長距離戦らしく淡々とした展開
国内平地最長距離重賞ステイヤーズSは横山典弘騎手騎乗のオセアグレイトが先行策から、逃げるタガノディアマンテを捕らえた。ポイントは3600m戦らしい流れと中山の馬場状態だった。
3600mのステイヤーズSがハイペースで流れることなどまずない。戦前からスローペースは決定事項である上に逃げ馬が不在という組み合わせ。年によってはスローペースでも後続が距離を意識して動けないことを見越し、大逃げを打つ馬がいるときもあるが、今年はそういった馬もいなかった。
最初にハナに立ったのは好発を決めたタイセイトレイル。先行するのは阪神大賞典以来という戦歴のため、想像以上の遅い流れになった。最初の400~800mで14秒1-13秒5を記録。いくらなんでもとタガノディアマンテがハナを奪う。ここからレースは膠着状態に陥った。
1周目後半から2周目向正面後半まで約1周は13秒台ないし14秒台というラップが続いた。この間、目立った動きはなく、残り1000mからタガノディアマンテがピッチをあげた。後方にいたシルヴァンシャー、アルバート、メイショウテンゲンらはこの時点で勝負圏内から外れてしまった。最後の600mから11秒4-11秒4-12秒4と上がりの競馬に持ち込んだ。この600mからのペースアップにボスジラなど中団より前にいた馬たちが対応できず、自然と勝負は先行勢に限られていった。
こういった展開なので、オセアグレイトのイン2、3番手というポジションは理想的だった。同枠のタイセイトレイルが最初にハナにいった動きを利用して外から無駄なくその背後につけ、ボスジラをけん制してインに入った。そこから2周目4角までは静の構え。後続が追い上げようが一切動くことなく、最後だけ外に出して差し切った。
こういった最小動作で効率的に馬を走らせ、勝ちに行く作戦はまさに長距離戦のお手本。騎手が勝たせたレースといっても過言ではないだろう。
急坂に北風
横山典弘騎手は今年重賞7勝目。リーディングは20位付近でも重賞勝利数では5位。昔から勝負強い騎手ではあったが、今年はさらに円熟味を増した印象だ。7勝のうち2500m以上で3勝という点もそれを証明しているのではないだろうか。息子の武史騎手が関東リーディングトップ。これも刺激材料だろうか。息子から発奮材料をもらう父親、若々しくうらやましいものだ。
2着は序盤でハナに立ったタガノディアマンテ。後続の動きがなく、理想的に残り1000mから徐々にエンジンをふかし、残り600mで一気にスパート。直線半ばでは勝ったかと思わせるシーンを作った。菊花賞7着から新春の万葉Sを勝利、天皇賞(春)への期待が高まるもノドに疾患をかかえ、力を出せなかった。ノドの手術を2度行いながら見事に復活した。
1、2着はいずれもオルフェーヴル産駒で、人気のディープインパクト産駒ボスジラやシルヴァンシャーは見せ場すら作れなかった。距離もあるだろうが、得意の瞬発力勝負だったことを考えればもう少しやれてよかった。
ボスジラはオセアグレイトの背後と位置取りは悪くなかったものの、ラストスパートで見劣った。確かに瞬発力が問われたが、そこに予想外の雨で悪化した馬場への適性と冬の中山適性も加わった。オルフェーヴル産駒は瞬発力にも対応できるパワー型。こういった条件はもってこいだった。
また冬の中山は1角から4角方向へ強い北風が吹く。この日も強くはなかったものの、冬の中山特有の北風が吹いていた。この風が直線の急坂にプラスされるため、冬はより一層パワー型が強い。秋開催の馬場が例年ほど速い時計が記録される馬場ではなかっただけに、この冬はパワー型の活躍が顕著になるのではないか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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