じ大逃げの形に持ち込んだ。1200m戦と同レベルで走られては後ろの中距離型も敵わない。まして4コーナーまでに福島記念ほど無理をせずに同じようなリードを作られては、物理的に難しい。上がり37.3、最後の200m13.5とかかろうとも、追いつける脚力を持った馬はいなかった。
中山記念は福島記念のようなダッシュ力の勝利ではなく、1200mを1.09.1で乗り切るレースプラン、いわば総合力による勝利。着実にパンサラッサは強くなった。そうそう捕まることはない。快速ロードカナロアに重厚な母の父モンジュー。スピードで自身と後続の脚を削り、上がりを要する競馬に持ち込む形が理想だ。変幻自在の逃げ馬が春競馬をさらに面白くする。
明暗わけた中山適性
2着カラテは2月末日で引退する高橋祥泰調教師の管理馬。最後に見せ場は作った。重賞タイトルは東京でつかんだものの、ベストは中山。変則的な流れでも中山であれば最後に脚を使う。開幕週特有の外を回るとアウトという特殊な馬場で、前にいたアドマイヤハダルを捕らえたのは適性の証だ。ただ、脚元の状態から冬がいい馬。そういった事情もあり、今回は強行軍での出走。春以降は状態面をよく見極めたい。
3着アドマイヤハダルは休み明けのディセンバーSではこの舞台5着と冴えなかったが、今回は流れが速いため、4コーナー手前で手ごたえが怪しくなりながらも、よく踏ん張った。こちらも中山は合う。変則的な流れでなければ前進しそうだ。
4着ガロアクリークはひとつ下のアドマイヤハダルと似た戦歴。3歳時はスプリングS勝ち、皐月賞でコントレイルの3着。秋にセントライト記念3着、古馬初対戦ディセンバーS3着と中山に限定すれば崩れない。脚部不安明け、8番人気は狙い頃だった。4着は前半の位置取りと4コーナーでカラテよりさらに外を回った分。器用さが欲しいところだが、中山好走はほぼこのパターン。中山であれば馬場状態次第でもっと上の着順になっておかしくない。
1番人気ダノンザキッドは7着。マイル戦中心だった昨秋とは異なり、序盤から消極的な競馬。勝負所で外から迫力ある追い上げをみせ、アドマイヤハダルやカラテに並びかけていったが、直線で伸びなかった。昨年春は中山で折り合いの難しさを露呈したが、今回はどうやらそれとは別の敗因。中山に対して馬が悪いイメージを持っているという指摘もある。確かに中山では上位馬と比べると、明らかにパフォーマンスを落とす。またパンサラッサが飛ばし、スタミナ寄りのレースになったことで、距離適性が響いたともいえる。ベストはワンターンのマイルだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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