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【バスケ女子日本代表】国際強化試合でベルギーに連勝 MVP林咲希が自分のスタイルを掴む

バスケ女子日本代表の林咲希Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

【第2戦前半】林咲希の3pで日本が流れを掴む

来年の東京五輪に向けて、女子日本代表の国際強化試合が開催された。相手は、昨年スペインで行われたワールドカップでベスト4に入ったベルギー。GAME1は日本が3p成功率56.3%で優位に試合を進めて、91-75で勝利した。

続く第2戦。日本は#14本川紗奈生のゴール下キックアウトから、コーナーに陣取っていた#0長岡萌映子が3pを沈める。さらに6-4から#8髙田真希の好守備でボールが浮いたところを、#15本橋菜子が反応してスティール、ファストブレイクを成功させて4点リードする。ここでベルギーが選手入替をしながら流れを奪おうとするが、逆に日本は#52宮澤夕貴が3pを決め、続けて左手でレイアップも沈めて得点を重ねる。さらに長岡も貢献し、9点までリードを広げた。

タイムアウトを挟んでも、ペースは日本。途中からコートに入った#27林咲希が相手をかわして3pを沈めるなど、9点リードで1Q終了した。

試合開始前の女子日本代表集合写真Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


2Qに入ると、林が最初のポゼッションで幸先良く3pを沈め、#11谷村里佳もそれに続く。ベルギー#22ハネ・メスタフにシュートを決められるが、日本は#3馬瓜ステファニーがバスケットカウントを決め、セカンドチャンスから#29梅沢カディシャ樹奈、さらに林と梅沢のコンビプレーでリードを20点まで広げ、ベルギーは早くも前半2回目のタイムアウトを請求することとなる。

タイムアウト後、ベルギーに流れを一度渡してしまうが、ここで日本は選手を総入れ替えさせて、五分の戦いに戻す。この流れは変わらず、44-31で日本がリードして前半を終えた。

【第2戦後半】ミスもありながら日本はベルギーに勝利

後半、日本は序盤からファウルが重なり、本橋から本川へのパスが乱れてアウトオブバウンズに。ここで日本ベンチが動く。#13町田瑠唯、林をコートに入れて流れを変えようとするが、ベルギー#35ジュリ・ヴァンローの3pなどで、6点差まで詰められる。

日本はベルギーの流れを断ち切るためにタイムアウトを請求。試合再開後、エンドラインの林から町田へのパスを、ベルギーにスティールされるが、奪われた町田がボールを奪い返す。オフェンスリバウンドから谷村が3pシュートを沈めて、ベルギーに向きかけた流れを食い止めた。しかし、ベルギー#42ヤナ・ラマン、#6アントニア・デラーレに得点をされて、再び5点差まで差を詰められる。

しかし、ここで林が3pを沈め、直後に好守備を見せたことで流れを引き寄せる。そして、梅沢のスティールでボールを奪うと、馬瓜がコーナーから3pを沈めて、11点リードに。その後ベルギーがチームファウルを重ねて、日本は確実にフリースローで得点を重ねることができ、リードを14点に広げて3Qを終える。

試合開始前スタート5の円陣Ⓒマンティー・チダ

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4Q、ベルギーのヴァンローに連続3pを許す場面もあったが、#52宮澤夕貴が3pを入れると、林もコーナーから3pを決める。続けて、高田のレイアップ、林がスティールからファストブレイクを成功させて、リードを18点に。

タイムアウトを挟んで、#32ヘレン・ナウフラースらに得点を許すものの、84-71で試合終了。日本がベルギーを下し、親善試合を2連勝とした。

代表戦で活躍するもシーズン中は迷いが消えなかった林

日本はベルギーに2連勝した。2試合連続で2桁得点を達成した林咲希は、大会MVPを獲得。第1戦は3p5本を含む19得点、第2戦も3p5本を含む17得点。文句なしの活躍を見せた。

突如現れたニューヒロインのように思うかもしれない。実際、会場に配布されたパンフレットでも、注目選手としては扱われていなかった。

林は学生時代に実績を残している選手である。精華女子高校を卒業後、白鴎大学に進学し、チームの得点源として、2年生、3年生ではインカレ準優勝、4年生の時にはチームを優勝に導く。ユニバーシアードも2回出場し、2017年には主力メンバーとして準優勝に貢献した。アウトサイドのシュートも確実性があり、1対1からのアタックも抜きん出ていた。

学生時代の実績を引っ提げ、Wリーグの名門JX-ENEOSに入団するが、1年目は27試合に出場して平均得点4.28、昨季は4.1と個人成績を落としていた。

昨季Wリーグ開幕戦の時、林はプレーに迷いを持っていた。

「自分の持ち味が何かを考え過ぎているのは確か。リングにアタックしていかないといけない。セットプレーの中で、こうしなくてはいけないというのが無意識にある。自分が考えすぎなのかもしれない。チームは全然やれと言ってくれているので、そこで出来ていないのは、自分が悪いのかな」

開幕戦でチームは勝利したものの、林は不完全燃焼だった。

「みんな自分の持ち味を知っているけど、期待に応えられていない。もう少し点を取っていかないといけない。タクさん(渡嘉敷来夢)とかに点を取らせようという気持ちもあるかもしれない。タクさんが出ていればリバウンドをたくさん捕ってくれるので、シュートをどんどん狙っていこうかと思っているが、『ミスしたら』というのがある。2年目なので、もっとアピールしていかないといけない」

このように決意して、Wリーグ2年目を迎えていた林。しかし、プレータイムは伸びない状況が続いた上に、足首の負傷で試合に出場出来なくなる。その後、戦列復帰するが、試合ごとでパフォーマンスが安定せず、そのままシーズンを終えていた。

記者会見上の林咲希Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


皇后杯決勝の時でも、林の出場時間はわずか5分。4Q残り5分からの出場で、しかも大きくリードした展開だった。チームは皇后杯6連覇を達成した中、試合後にマイクを向けられた林は、チームの優勝は嬉しいとしたが、表情や声は冴えなかった。

「出場すればシュートは打つと決めていた。チームが勝って嬉しいし、自分の課題はわかっている。そこに悔いは無くて、もうやるだけですかね。悔しいが、大会を通じて学ぶことが多かった。できていないのは自分だから。試合に出られないだろうなというのはある。極めていかないといけない」

林の迷いは、消えていなかった。しかし、林に救いの手を差し伸べる人物が現れる。日本代表トム・ホーバスHCだった。

「自分のスタイルはこの2試合で掴めた」林咲希

3月のWリーグファイナル後、林は今年度の代表候補「プール」入りをかけた選考会に臨んでいた。非公開で3日間行われ、初日、2日目と良くなかったが、3日目でシュートが入り、林は見事代表候補入りを果たしていた。

Wリーグでは怪我などで出場機会に恵まれないまま終えていた林は、メンタル面で不調だったと明かす。

「一回落ち込んだ時もあったが、メンタルで切り替えられた。トムさんは大学生の頃から気にかけてくれて、今季試合に出場できていなかったが『シュートが入るから』と3日間の選考会に呼んでくれた。選考会でも事前準備がうまくいかず、メンタルは良くなかったが、3日目でシュートが入り、バスケが楽しいと思えた」

トム・ホーバスHCは、林の持ち味をしっかり把握していたようだ。林はベルギー戦の2戦で10本の3pを決め36点獲得し、MVPとなった。連勝への貢献度が高く、得点を挙げたことも素晴らしいが、それ以上に3pを積極的に打てたことも評価したい。

「海外のチームと試合をする場合、3pを沈めることは重要になる」

高さでは世界で勝負できない日本は、アウトサイドの得点が求められている。“ストレッチ4”と呼ばれる戦術で、4番ポジション(パワーフォワード)や5番ポジション(センター)の選手にも3pシュートを打たせている。高さで劣る分、アウトサイドシュートの精度が重要になってくるのだ。

「Wリーグで試合をする場合、サイズが小さいのでぴったりマークされるが、海外勢はそこまでついてこないので優位。走るのは得意だから」

林は、ボールを持っていない時でも、ハードワークをしていた。そして、自分がパスを受けやすいポジションに移動し、前段で触れたとおり結果をきっちり残している。

「前へというのも大事だが、落ち着かないといけない。シュートを打つ時も、今打たないといけない、ではなくて、今打てるからこの1本に集中しよう、と自分の世界を毎日作って、シュート練習をしていた。そのおかげで本番でも自分の世界を作ることができた」

林は、しっかり自分の世界を作って臨んでいた。リーグ戦で見せていた迷いは消えていた。

コート上を走る林咲希Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


「3pを止められれば、ドライブにもいかないといけない。ドライブは課題なので、練習で覚えていかないといけない」

そう課題もしっかり掴んでいる。しかし、東京五輪の日本代表はまだ選考の途中だ。

「この2戦で自分のスタイルは掴めた。藤高(三佳)さんも3pを決めているし、今は選考会だから」

この2戦で結果を残したからと言って満足してはいられない。林は、この試合までオリンピックは見えていなかったと話していたが、今回の活躍で世界への扉が開けてきた。これから1年、林は日本のエースシューターになるため、ここで掴んだスタイルをさらにジャンプアップさせていくだろう。