父と同じく7戦無敗
かつて英雄と称されたディープインパクトが7戦無敗でクラシック三冠を達成してから14年後の夏、7月の終わりに英雄は北の大地で永遠の眠りについた。それからひと月半後、秋開催の阪神でデビューしたコントレイル。かつてサンデーサイレンスが晩年にディープインパクトを送り出したようにコントレイルも父が遺した傑作だった。
父と同じく6戦無敗で挑んだ第81回菊花賞を勝ち、父に次ぐ無敗の三冠馬となった。父の三冠制覇も見守ったグランドスワン最後の年に誕生した三冠馬。書けと言われてもなかなか書けないシナリオを馬たちはときに演出する。
だがしかし、菊花賞は決して安っぽい感動のフィナーレではなかった。それは紛れもなく死闘だった。コントレイルは戦前から福永祐一騎手が「ベストの距離ではない」と公言していたように淀の3000mという難関に苦しんだ。未体験の長距離戦ながら前半は距離ロス覚悟でどの馬も外を通るほどに荒れた芝も、皐月賞の前半で馬場を気にして進んでいかなかったコントレイルには逆風だった。
ルメール騎手の恐ろしさ
8枠からバビットを制してハナに立ったキメラヴェリテは最初の1000m1分2秒2、1周目の坂で13秒台のラップを刻み、ゆったりしたペースを作った。ディープインパクトが勝った05年は最初の1000m通過1分1秒2だった。ちなみに19年菊花賞は今年よりいい馬場状態で1分2秒4、次の1000mは1分2秒9。
一方、今年はキメラヴェリテが次の1000mの立ち上がりでラチ沿いに進路をとりながら11秒9を記録、その次の1400m通過までが13秒1とやや不安定なラップを形成。コントレイルも向正面に入ったあたりで、ペースの遅さに少しだけ行きたがる素振りを見せた。そこからは12秒半ばぐらいのペースを刻み、中盤1000mは1分2秒6。
05年は同区間1分3秒4だったように、前半突っ込んで中盤に緩むラップが菊花賞の定番。キメラヴェリテが不安定なラップながら結果的に2000mを一定のペースで引っ張ったことで、レースは消耗戦になった。最後の1000mは記録としては19年と同じ1分0秒7だが、中盤の緩みが少ない分、より厳しい競馬になった。
クリストフ・ルメール騎手は本当に恐ろしい。アリストテレスは道中常にコントレイルの背後で外につける。コントレイルの通過順7-7-5-4に対しアリストテレスは7-7-7-4。まさに妥協なきマークだった。同馬は前走、中京2200m小牧特別を途中で自ら動いてしのぎ切ったようにスタミナ型。父は福永祐一騎手を背に菊花賞を勝ったエピファネイア、母の父ディープインパクト。長距離適性はコントレイルをしのぐ。それを踏まえたメール騎手は4角から直線入り口でコントレイルと同位置にさえいれば打倒できると確信していたのだろうか。その通りのレースを実行できるからこそ恐ろしい。
先にステッキが入ったコントレイルは劣勢。距離の限界がチラつく淀のゴール前、声援を禁じられた観客も思わず声をあげる。最後にまた首を突き出して先頭を死守するコントレイル。ルメール騎手がフィエールマンの天皇賞(春)など時より見せる必殺技、ゴール前残り2、3完歩で放つ強烈なステッキを駆使して抵抗する。
適性で劣りながらも最後まで負けなかったコントレイル、まさに王者にふさわしい姿だった。併せられても抜かせない執念にコントレイルの新たな一面がみえた。敗れたアリストテレスは道中の操縦性も含め間違いなく長距離型であり、今後はスタミナを要するようなレースで買いたい。
明白になった馬場適性
4角先頭のバビット以下、先行勢は今週も壊滅。やはり強い馬に早めに来られては苦しい。その反面、強い馬がいない混戦となれば先行力は武器となる。特に4着に粘ったディープボンドはアリストテレスと同様スタミナ型であり、スローのダービー5着、消耗戦の菊花賞4着は立派の一言。同馬主コントレイルの露払い役にも見えるが、きっちり2戦とも掲示板は伊達ではない。今後別路線を歩むようなら楽しみだ。
追い込んだ3着サトノフラッグは道悪の弥生賞勝ち、セントライト記念2着。時計を要する馬場への適性をロングスパートに賭けて発揮した。同じく追い込んで掲示板にきたブラックホールなど、スタミナ型とそうでない馬が明白になった競馬でもあった。
コントレイルの歩む道
レースの後半600mは11.8-11.6-12.2で35秒6。19年36秒2を上回り、05年35秒7と同等。ディープインパクトは加速ラップを差し切り、コントレイルは最後までしのぎ切った。
似たような記録ながらゴール前の姿はまるで違う。父である英雄の後を追うのではなく、コントレイルには自身が歩むべき道がある。これから古馬との戦いがはじまる。らしさを大切にコントレイル流のチャンピオン像を追い求めてほしい。
そう言いつつも父が初黒星を喫した有馬記念への出走をつい期待してしまう。父は前を行くハーツクライを捕らえられなかったが、コントレイルには前を捕らえられる機動性がある。3歳8戦無敗となれば父が成しえなかった記録だ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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