1年目は盗塁王にセ・リーグ新人最多安打の大活躍
2018年ドラフト直後の虎党の厳しい声を覚えているだろうか。外れ外れ1位で大阪ガスから入団した近本光司(25)に、誰がここまでの成績を予想していたか。「すいませんでした」と素直に頭を下げなければいけない虎党は無数にいるだろう。だが、結果よければ全てよし。ルーキーでNPB史上2人目の盗塁王に輝いた近本の2年目に、多くのプロ野球ファンが注目している。
春季・宜野座キャンプから1軍組に抜擢され、そのままオープン戦を通じて存在感を発揮。開幕戦には1番・中堅でスタメン出場し、終盤に同点適時三塁打を放つデビューを飾った。その後はスタメンを外れることもあったが、何とかコンデイションを維持。球宴でのサイクル安打や、長嶋茂雄氏のルーキーイヤーを上回る159安打を記録するなど記憶にも記録にも残る成績でファンを魅了した。
だからこそ、周囲が口にするのは「2年目のジンクス」。どんなに平静を装ったとしても、意識しないわけにはいかないだろう。
2020年1月に大阪市内で行われた「第63回関西スポーツ賞」の表彰式では、36盗塁でのタイトルを讃えられ特別賞を受賞。同じ場で功労賞の前関学大アメリカンフットボール部監督の鳥内秀晃氏(61)と対面した際には、ユニークなエールをもらった。
近本も関学大出身で互いに存在を認識してはいたものの初対面。表彰式前の控室で挨拶すると「(2年目のジンクスなんて)そんなもん、心配せんでええ。気にすんな。やることは分かっているはず。頑張るのは本人も分かっとるわい」と“鳥内節”。36歳年上の母校の陽気なレジェンドから心強い言葉を贈られた。
大先輩・赤星憲広氏も2年目はケガ
近本自身、油断はない。「絶対、壁はくる」と気持ちを引き締めている。当然、相手球団からのマークが厳しくなることも理解している。2001年に39盗塁で新人王と盗塁王をダブル受賞した阪神の先輩・赤星憲広氏は翌02年には怪我に見舞われた。俊足を生かすためレガースを着けずに打席に入っていた結果、自打球で右けい骨(膝下)を骨折。3カ月ほどの欠場を余儀なくされ78試合の出場にとどまった。それでも赤星氏は26盗塁で2年連続の盗塁王を獲得したのは立派だが、怪我というカベを2年目に経験している。
その赤星氏が現役時代、口にしていたことは近本の参考になるだろうか。「もちろん、2年目のジンクスというのは誰もが言われる。1年目の結果がよければ。ただ、それってプロでやる以上、ずっと続くんですよ。結果を残せば2年目も3年目もその先もずっと、相手はより警戒して研究してくる。みんな僕に盗塁の話をよくしますけど、まずそのためには出塁しないといけない。打撃力、選球眼の向上。その上で相手バッテリーの配球傾向や牽制のクセとか。やることはたくさんある。相手もお互いにね」
赤星氏は3年目以降、飛躍的に成績を伸ばしている。盗塁数は2003年に61個、2004年に64個、2005年に60個で、入団から5年連続の盗塁王に君臨した。
さらに注目すべきは安打数だ。2003年の172安打、2004年の171安打、2005年の190安打は驚異的。2003、2005年に阪神がリーグ優勝したこともうなずける活躍ぶりだ。赤星氏はこの頃、こう話すようになっていた。
「投手がちゃんとクイックして、捕手が二塁へストライク送球すればアウトになります」。この頃には赤星の走塁術と、相手バッテリーの盗塁阻止技術は互いにレベルアップしており、特にヤクルト・古田、中日・谷繁の名捕手2人からは簡単に走れなかった。
IsoDは29位…外角低めの見極め重要
近本の将来はどうだろうか。2019年のセ・リーグ盗塁阻止率を見ると1位の巨人・小林が.419で2位はチームメートの梅野。近本が2019年のバッテリーの配球傾向、投手の動きやクセなどをインプットし、今季に生かせば盗塁では有利になる部分も出てくるだろう。
ただ、159安打を稼いだ打撃を他球団は徹底的に封じにくるはずだ。他球団007はすでに昨季中から「近本を出塁させないためには打たせないこと」と包囲網を敷いている。ここをかい潜ることが一つの壁となるだろう。
実際、近本は選球眼がいいとは言えない。打率.271はリーグ18位だが、四球はリーグ38位タイの31個と少ない。四死球によってどれだけ出塁したかを示すIsoDもリーグ29位の.042と低いのだ。
投球コース別に見ると、外角低めが打率.145(SPAIA集計)と苦手にしている。110三振はチームワースト、リーグでも9位と多いだけに、選球眼の向上、特に外角低めの見極めが喫緊の課題だろう。
入団決定後から「超えられるように」と意識してきた存在であるOBの赤星氏。当時は周囲に金本、桧山、今岡、アリアス、シーツら頼もしい先輩スラッガーが居並び、何度も赤星氏が得点を重ねた。現代の阪神には糸井、福留らベテランに加え、大山、木浪、北條のように同じ年の仲間もいる。
03 、05年のV戦士でもある藤本敦士コーチは「近本と同い年の世代が一気に歯車が合って、急に同時に成長したらすごいことが起こる。カープが『タナ・キク・マル・セイヤ(田中広輔、菊池涼介、丸佳浩、鈴木誠也)』の成長で強くなったようにね」と期待を込める。
自身の能力の向上はもちろん、ライバルと刺激し合い、チームとして上昇カーブを描いていくことも重要だ。近本の2年目のジンクス打破の向こう側には、阪神の15年ぶりのリーグ優勝が見えてくるかもしれない。
2020年プロ野球・阪神タイガース記事まとめ