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17歳ザギトワの「引退騒動」が示したフィギュア女子の若年化

2019 12/16 15:40田村崇仁
アリーナ・ザギトワⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

衝撃の活動停止表明から一転否定

フィギュアスケート女子で2018年平昌冬季五輪金メダルのアリーナ・ザギトワ(ロシア)が12月13日、ロシアのテレビ番組で競技活動を停止すると表明した。17歳の衝撃的な発言は事実上の引退宣言とも受け取られ、世界を駆け巡ったが、15日に自身のインスタグラムで「私は活動休止も引退するつもりもありません。休止すること、引退することは、一切考えておりません」と一転して否定するコメントを掲載。五輪女王の「引退騒動」はさまざまな臆測が広がっている。

ロシアの新世代「3人娘」が台頭

ザギトワは15歳で出場した平昌五輪で完成度の高い演技を披露し、世界選手権2連覇中だったエフゲニア・メドベージェワ(ロシア)との激戦を制して五輪史上2番目の若さで頂点に立った。

だが今季は新世代の「ロシア3人娘」が台頭し、状況が一変した。今年3月の世界選手権で頂点に立ったものの、同じロシア勢でトリプルアクセル(3回転半)や4回転ジャンプを武器とする16歳のアリョーナ・コストルナヤや15歳のアンナ・シェルバコワとアレクサンドラ・トルソワの3選手がグランプリ(GP)シリーズの表彰台を席巻。今月上旬にイタリアのトリノで行われた上位6人によるGPファイナルでは屈辱的な最下位の6位に沈み、波紋が広がっていた。

ザギトワはテレビ番組で今月末のロシア選手権に出ない意向を明言。「ロシアのスケート界は若年化が進んでいる」とし、新世代の台頭が決断の背景にあることを示唆したが、インスタでは「常に表彰台の一番上に立ちたいですし、さらにハードなトレーニングをする必要があります。今もなおロシア代表の一員であり、ロシア代表として国際大会に出場できます」と前向きな言葉を並べ、活動継続に意欲も示した。

平昌から身長7センチ伸びて成長痛

ザギトワは平昌冬季五輪で栄光に輝いた当時は155センチだった身長が162センチまで伸び、体の変化で成長痛にも悩まされてきたという。国際スケート連盟(ISU)はシニアの年齢制限でシーズンに入る7月1日までに15歳以上と定めているが、4回転時代に突入し、次世代の台頭でモチベーションの低下を指摘する声もあった。

指導を受けるエテリ・トゥトベリゼ・コーチは「ロシア3人娘」も同じ門下生。フリーのみで争われた10月のジャパン・オープンではほぼミスなしの演技を見せたが、4回転を4度着氷したトルソワに屈し、厳しい現実を突きつけられていた。

けがのリスクもある4回転ジャンプを身につけるなら小柄な体形でより若い年齢が有利とされ、ザギトワ自身が抱える葛藤や悩みも明らかにしている。

トリノ五輪金の荒川静香は23歳

2006年トリノ冬季五輪金メダルの荒川静香は24歳の史上最年長で女王に輝いた。2010年バンクーバー冬季五輪銀メダルの浅田真央は当時19歳。金メダルの金姸児(韓国)も19歳だった。1998年長野冬季五輪では「天才少女」タラ・リピンスキー(米国)が15歳8カ月の史上最年少で金メダリストとなったが、近年はジャンプ偏重のルール改正もあって格段に若年化が進んでいる。

フィギュア女子五輪成績

ロシアで女子は体形が変化する前の10代半ばごろまでにピークを迎える選手も多く、15歳で出場した2014年ソチ冬季五輪で人気を集めたユリア・リプニツカヤは2017年に拒食症を理由に引退した。フィギュア界のサイクルは想像以上に早いのが現実だ。

今後は大学進学でコーチの道も

ザギトワは今後の将来設計として競技と並行して大学に進学し、コーチを目指す意向も示した。インスタでは具体的なプランまで読み取れないが、ファンに向けては「コーチの皆様、パートナーの皆様、ファンの皆様からの素晴らしいサポートとともに、私のフィギュアスケート人生を続けていきます」と発言している。

平昌五輪後は以前から気に入っていたという秋田犬が贈呈され、勝利の意味を込めて「マサル(勝る)」と名付けられて日本でも大きな話題を集めた。フィギュアスケートは当然ながらジャンプが全てでなく、表現力や演技の完成度も含めて勝負できる。

五輪女王が失意から立ち直り、一時的な休養を経てリンクでファンを魅了する演技を再び見せる時が訪れることを願いたい。

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