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【B2】超攻撃型チームに変貌したバンビシャス奈良の「成長痛」

2020 2/29 11:00カワサキ マサシ
バンビシャス奈良ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

100点ゲーム連発、7連勝中6試合は90点以上

バンビシャス奈良が、100点台連発の刺激的なゲームを見せている。バスケットボールは得点が多く入るゲームであり、ゴールシーンが見どころのひとつ。1クオーターが12分間のNBAでは100点越えのスコアで決着するのが当たり前だが、国際ルールに則って1クオーターを10分間で行うBリーグでは70~80点台が一般的。そのなかで今季の奈良は、ここまで100点超えのゲームを5回も演じている。1試合平均得点も昨季の71.9から、今季は84.2と12点以上もアップした。

奈良に革新的な変化をもたらしたのは、今季から新たに就任したクリストファー・トーマスヘッドコーチ(HC)。昨季までの奈良のオフェンススタイルは、攻撃権が移ると、まずは司令塔のポイントガード(PG)にボールを託し、PGは前線へとボールを運びながら、サイズはあるが機動力に欠けるビッグマンの外国籍選手の上がりを待つ。そしてビッグマンが相手ゴール付近に到達すると、そこからセットオフェンスを展開するのが基本パターンだった。

トーマスHCは、これを一新。攻撃権を得たら素早く相手コートにボールを進め、手数をかけず速い展開でシュートにまで至るスタイルを奈良に注入した。

バンビシャス奈良のクリストファー・トーマスヘッドコーチⒸSPAIA

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シーズン序盤は60点台以下のスコアで終わるゲームもあり、10月には5連敗するなど苦戦した。ところが11月半ばから、攻撃が覚醒。11月12日から12月8日にかけて7連勝を記録し、そのうち1試合で100点をあげ、90点超えのハイスコアゲームは6試合。序盤のチームは昨季と一変した攻撃スタイルの吸収に時間を要したが、それを乗り越えたところで一気にブレイクしたのだ。そうなり得た要因を、トーマスHCはこう語る。

「時間を経るごとに多くの選手がチームに貢献できるようになり、今では全員がチームに貢献できる状態になってきました。これは選手たちが勝利に向けて献身的に働いていることの表れで、それを正しく行うことを彼らは実践している。まだこれが終わりではないので、今後もシーズンを戦いながら、成長を続けていきます」

前線へのボール運びをポイントガードに限定しない

速いバスケを展開するうえで、トーマスHCはボール運びの役割をPGに限定しない。PGにボールを預けてプレーの組み立てを任せるより、複数のボールハンドラーを用意して、前にボールをプッシュすることを最優先するのも特徴だ。

「どの相手と戦っても我々のスタイルを貫くのに、ボールハンドラーがひとりでは厳しいです。ボールをハンドリングすることはもちろん、プレーを作れる選手が複数必要。そのなかではPGが本職の西裕太郎、横江豊だけではなく、外国籍のアンドリュー・フィッツジェラルド、グレッグ・マンガーノ、それからシューティングガード(SG)の井手勇次、松本健児リオン、スモールフォワード(SF)の本多純平の7人がボールハンドリングを任せられ、奈良のオフェンスの流れを作れる選手です。それが速いバスケットボールを展開するのに、大事な要因なのです」

実際に試合では攻撃権を得ると、PGより前にいる選手にボールが渡り、相手の守備陣形が整う前に敵陣に進入しているシーンが当たり前のようにある。このスタイルはPGが本職である者にとって、混乱はないのか。今季から奈良に加入した西にそう質問をぶつけると、彼は笑顔で首を横に振って答えた。

バンビシャス奈良の西裕太郎選手ⒸSPAIA

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「難しさは、まったくないですよ。このチームは全員にシュート力がありますし、僕もボールを運ばずウイングに走ってシュートや、そこから切り込むなど、プレーに多くのバリエーションがある。個性を持った選手が多く、みんなも特徴を生かせています。今の走るスタイルは難しさより、バスケットがもっと簡単になってきていると感じています」

トーマスHCが持ち込んだポジティブなカルチャー

本多は、バンビシャス奈良が誕生した2013年に入団した中では唯一の生え抜き選手。そんな彼に今季のチームの変化について訊ねると、手応えのある表情でこう話してくれた。

「過去のHCはそのときの選手の顔ぶれによって、最適なスタイルを選択してくれていました。今までのHCがどうというわけではないので、その点を誤解してほしくないのですが、トーマスHCは物事をはっきりと伝えてくれる。それだからチームがやるべき方向性を全員が理解して、みんなが気持ち良くプレーできています。トーマスHCは常に前向きで、チームの雰囲気は本当にいい。今のムードはトーマスHCが持ってきたカルチャー。HCがいてこそ、この雰囲気になっているのだと思います」

バンビシャス奈良の本多純平選手ⒸSPAIA

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続いてトーマスHCがチームに求めているものを、どう感じているかと問うた。

「やはりもっと速い展開でボールをプッシュして、チャンスがあれば積極的にどんどんシュートを打つことでしょう。トーマスHCは、100点くらいのスコアを目指していると思います。そこでHCは『そうなると相手の攻撃回数も増えるので、多少失点が増えるのはやむを得ない。できるだけ相手に確率の悪いシュートを打たせて成功率を下げ、こちらの展開に持っていく』と言ってくれています。それが浸透してきていることも、感じています」

2月に急失速、トーマスHCの手腕に注目

しかし奈良は2月に入った途端に急失速し、2月1日の東京EX戦から23日の熊本戦まで8連敗を喫している。シーズンが折り返しを過ぎ、奈良への相手チームの研究、対策が進んできたことが原因のひとつ。一昨季はB3降格がチラついたチームだったが、今季はこの8連敗まではワイルドカードでチャンピオンシップ進出を現実的な目標にできる位置にいた。現在はその距離が開いてしまっているが、現状をどう乗り越えるのか。トーマスHCは言う。

「まずはシュートの精度を上げることが、課題だと思っています。負けている試合と勝った試合の明確な違いは、3Pの成功率です。勝つときは高い確率で3Pが入っていて、負けた試合はそれが低い。エクストラパスを出すなどでスペースを作り、オープンな状態で選手がボールを受けて、正しくシュートを打てるようにしていかないといけない。これからもそういう練習を続けて、自信を持って決められるようにやっていきます」

実際にここまで勝利した17試合中11試合の3P成功率が40%以上で、そのうち50%を超えた試合が5試合もある。ところが2月の8連敗中は7試合で3P成功率が40%以下に終わり、2月23日の熊本戦では12%にまで低下した。 チームスタイルを一新したゆえ、成績に大きな波があるのは致し方のないことかもしれない。今はいわば、さらに伸びるための“成長痛”に見舞われている時期だともいえるだろう。「今季は土台を築き上げるシーズン」と語るトーマスHCが、これからどんな手腕を振るうかに注目していきたい。