一頭だけ次元の違う脚
2021年を締めくくるグランプリレース・有馬記念。東京開催の天皇賞(秋)やジャパンCとは異なり、中山芝2500mで行われる本レースは地力だけでなく立ち回り力も重要となる。さらに、今年は3歳勢も実力馬揃い。まずは参考レースから有力馬の強さと課題を整理していきたい。
【宝塚記念】
天気が心配されたが、小雨が降った程度で競馬に大きな影響を与えるほどではなかった。午前中は内目を開ける競馬が多く実際に外目が伸びていた印象だが、9Rでは内前のワンツー決着だっただけに極端なトラックバイアスも感じない。レースはユニコーンライオンが最内枠から主張し、前後半1000m60.0-58.5の後傾1.5秒。
ラップとしては中盤で12秒台中盤まで緩んだ流れではあったが、東北東から強めの風を受けていたことを考慮すれば極端なスローペースという流れでもない。そもそも勝負に参加できていたのは実質9頭程という地方交流G1のようなレースであったから、ポジションによる有利不利もさほど考える必要はないだろう。
1着馬クロノジェネシスは出たなりで好位につけ、勝負どころではレイパパレの直後で虎視眈々。直線に向いて進路を確保すると一頭だけ次元の違う脚で突き抜けた。上がり1Fは2位に0.4秒差。ここでは力が違ったか。
5着馬キセキは大外枠から折り合い重視で好位追走。ペースが落ち着いた向正面では行きたがる面を見せており、やはり1F12秒前後で淡々と流れるペースがベストだろう。
8着馬モズベッロは3角からマクリに入ったが、カレンブーケドールに内から張られて大外を回る形に。スムーズなら5着争いを制していた可能性は高く、上がりのかかる展開になれば上位浮上のチャンスはある。
9着馬アリストテレスは1角手前で挟まれてポジションを下げ、その後も馬群で力み気味の追走。勝負どころでは脚が残っておらず、直線は見せ場なく失速した。外目をリラックスして走れていれば掲示板内はあったかもしれない。今回も道中の運びがポイントだ。
横山武史騎手の好エスコート
【菊花賞】
火曜日に少量の降雨があったのみで馬場は乾燥状態。内外の大きな差は見られなかったが、速めの時計が出ていた。レースはタイトルホルダーが強気に先手を取りに行き、取り切ってからはリラックスして楽走。残り4Fから再度ペースアップして、全く無理のないラップで逃げ切り勝ち。2番手で60.9-64.6-59.1程度なら中盤でもっとプレッシャーを掛けるべきだっただろうが、全馬初距離となる3000mなら仕方ないか。2番手以降は位置取りの差もなし。
1着馬タイトルホルダーは折り合いが課題だったが、ハナを取り切ったことで実にリラックスした走り。序盤で体力を消費した分よりも、中盤で楽ができた分の方が大きなプラスだっただろう。横山武史騎手の好騎乗が光る勝利であった。今回は速い逃げ馬がいるだけに、控えての折り合いが課題になるだろう。
4着馬ステラヴェローチェは最終追い切りで楽をさせた割に馬体重12キロ減。吉田隼人騎手は「デキが良くないなかで頑張った」とレース後に話しており、不良馬場の神戸新聞杯の疲労も残っていたのだろう。また、レースでは4角で大外を回る形に。着順以上の評価が必要だ。
名コンビが古豪を一蹴
【天皇賞(秋)】
当週からBコースに替わって最内から3m外に仮柵が設置。綺麗な馬場状態でレースが行われ、極端なトラックバイアスは感じられなかった。レースはマイル路線で活躍するカイザーミノルが先手を取ったが、その後は落ち着いて前半1000m60.5のスローペース。本格的なペースアップも残り600mからで純粋な末脚比べとなった形だ。
1着馬エフフォーリアは残り500mから鞭を入れたダービー時の反省を活かし、今回は残り400mからの追い出し。ゴールまで脚が止まることはなく、コントレイルとグランアレグリアという2頭の強敵を抑え込んだ。横山武史騎手の修正力が素晴らしく、それに応えたエフフォーリアも実に優秀。平均ペースで流れれば、中山芝2500mも対応可能だろう。
注目は凱旋門賞馬バゴ!?
地力と適性ではグランプリ競走3連勝中のクロノジェネシスが頭一つ抜けた存在。同4連勝という偉業を達成する可能性は十分だ。3歳馬ではステラヴェローチェが不気味。Height of Fashion≒Burghclereの3×4は有馬記念にピッタリで、中山芝2500mならエフフォーリアとの差は詰まるだろう。今年はバゴ産駒の2頭に注目したい。
注目馬:クロノジェネシス、ステラヴェローチェ
※記事内の個別ラップは筆者が独自に計測したものであり、公式発表の時計ではありません。
ライタープロフィール
坂上明大
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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