高松宮記念1、2着のワンツーは皆無
2000年、スプリンターズSは有馬記念の前週から秋のGⅠシリーズ開幕戦にあたる4回中山最終日に移った。その00年以降、同一年に高松宮記念とスプリンターズSを連覇した馬はトロットスター、ローレルゲレイロ、ロードカナロア、ファインニードルの4頭。スプリンターズSと翌年の高松宮記念を勝った馬はビリーヴ、カレンチャン、ロードカナロア(12年スプリンターズSから3連勝)の3頭。
今年は高松宮記念の1、2着ダノンスマッシュ、レシステンシアがそろって参戦。こういったケースは00年以降で14例あるものの、スプリンターズSでもワンツーを決めたことはない。さあ今年、初の連続ワンツー決着はあるだろうか。ここでは過去10年間のうち、中山で行われた9回分のデータを使用してレース傾向について探っていく。
大型馬は要注意
まずは人気、年齢といった基本データをいくつかあげ、傾向をざっとみる。
新潟で行われた14年こそ13番人気スノードラゴンが勝つ波乱決着だったものの、中山で行われた9回は比較的1着は堅く、1番人気は【5-1-1-2】勝率55.6%、複勝率77.8%。着外2頭は11年ロケットマン(豪州)とインでどん詰まりになった16年ビッグアーサー。実力馬が普通に力を出せば、上位争いといったところだろう。
注目は9番人気【0-1-3-5】、複勝率の44.4%は2、3番人気と互角。およそ半数の4回で馬券に絡んでおり、10番人気以下【0-2-3-56】とあわせ、連下には伏兵を忍ばせておきたい。
ピクシーナイト、メイケイエールと注目の3歳馬がいるが、過去は【0-1-1-12】複勝率14.3%と苦戦。馬券に絡んだ2頭は9、11番人気。ある程度人気に支持される馬は厳しい。4歳【4-3-4-15】勝率15.4%、複勝率42.3%が主力で、5歳【3-4-2-35】勝率6.8%、複勝率20.5%、6歳【2-0-1-25】勝率7.1%、複勝率10.7%が続く。回収値100超えは4歳の複勝回収値153のみなので、穴も4歳馬が多い。人気のレシステンシアに加え、ビアンフェ、タイセイビジョンまで注意したい。
中山の重賞といえば、大きな馬が強い。大型馬が多いスプリンターとなればなおさらだろうと思いきや、このレースはそうでもない。500キロ以上は【2-2-1-42】勝率4.3%、複勝率10.6%。460~478キロ【4-1-5-25】勝率11.4%、複勝率28.6%、480~498キロ【3-5-1-29】勝率7.9%、複勝率23.7%なので、大きくなるほど成績は下がる。
レシステンシア、モズスーパーフレア、ファストフォース、ビアンフェ、ピクシーナイト、ジャンダルムなど大型馬にとっては不安材料。データから472キロで高松宮記念を勝ったダノンスマッシュが理想だろう。ただし、ここ2年は514キロのタワーオブロンドン、504キロのグランアレグリアが連勝中。500キロ台前半までは許容していい。レシステンシア、モズスーパーフレア、ジャンダルムは評価を下げない方がよさそう。
一瞬の判断が命取りになるスプリントGⅠでは、乗り替わりは【1-2-6-54】勝率1.6%、複勝率14.3%と痛い。前走が香港のため乗り替わったダノンスマッシュはこれが引っかかる。そうは言いつつ、3着は6回あるので、好走する確率は高い。なにより主戦の川田将雅騎手に戻るだけなので、過剰に反応すべきではないか。できれば継続騎乗【8-7-3-61】勝率10.1%、複勝率22.8%を狙いたい。ルメール騎手が続けて乗るレシステンシアは心強い。
伏兵候補はサマーシリーズ組から
ここからはサマーシリーズを中心に前走成績について掘り下げてみたい。
前走海外を除く、前走クラス別成績を出すと、GⅠ【2-3-0-7】勝率16.7%、複勝率41.7%が目立つが、今年は高松宮記念11着ダイメイフジのみ。同馬は除外対象。なお、前走チェアマンズスプリントだったダノンスマッシュがいるが、前走が海外だった馬は【0-0-0-7】。一見衝撃的なデータだが、このうち日本馬は17年6着ビッグアーサー1頭。ダノンスマッシュに当てはめるのは早計だろう。スプリンターズSは過去3、2着、崩れるとは考えにくい。
そうなると主要ローテは前走GⅡ【5-4-3-43】。その内訳のほとんどがセントウルS【5-4-3-42】勝率9.3%、複勝率22.2%。これをセントウルSでの着順別にみると、1着【2-2-1-4】勝率22.2%、複勝率55.6%、2着【2-1-0-6】勝率22.2%、複勝率33.3%が強力。レシステンシア、ピクシーナイトがいい。クリノガウディーの3着【0-0-0-5】は気になるものの、この組は掲示板以上が条件。ジャンダルムまでを評価、タイセイビジョン、ラヴィングアンサーは下げたい。
続いてサマースプリントシリーズ組が該当する前走GⅢ【2-2-5-54】について。ここはキーンランドC【1-1-4-31】勝率2.7%、複勝率16.2%に注目。連下級の伏兵はここから探したい。位置取り別成績をみると、キーンランドCで先行した馬【1-1-0-5】勝率14.3%、複勝率28.6%、中団だった馬【0-0-4-12】複勝率25%が好走パターン。エイティーンガール、カイザーメランジェ、ミッキーブリランテは合格。ところが逃げは【0-0-0-4】なので、メイケイエールは不安。展開のカギを握る存在だが、同脚質のレシステンシアもいるので、競馬はかなり難しそうだ。
ファストフォース、モズスーパーフレアの北九州記念組は【0-1-1-13】と苦戦傾向。好走サンプルは19年3番人気2着モズスーパーフレアと20年10番人気3着アウィルアウェイ。バラバラで傾向を見つけにくい。特にサマーシリーズで一気に出世したファストフォースは、この夏、2秒以上違う時計で連続好走と充実期を迎えただけに、その取捨は悩ましいところだ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)。
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