今年は「異例の有馬記念」となる可能性
有馬記念が行われる中山芝2500mは、外回りの3角入口からスタートし、最初の4角までの距離は192m。最初のコーナーまでの距離が短く、逃げ馬が最初のコーナーをゆったりと入ること、さらに1~2角の急坂を2度も超えるタフなコースであることから、スローペースになりやすい。
実際に追い込み馬のオルフェーヴルが1番人気に支持された2011年、ゴールドシップが1番人気に支持された2014年は、逃げ馬不在の影響もあり、同日の2勝クラス・グッドラックハンデよりも遅い決着タイム。いわゆる“どスロー”が発生している。これによりゴールドシップは3着に敗れ、オルフェーヴルも生涯GⅠ・6勝の中で、最も着差が小さい結果となった。
また、中山芝2500mの多頭数は特に最初のコーナーで外を回ってしまうと終始外々を回るリスクが生じ、その後に内目に進路を取るにしても、仕掛けどころに制約を受ける。このため外枠よりも内枠が有利というのも特徴だ。ただし、それは馬場の内・中・外がフラットであることが条件であり、昨年のように馬場の内が荒れ、外差し馬場になると、当然、外枠の馬にもチャンスが出てくる。
逆にハイペースになったのは、過去10年ではアエロリットが逃げた2019年の一度のみ。この年の5F通過は58秒4。5F通過60秒越えはあたりまえ、平均でも61秒台半ばで入る有馬記念としては、異例の超ハイペースである。この年のアエロリットは大外枠。スタートしてすぐにコーナーの中山芝2500mで序盤から出すということは、最初の直線に向かってスピードを上げることになるので、その後に折り合わせるのが難しいものではあるが、極端なレベルまでペースアップしたのは、前週から馬場が一変したことも大きいと見ている。
この年の有馬記念は、前週までは前と内が有利だったが、有馬記念当日は馬場の内側が荒れ、外差し馬場に変貌していた影響もあったと見ている。今開催の中山も先週までは前と内が有利だったが、先週の土曜日は稍重でスタートし、内から馬場が乾いていったことが内と前有利の傾向に拍車をかけていた面もあっただけに、今年も有馬記念当日は外差し馬場になっている可能性はある。
外差し馬場かどうかは、土曜日のグレイトフルSや有馬記念同日のグッドラックハンデなどを見て最終決断を下したいが、仮に先週と同じ馬場だったとしても、ターコイズSのように、外差しが決まる可能性が高いと見ている。逃げて素質が開眼し、アメリカン競馬のようなペースで逃げ切ったパンサラッサが宣言どおりに2番枠から逃げるのなら、そうなりやすい。
仮にパンサラッサが道中でペースを落とせば、5番枠から緩みない流れでこそ持ち味が生きるディープボンドがプレッシャーをかけてくるだろう。タイトルホルダーはアエロリットと同じ大外枠。アエロリットのように序盤から出す選択もゼロではないが、暴走レベルの逃げを嫌う横山和騎手なら、離れた2,3番手で折り合う可能性が高い。
正直、タイトルホルダーが大外枠に入ったことで、ハイペースになる可能性は戦前の段階よりもやや薄まったが、逃げ馬多数の状況下と枠の並び、それらに騎乗する騎手心理を総合的にまとめるとハイペースになる可能性が高い。2019年のように異例のレベルまでペースアップするかはともかく、平均ペースよりは速くなると見て予想を組み立てたい。
能力値1~5位馬の紹介

【能力値1位 クロノジェネシス】
昨年の宝塚記念、有馬記念、そして今年の宝塚記念とグランプリを3連覇。昨年の宝塚記念は2着キセキに6馬身差をつけて圧勝だったが、ゲリラ豪雨の影響で馬場が急激に悪化。レースが消耗戦となったことで、中団外目でレースを進めた同馬は展開に恵まれた面もある。しかし、前有利の流れとなった今年の宝塚記念でも、同馬は前2頭から離れた3番手集団でレースを進め、昨年の宝塚記念に次ぐ、自身2位の指数で完勝。正攻法の競馬で優勝した内容からは衰えを感じさせない。
前走の凱旋門賞は休養明けの一戦。ただでさえ息持ちに不安が出やすい臨戦過程であるところに、本場洋芝の重馬場でスタミナが要求される状況。さらに外枠から出遅れた同馬は、2015年の凱旋門賞の覇者ゴールデンホーンの再現(馬群から離れた外から、逃げ馬の直後に入る)を狙ったが、内の集団のペースが遅く、折り合いを欠いた同馬はむしろ逃げ馬を追い越し、先頭に立ってしまいそうな勢いだった。
しかし、そのタイミングでアダイヤーが引っ掛かってハナに立ったことで、2列目外と逃げるよりはマシな位置でレースを進めたものの、スタミナ豊富な欧州馬を相手に終始好位の外々というのは、さすがに苦しく、7着に敗れてしまった。しかし、差し馬が3着以内を独占した中で、直線でアダイヤーに差を広げられながらも、ラスト1Fまで2番手を死守と見せ場は作れていた。
今回は前走を叩かれての上昇が見込める。海外帰りだと、特に栗東の馬はトモの張りが落ちるため、必ず「調子不安説」が浮上する。しかし、個人的には栗東坂路で追い切ることができず、体型が変化しただけと認識している。
2004年の有馬記念に出走したタップダンスシチーも、凱旋門賞大敗からの出走となり、トモの張りが落ち「調子不安説」が浮上したものの、軽快に逃げ強豪ゼンノロブロイと小差の2着に好走している。クロノジェネシスもトモの張りは落ちているが、中身は問題なさそうなので、今回の有馬記念はクロノジェネシスのヒモ探しの構図と見る。
【能力値2位 ディープボンド】
4走前の阪神大賞典を圧勝し、3走前の天皇賞(春)でも2着した実力馬。4走前は重馬場とかなりタフな馬場状態で、5F通過62秒4という緩みないペース。好発を切って積極的に促しながらレースを進め2列目。そこから徐々に控えてスタンド前では少し離れた4番手の外目。そこから無理をさせず、3角手前から徐々に前との差を詰め、4角では3番手。直線序盤で先頭に立ち、ラスト1Fで2着ユーキャンスマイルに5馬身差をつけての完勝と、とても強い内容だった。
3走前は逃げ馬ディアスティマが、それまで阪神芝3200m未経験の坂井瑠騎手に乗り替わり、高速馬場を考慮してもハロン12秒前後を維持するような恐ろしく速いペースでレースメイク。その好位の外4番手から、ここでも3角からじわじわと前との差を詰めて2着。休養明けの4走前で好走した反動もあって、ここでは指数を下げたが、ペースを考えれば上々の内容だった。
同馬はこの秋も凱旋門賞の前哨戦フォア賞を逃げ切り勝ちしているように、好調を維持している。前走は休養明けのフォア賞で能力を出し切ってしまったため、その反動が出たようで、中団外でレースを進めながらも、オープンストレッチに差し掛かった辺りでは手応えを失った。前々走の走りから巻き返して来る可能性は十分。ただし、前走は時計の掛かる馬場で後方からレースを進めているので、今回ではレースの流れに乗りづらい面がある。そこを懸念していたが、内目の枠ならカバーしやすい。
【能力値3位 エフフォーリア】
無敗の皐月賞馬で今世代のコントレイルと期待された馬。皐月賞は3角先頭に立ったタイトルボルダーが菊花賞を制したように前が厳しい流れ。また、同レースで直線、馬場の内を突いた馬が次々と巻き返しているように、馬場の内が伸びない日でもあった。皐月賞は前と内が不利な流れ。ラジオNIKKEI賞でワールドリバイバルに本命を打ったのも皐月賞で最悪の競馬をしたからこそであり、終始好位の内から直線で抜け出して優勝したエフフォーリアの内容は十分に褒められる。
また、日本ダービーでは最内枠だったこともあり、無理に3列目の内を狙って出し、最短距離の競馬をしたが、ダービー当日も馬場の内は悪く、それが仇となった。ダービーでは内々を立ち回ったエフフォーリア以外の馬は全滅している。同馬に足りなかったのは実力より「運」。
これらのことから3歳世代牡馬で実質最強なのはエフフォーリアであることは理解していた。また、ノーザンFは宝塚記念や有馬記念のように、パワー型の馬にチャンスがレースを目標にするのではなく、日本ダービー、天皇賞(秋)、ジャパンCとスピードもなければ勝てない東京芝の主要GⅠにピークを持ってくる面がある。なぜかと言えば、その方が種牡馬価値が上がるからだ。
それを踏まえても前走の天皇賞(秋)でコントレイル、グランアレグリアの3強の中で一番切りたかったのは、休養明けでもう一段階の成長が求められるエフフォーリアであり、実際に評価を下げた。しかし、天皇賞(秋)はクラシック2戦の鬱憤を晴らすかのような走りで、好位の外から突き抜けて完勝。逃げ馬不在で“どスロー”となったため、末脚型のグランアレグリアが2列目外から早めに動いて自滅した面はあったが、コントレイルに対しては完勝だったのは間違いない。
エフフォーリアは今回、休養明けの天皇賞(秋)で自己最高指数を記録した後の一戦。なかなか前走の状態まで戻すのは難しいだろう。こちらの想像以上に強く、成長しているならば反動など関係ないのだが、人気とのバランスから今回もあまり高い評価はできない。
【能力値4位 パンサラッサ】
もともと2歳時の不良馬場だった未勝利戦でかなりの好指数を記録した実績があり、条件が揃えば強い馬であることは証明していた馬。今秋は覚醒モードに入り、オクトーバーS、福島記念を連勝。特に前走の福島記念は、前半5F57秒3-後半5F61秒9の極端なハイペースで逃げて独走。福島記念の指数は今年の天皇賞(秋)と菊花賞に並ぶものだった。前走同様の走りが出来れば、今回のメンバーでも上位争いになる。
しかし、問題は前走同様に走れるかということ。逃げ馬が穴を開ける時はかつての有馬記念を優勝した我が最愛のメジロパーマーもそうだったが、もともと強く前走で能力を出し切っていないことが多い。パンサラッサが前走の走りが余裕残しというレベルまで潜在能力が急上昇しているのならば、ここも逃げ切りという可能性はあるが、そのパターンはそこまで確率が高いものではない。
【能力値5位 シャドウディーヴァ】
昨年の東京新聞杯で2着、今年は同レースで3着、さらに昨年は芝1800mの府中牝馬Sで2着、今年は芝2000mのマーメイドS3着と、長らく重賞で勝ち切れなかったが、前々走の府中牝馬Sで重賞制覇を達成した。同馬が重賞で勝ち切れなかったのは、中団でレースを進め、終いの甘さを見せていたから。
しかし、前々走では思い切って後方馬群の中目で我慢させ、3~4角で他馬が動いて行く中、ワンテンポ仕掛けを待って動いたことが功を奏し、直線で一気に差し切ったもの。終いが甘くなる馬は、もっと脚をタメれば最後まで脚を使えるようになるのは当たり前だが、前走のジャパンCでは2列目の内から最短距離の競馬をしているとはいえ、積極策で崩れなかったことに驚いている。地味ながらも地力強化をしているのだろう。
ここまでの実績から、中山のタフな馬場、芝2500mにやや不安を感じてしまうが、昨秋の府中牝馬Sでは馬場が悪い中、サラキアの2着になったように、意外とスタミナがあるのかもしれない。横山典騎手らしく、後方ポツンの決め打ち競馬なら、ひょっとする可能性はある。
超大穴は長距離型のユーキャンスマイル
ユーキャンスマイルは一昨年の新潟記念勝ち、天皇賞(秋)4着と好走してはいるが、菊花賞3着、ダイヤモンドS勝ち、昨年の阪神大賞典を勝って自己最高指数を記録、さらに重馬場だった今春の阪神大賞典でも2着と善戦しているように、実はステイヤーだ。
昨年の阪神大賞典は大出遅れしたキセキが向正面で一気に上がり、前にいた2頭に競りかけたことで、ペースが速くなり、後方2番手の内々で脚をためていたユーキャンスマイルは展開に恵まれての優勝だった。特に長距離戦は距離損が致命的となるが、3~4角でも中団馬群の中目を押し上げ、4角で上手く2列目の内のスペースを拾って、直線で抜け出してきたレース内容は、ここでは物足りないように映るかもしれない。
しかし、同馬はもともと阪神大賞典ではなく、金鯱賞に出走する予定だったが、体が絞り切れずに回避し、阪神大賞典に出走。それでも追い切りの動きに物足りなさを感じ、当日も馬体重12㎏増と太目。それでも優勝し、その次走の天皇賞(春)でも体が絞り切れないまま出走して4着に善戦したことから、かなり長距離適性があると見ている。
中山芝2500mで前がペースを引き上げ、レースが消耗戦になればなるほど求められるのは長距離適性。今年の有馬記念がハイペースと想定するなら、2008年に14頭立ての14番人気で2着と好走したアドマイヤモナークのように死んだふりからの一発を期待したい。アドマイヤモナークは、ダイヤモンドSを始め、長距離に実績が集中するステイヤー。この年の有馬記念も5F通過59秒6の速い流れ。展開を利しての一発だった。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)クロノジェネシスの前々走指数「-30」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも3.0秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる女性予想家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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