ポイントは2度の急坂
京都競馬場改修のため関西圏は昨夏から変則開催。重賞の条件変更はデータ派にとって頭が痛いところ。中京ダートといえばチャンピオンズCが行われる1800mだが、変則開催によって通常なら重賞がない1900mも重賞の舞台になる。春は平安S、秋はシリウスSだ。
11月のJBC(金沢)に向け、地方競馬で多くの前哨戦が組まれ、有力馬は分散傾向。したがって今年も重賞としては小粒の印象。言い換えれば混戦模様だ。また、変則開催によってダート1900mの高額条件は以前より増えたが、それでもサンプル数は十分ではない。ここでは古馬2勝クラス以上の33レースをもとにコース傾向を中心に考える。
チャンピオンズCの1800mは正面直線部分の坂の途中からスタートするため、ダッシュを効かせにくく、ゲートを上手に出られない馬も多い。そこから100mだけゲートが4コーナー寄りに置かれる1900mは、残り400m標識付近、ちょうど坂下からスタートし、いきなり急坂が待ち構える。
2度坂を超えるコースは中山ダート1800mに近く、同じく先行有利ではあるものの、先行勢が最後の2度目の急坂を駆けあがったあと、最後の平坦部分で苦しくなる場面もある。1800mとはたった100mしか違わないが、2度の坂越えは大きなポイントになる。
騎手は和田竜二、岩田望来に注目
ここからは該当データをもとに枠番、騎手、種牡馬といった好走傾向を探っていく。
まずは枠番別成績から。正面スタンド前から一周するコースなので、枠のバイアスはそこまで大きくはないが、勝率では3枠【7-2-4-49】勝率11.3%、複勝率21.0%、7枠【7-6-5-47】勝率10.8%、複勝率27.7%が上位。このふた枠が単勝回収値も3枠245、7枠106と高い。3枠は15年7月18日のインディアT・メイショウソレイユ15番人気1着が大きく、7枠は6番人気が【3-1-1-1】とかなりの好成績。もしも6番人気馬が7枠に入ったら、試しに買ってみよう。
複勝率ベースだと、前記の7枠と8枠【5-7-5-48】勝率7.7%、複勝率26.2%がいい。外枠は距離ロスが大きいものの、1コーナーまで正面直線を目いっぱい使うコースなので、序盤の攻防がそれなりにあり、大外を不用意に振り回される場面が少ない。その分、インで揉まれる、砂を被るといったリスクが少ないという利点が際立つのではないか。外枠は抑えておきたいところだ。
このコースで目立つのは和田竜二騎手【4-1-0-8】勝率30.8%、複勝率38.5%と岩田望来騎手【4-0-2-6】勝率33.3%、複勝率50%。和田騎手はシリウスS自体も【1-1-2-4】勝率12.5%、複勝率50%と好成績。16~18年まで3年連続3着以内と相性がいい。「馬がバテても和田はバテない」などと称される和田騎手は、とにかく追いっぷりのいいジョッキー。ダートの中距離戦では和田騎手のひと押しが有効。
またこれまで重賞未勝利の岩田望来騎手もコース相性がよく、変則開催によって行われる中京ダート1900mで重賞初Vがあるのではないか。当該条件の騎乗数は少ないが、C.ルメール騎手は【2-1-0-1】。昨年のシリウスSはカフェファラオ1着、今年の平安Sはアメリカンシード2着。騎乗するようならルメール騎手を無視できない。
種牡馬別の成績をみると、ダートにしてはサンデー系が上位を占める。ゴールドアリュール【3-2-2-19】勝率11.5%、複勝率26.9%、ハーツクライ【3-0-0-15】勝率16.7%はサンデー系でもダートに強い種牡馬だが、3位以降はディープインパクト【2-1-1-9】勝率15.4%、複勝率30.8%、ステイゴールド【2-0-2-5】勝率22.2%、複勝率44.4%と芝に強いサンデー系が続く。対照的にキングカメハメハは【1-3-3-15】勝率4.5%、複勝率31.8%で連下級評価。ハヤヤッコは連軸向きだろう。芝血統がバリバリのダート血統より強いコースであることは頭に入れておきたい。
重賞は差し馬に警戒
次に脚質や距離などレース条件から好走パターンを導いていきたい。
コース解説のなかで、急坂を2度通過するコースのため、最後に脚があがる舞台でもあると記したが、基本的にはダートの中距離戦らしく先行型が強く、逃げ【6-3-1-30】勝率15%、複勝率25%、先行【12-14-11-76】勝率10.6%、複勝率32.7%。距離を意識するため、後続の仕掛けが遅れ、結果的にマイペースというケースは多い。
だが、重賞となれば、前に対するマークも自然と厳しくなる。昨年のシリウスSは中団から差してきたカフェファラオが勝ち、同位置から早めに動いたサクラアリュールが2着、さらに後ろからエイコーンが3着と差し馬勢が独占。道悪になり、レコードが記録された平安Sこそオーヴェルニュ、アメリカンシードの逃げ先行勢が残ったが、3着は差してきたマルシュロレーヌ。中団【10-12-16-144】勝率5.5%、複勝率20.9%の数字以上に重賞では評価したい。また、まくり【2-1-2-3】勝率25%、複勝率62.5%も成績がよく、3、4コーナーのスパイラルカーブを利用して荒っぽく動いてくる機動性に富んだ馬にも注意したい。
前走距離別の成績をみると、1700m【0-3-0-40】複勝率7.0%、1800m【17-15-16-196】勝率7.0%、複勝率19.7%など1900mより短い距離から来た馬が厳しい。反対に2000m【4-3-3-33】勝率9.3%、複勝率23.3%、2100m【5-2-4-31】勝率11.9%、複勝率26.2%と距離短縮組の成績がいい。
もちろん、確率には分母の違いも反映されているが、前走1800m出走馬から好走馬を絞るより、1900m超から来る馬に狙いを定めた方が効率的だろう。今年のメンバーをみると1700m組が上位人気になりそうなので、であればゴッドセレクション、ハヤヤッコを狙ってみたい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)。
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