「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

ハミルトンがニキ・ラウダの想いを乗せてモナコGP制覇 F1モナコGPを振り返る【後編】

2019 5/27 16:14河村大志
2019年モナコGPを制したハミルトンⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

地元ルクレールは残念な結果に

今年のモナコGPを前にレジェンド、ニキ・ラウダの訃報が飛び込んでいた。メルセデス、そしてハミルトンにとって特別な存在だったラウダだが、それはF1界全体にも言えることであった。

多くの人がラウダのトレードマークだった赤いキャップをかぶり、レース前には1994年のモナコでアイルトン・セナとローランド・ローランドラッツェンバーガーに向けて行ったように、ドライバーが円陣を組み1分間の黙祷が行われた。

ニキ・ラウダの黙とうをするドライバーたち

Ⓒゲッティイメージズ

それぞれラウダに想いを馳せながらドライバー達は世界で最も優雅で過酷な戦いに備える。今回のレース、ハミルトンとベッテルはラウダのヘルメットペイントを自身のヘルメットに施した。ベッテルはフェラーリ時代のデザイン、ハミルトンはマクラーレン時代のデザインで決勝に挑む。

レース序盤、15番グリッドからスタートしたルクレールは予選後のコメント通り積極的なレースをみせ、12位までポジションを上げていく。

しかし、8周目のラスカスでヒュルケンベルグのインを突くも両者接触。ルクレールはハーフスピンし、その際にガードレールに当たってしまい右リアタイヤがパンクしてしまった。パンクが原因でフロアにダメージを受けたルクレールはピットイン、このアクシデントで散らばったデブリの処理のためSCが出動した。

SCが導入されたタイミングで上位勢がピットインしタイヤを交換。ソフトタイヤでスタートした上位勢だったがハミルトン、ボッタスがミディアムタイヤを選び、フェルスタッペン、ベッテルがハードタイヤを選択した。

このピットストップでフェルスタッペンとボッタスがピットロードで接触しフェルスタッペンが2位に浮上した。この接触でタイヤにダメージを負ったボッタスは翌周に再度ピットインしタイヤをミディアムからハードに変えた。

今回のレースでのタイヤ推奨ストラテジーはソフトタイヤでスタートした場合、18周目から22周目の間でミディアムタイヤに交換するというものだった。しかしSCが導入され上位陣がタイヤを交換したのは11周目だ。

つまりこの作戦が正しければハミルトンのタイヤが最後まで持たないことになる。一方タイヤの寿命が長いハードタイヤを選択したフェルスタッペン、ベッテル、ボッタスはハミルトンに比べタイヤの寿命に余裕がある。ここからハミルトンは苦しい戦いを強いられることとなる。

15位からのスタート、さらに接触の影響で1周遅れになってしまったルクレールだったが、無線で「プッシュできるよね?」と自身とチームを鼓舞したのだ。全くあきらめていないルクレールに感動を覚えた矢先、やはりダメージの影響か22周目にピットに戻り、リタイヤとなってしまった。

バーレーンやモナコでこのシャルル・ルクレールの凄さを思い知らされたわけだが、今年はなかなか結果が伴わない。彼ならさらに成長して来年のモナコに帰ってきてくれるはずだ。1931年以来の快挙は来年以降に持ち越しとなった。

限界の中でのバトルを制したハミルトンが今季4勝目

上位勢で唯一ミディアムタイヤを選んだハミルトンはペースが上がらず、2位以下を突き放すことができない。寿命がハードタイヤより短い代わりにハードタイヤよりグリップ力があるはずのミディアムタイヤを履いたにも関わらず、ハードを選択した後続と同じタイム、あるいは遅いタイムでの周回を強いられた。

タイヤが厳しくなりペースも上げることができない。かと言って、ピットインすれば優勝を手放すことになるという窮地に追い込まれたハミルトン。さらに残り10周で2位のフェルスタッペンがエンジンモードを変更し、パワーを上げてハミルトンにプレッシャーをかけていく。

残り3周のヌーベル・シケインでフェルスタッペンがハミルトンに仕掛けるも2台は軽く接触。お互いダメージはなかったものの、2台の差が少しだけ広がった。タイヤに苦しんだハミルトンだったが最後の最後までフェルスタッペンの猛攻を凌ぎきり今季4勝目、通算77勝目を記録した。

2位でフィニッシュしたフェルスタッペンだったが、ピットロードでボッタスとの接触で5秒加算のタイムペナルティを課され、最終的に4位という結果となった。2位にはベッテル、3位にボッタスが入り、開幕から続いていたメルセデスのワンツーフィニッシュがついに途絶えることとなった。

モナコGPの結果ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

レース中の無線ではタイヤを変えたいと何度も訴えていたハミルトン。抜くポイントがないモナコとはいえ、それでもタイヤに苦しむ中で60周以上トップを守り続けた。

今回の優勝は自分のためではなく、亡きラウダに捧げる特別な勝利である。ハミルトンのドライビングテクニック、完成度の高いマシンのおかげであることはもちろんだが、自分ではなく他の人のために頑張る時、人間は100%以上の力を発揮できるのかもしれない。多くのことを教えてくれた師に捧げる優勝はハミルトンの記憶の中に永遠に刻み込まれることだろう。

ラウダを大きなリスペクトをしているベッテルもまた今季最上位の2位を獲得した。入院中話すことが困難だったラウダのために、電話ではなく手紙を送っていたベッテル。いち早くラウダと同じデザインのヘルメットを用意しモナコを戦った。

プレッシャーに襲われ、レース中は常に苦しい状態を強いられながらも最後まで諦めずに優勝したハミルトン。戦闘力が劣るマシンながらも最後まで諦めず今季のベストリザルトを記録したベッテル。どんな時も絶対に諦めなかったニキ・ラウダの意思が今も受け継がれていることを再確認した表彰台だった。

ホンダPU搭載車4台が入賞

ホンダエンジンを搭載するウィリアムズホンダとロータスホンダが1位から4位を独占した1987年のイギリスGP。それ以来の快挙が2019年のモナコGPで達成された。マシンとの相性もよく、予選からパフォーマンスを発揮したレッドブルとトロロッソは勢いそのままに決勝でもペースを落とすことなくゴール。

タイムペナルティーを受けたものの、最後の最後までハミルトンを追い回したフェルスタッペンが4位、レッドブル移籍後最高位を獲得しファステストラップも記録したガスリーが5位、トロロッソのクビアトとアルボンも予選順位からポジションを上げ見事入賞した。

今回フェルスタッペンが優勝争いを行なったが、タイヤに苦労していたハミルトン相手にも直線で離されてしまった。直線が短いモナコでも直線の速さの差は大きいとメルセデスに見せつけられた格好だ。

次戦のカナダのジル・ビルヌーブサーキットはロングストレートとコーナーを組み合わせたストップ・アンド・ゴーサーキット。モナコとは違い直線スピードが武器になるサーキットでホンダPUがどのくらいのパフォーマンスを見せてくれるのかにも注目したい。