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なぜマスターズ・トーナメントに多くのゴルファーが憧れるのか 球聖ボビー・ジョーンズが残した名手の祭典

2020 4/9 06:00akira yasu
イメージ画像ⒸKatherine Welles/Shutterstock.com
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ⒸKatherine Welles/Shutterstock.com

名手たちの集まり

ゴルフの4大メジャー選手権のひとつであるマスターズ。毎年春にアメリカ合衆国のジョージア州で開催される長い歴史を持つ大会だ。今年は4月9日に開幕する予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、残念ながら11月(12日から15日)に延期となってしまった。

このマスターズ・ロスを埋めるべく、多くのゴルファーが憧れるマスターズという大会の魅力について、改めてご紹介していきたい。

マスターズがはじめて開催されたのは1934年。当初、大会名はマスターズという名称ではなかった。

マスターズを企画したメジャー7勝の球聖ボビー・ジョーンズの周囲の人々が大会を絶賛。「ザ・マスターズ(名手たちの集まり)」と名付けてはどうかと提案したことで、1939年の第六回大会から「マスターズ・トーナメント」と呼ばれるようになった。

ゴルフの大会というよりも祭典という側面を持っているマスターズは、招待資格を得た選手には招待状が送られる。出場者は大会に臨む選手であり、祭典の賓客でもあるということだ。

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オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ

マスターズは他のメジャーとは違い、常に同一コース「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」で開催される。ツアー選手だけでなく世界中のゴルフファンが憧れるようになったのは、1956年のテレビ中継が始まってからだと言われている。ゴルフファンは、ブラウン管越しの美しいコースに目を奪われた。

メジャー18勝、マスターズ6勝のジャック・ニクラウスは、オーガスタのパー3の12番ホールを「メジャーの中で最もハードなホール」と述べている。実際、12番ホールは数々のドラマを生んだ。

2016年大会の最終日、首位を快走していたジョーダン・スピースがグリーン手前の池に2度入れて、7を叩いたシーンを覚えているゴルフファンは多いのではないだろうか。スピースはこの7が響いて優勝を逃している。

グリーンは距離こそ短いものの奥行きが狭く、手前は池。何より風が読みにくい。12番ホールのグリーンの下には、冬はヒーター、夏はクーラーになるパイプが敷き詰められている。日当たりが悪いうえグリーンの管理がしにくく、人工的な策を講じないと美しさを保てないからだ。

他にも1500本以上のアザレアが植栽されたホールがあるなど、美しさにこだわったコースでありながら、選手を苦しめる魔女の顔をのぞかせる。そんな特有のテイストが、オーガスタ・ナショナルの魅力を増大させているのだ。

グリーンジャケット

マスターズの表彰式では優勝カップを授与するようなセレモニーはない。オーガスタ・ナショナルの会長が「私たちの新しいメンバーとなる君に、メンバーの証となるグリーンジャケットを着てもらうことにしましょう」と言い、勝者に前年の勝者がジャケットを贈る(着せる)のが習わしだ。今季の勝者には、昨季勝者のタイガー・ウッズがジャケットを着せることになるだろう。

このグリーンジャケットは、マスターズの勝者だけが自由に出入りすることができる、チャンピオンズルームで大切に保管されている。歴代の勝者たちは、オーガスタに訪れた時にだけ着用することができるのだ。

ただ、マスターズ勝者は次年度のマスターズまで1年間だけ持ち出しが可能。2013年勝者のオーストラリア出身のアダム・スコットは、地元の大会に出場する時に着用したという。タイガー・ウッズもジャケットを身にまとうことを噛み締めた選手のうちの一人だ。「一度着たら脱ぎたくなかった。勝ったその日、ジャケットを着たまま寝た」らしい。

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「1日でも多くここでプレーしていたい」

2011年と2013年にマスターズに出場した藤田寛之は、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳(みたむら・しょうほう)氏の著書『マスターズ その魅力と豆知識』の中で次のように語っている。

「超名門クラブであるオーガスタは権威や伝統をひけらかすのではなく、むしろ選手たちがまるでその家に招待されて歓待を受けるという空気がありました。ですから、オーガスタの門に入るまでの『どうしよう。不安だ』という気持ちがクラブハウスに入ったとたんに吹き飛びました。(中略)コースに出て練習ラウンドをしても、試合で戦っていても、パトロン(観客)は無名の僕にまで温かい拍手をしてくれる。ずっとここにいたいな、1日でも多くここでプレーしていたいな、と思ってしまうんです」

長年マスターズを取材している三田村氏は同著で「この言葉にマスターズの魅力が集約されていると思う」と述べている。

マスターズ・トーナメントのテーマソングの最後の歌詞は「毎年思い出すたびに懐かしい ヒッコリーシャフトの伝説 ボビー・ジョーンズ」。ゴルフクラブのシャフトが木製の時代に球聖と呼ばれる人物が築いた、ゴルファーなら誰しもが憧れるゴルフの祭典。それがマスターズだ。

参考書籍(電子):三田村晶鳳著「マスターズ その魅力と豆知識」

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