クリスマスイブに防衛戦「キーポイントはスピード」
プロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(31=大橋)が24日、東京都内で会見し、12月24日に東京・有明アリーナでIBF・WBO1位サム・グッドマン(26=アイルランド)と防衛戦を行うことを発表した。
WBCとWBOは4度目、WBAとIBFは3度目の防衛戦。当初はルイス・ネリ(メキシコ)を倒した5月6日のリング上にグッドマンを上げて次戦の相手候補として紹介したが、グッドマンが7月のノンタイトル戦を優先したため9月に戦うのは難しく、井上は9月3日に代役のテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)と防衛戦を行って7回TKO勝ちした経緯がある。
最近は年2試合ペースで戦っており、年3試合を消化するのはスーパーフライ級時代の2017年以来7年ぶり。「調整段階において良い試合数。12月も問題なく良い調整ができる」と不安がないことを強調した。
パワーのあるドヘニーに体負けしないよう、前回は前日計量(リミット55.34キロ)をクリア後に体重を7.4キロと大きく戻したが、今回はスピードのあるグッドマンだけに速さを重視して6キロ程度に抑える意向。「グッドマン戦のキーポイントを挙げるならスピード。前回ほど体重を戻すことなくスピードを意識したボクシングをやりたい」と明かした。
その上で「今年を締めくくるという意味でインパクトのある試合をしたい」と意気込みを示した。
左のボディ打ち得意のグッドマン
グッドマンは19戦全勝(8KO)と無敗を誇る右ボクサーファイター。2022年5月には日本の富施郁哉(ワタナベ)と戦ってダウンを奪われながらも判定勝ちし、IBFインターコンチネンタルスーパーバンタム級王座を獲得した。
2023年3月にはテレンス・ジョン・ドヘニーに判定勝ち、同年6月にはIBFスーパーバンタム級挑戦者決定戦でライース・アリーム(アメリカ)に判定勝ちし、挑戦権をつかんだ。
一発の破壊力はないが、井上より4センチ高い169センチのスラリとした体躯からスピーディーなパンチを放つストレートパンチャー。左のボディ打ちもうまい。2023年10月に判定勝ちしたミゲル・フローレス(アメリカ)戦では左ボディフックでダウンも奪っている。
オンラインで会見に出席したグッドマンは、今年7月のチャイノイ・ウォラウト(タイ)戦で痛めた左拳についても「状態は戻っている」と断言。「4団体統一王者はボクシングを始めた頃からの夢。東京まで行って倒れることは考えていない。今までやってきたことをぶつける」とベルトへの執念をにじませた。
ⒸLemino/SECOND CAREER
モチベーションは「前戦の自分を超える」
グッドマンは2団体で世界1位にランクされるボクサーだ。侮れない相手であることは間違いない。
しかし、ノニト・ドネア(フィリピン)やスティーブン・フルトン(アメリカ)、ルイス・ネリ(メキシコ)ら世界中の猛者を倒してきた井上の相手として迫力不足は否めない。ドヘニーのような一発強打の怖さもなく、井上が「非常にまとまった選手」と表現したように、高いレベルにはあるものの突出した特徴がないのだ。
会見の中で「相手が不足と言われましても、ランキング1位の選手なんで、このベルトを守っていく中では避けられない一人」と歯切れの悪いコメントをした。各統括団体は9カ月から1年の間にランキング1位の選手と戦うことを義務付けており、指名試合を拒否すればベルトを剥奪される可能性もあるため、戦わざるを得ないのだ。
常に強い相手を求めて戦ってきた井上も、4団体統一王者となった今では自分より強い相手を探す方が困難。グッドマンに負けるシーンは想像しにくく、怖いのは油断と慢心だけと言っても過言ではない。
「前戦の自分を超えることをモチベーションにしているので問題ない」と自らに言い聞かせるように話した通り、井上の敵は自分自身。自らを厳しく律している限り、モンスターの防衛は不動だろう。
グッドマンへの忠告で決戦ムード高揚にも一役?
会見の最後、司会者が締めくくろうとした瞬間、井上自らマイクを持って「いいですか」と遮り、画面の向こう側にいるグッドマンに訴えた。
「ドヘニー戦が“冴えない”という言葉をもらいましたが、ドヘニーが塩試合に徹したから冴えない試合になってしまったので、グッドマンは熱い試合をする意気込みで日本に来てもらいたい」
実はグッドマンが井上vsドヘニーの試合を見ながら「冴えない終わり方だな」と発言する映像がYouTubeにアップされており、井上がそれに呼応した形。「冴えない」という表現が許せなかったのだろう。やや気色ばんだ口調だった。
前回のドヘニー戦はダウンシーンのないまま、パンチを受けて腰の辺りを押さえながら痛がったドヘニーが戦意喪失したため7回16秒TKO勝ち。不完全燃焼に終わったのは、ドヘニーが積極的に攻め込まずディフェンシブな戦い方に徹したからだ。
今や世界中にその強さが知れ渡ったモンスターに対して、真っ向勝負を挑む怖いもの知らずは少ない。たとえ負けても12回判定まで持ち込めば評価が上がる可能性もあるほどだ。
必然的に「負けない戦い方」「倒されない戦い方」をするボクサーは増える。そして、逃げる相手をノックアウトする難しさは井上本人が一番よく分かっている。だからこそ、今回はスッキリとしたKO勝ちをしてファンを喜ばせるために、井上は暗に「逃げるな」というメッセージをグッドマンに送り、釘を刺したのだ。
さらに言えば、評価の高くないグッドマンとの試合はドネア戦やフルトン戦、ネリ戦などに比べると、もうひとつ盛り上げらない懸念もある。もしかしたら自ら挑発的な発言をして決戦ムードを高めようという算段もあったのではないか。ハートは熱く、頭は冷静な統一王者なら、そんな計算があったとしても驚けない。
クリスマスイブ決戦は勝つか負けるかではなく、井上が何回に倒すかが焦点。会心のKO勝利こそ、モンスターサンタからファンへ最高のプレゼントとなる。
【関連記事】
・井上尚弥の今後を勝手に予想、2025年に中谷潤人を倒してメイウェザー超え!?
・井上尚弥vsドヘニーをデータ解析、今後はディフェンシブに戦う挑戦者が増える?
・ネリ撃沈の井上尚弥、次戦相手候補サム・グッドマン、アフマダリエフの実力は?