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勝利を呼ぶ遅咲きの仕事人 ロッテ・田中靖洋 13年間で4勝が一転、”交流戦最多勝”に浮上

2019 6/19 11:00浜田哲男
ロッテの田中靖洋ⒸYoshihiroKOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

ブルペン陣で今最も頼りになる男

今季は酒居知史、唐川侑己、益田直也らが主に勝ち試合を任されているロッテのブルペン陣だが、安心できる陣容とは言い難い。特に益田は投げてみなければ分からない不安な投球内容が多く、ロッテファンは毎度やきもきしながら戦況を見つめているのではないだろうか。

そんな中、ロッテのブルペン陣で今最も頼りになる男が田中靖洋だ。ここまで24試合に登板し、防御率1.17と抜群の安定感を見せている。

ロッテが最終回に5点差をひっくり返してサヨナラ勝利を飾った6月16日の中日戦では、5点ビハインドの9回表に登板。8回に加点して勢いづいていた中日打線を無失点に抑え、9回裏の大逆転劇を呼び込んだ。

6月18日、敵地に乗り込んだ広島戦では、2-2で同点の10回裏にマウンドに上がると、小窪哲也を得意のシュートで空振り三振、菊池涼介には絶妙なセーフティーバントを決められるも、この日本塁打性の当たりを2度放った好調のバティスタを外角のスライダーで空振り三振に斬ってとるなど、危なげない投球で無失点。

田中が作った良い流れが11回表の攻撃にリズムを与え、広島の中﨑翔太に3本の二塁打を浴びせるなど一挙に4点を奪い試合を決めた。田中が再び勝利を呼び込む流れを作ったと言っても過言ではない。

これまでの野球人生で苦労してきたご褒美なのか、プロ通算4勝の田中は16日と18日に勝利投手となり、今季だけで既に4勝目(0敗)をマーク。交流戦では3勝目となり単独最多に浮上した(2019年6月18日現在)。

西武を戦力外。入団テストでロッテへ

田中は、2005年のドラフトで西武から高校生ドラフト4位指名を受けてプロ入り。その後4年間は1軍での公式戦出場がなかった。2010年4月15日の楽天戦で1軍初登板を果たすも、その後は右肘を手術するなど怪我に泣かされた。2015年には入団10年目にして1軍での初勝利を挙げたが、西武から戦力外通告を受けて退団。ロッテには2015年の秋季キャンプ中に行われたテストで評価されて入団している。

ロッテに入ってからも1~2年目は1軍での登板数も少なく際だった活躍は見せられていなかったが、3年目の2018年に32試合に登板。2勝1敗5ホールドを挙げてそこそこの存在感を示した。

昨季ある程度の数字を残せたことが自信となり、今季の活躍につながっているのだろう。同点でも、ビハインドでも、リードしていても、どんな場面でも変わらずに淡々と仕事をこなしてマウンドを降りていく姿に、頼もしさを感じるようになってきた

左右の揺さぶりで打者を翻弄

田中の投球スタイルは左右の揺さぶりだ。直球も今季は最速151kmをマークするなど力があるが、やはり一番の武器は140km台中盤のシュートだ。田中の球種配分をみると、シュートの割合が約57%。次に多いのがスライダーで約33%。直球は約5%とほとんど投じていない。直球の割合は40%~50%前後の投手が多い中で、この直球の少なさは異様だ。

これだけシュートが多いと打者は否が応でもシュートを意識するが、そこで効いてくるのが外角低めに投じるスライダーだ。スライダーの被打率はわずか.120と低く、いかに打者が左右の揺さぶりに手こずっているのかが分かる。

6月18日の広島戦ではバティスタにシュートを意識させ、最後は外角低めに鋭く曲がり落ちるスライダーで空振り三振を奪った。前の打者の菊池にセーフティーバントを決められた際はマツダスタジアムの雰囲気が一変しかけたが、田中は実に落ち着いていた。

SNSでも称賛の声が相次ぐ

与えられた場所で淡々と投げてきた田中。地味ながらもその活躍をロッテファンはしっかりと見守り続けている。

今季の安定した投球を受けて、SNSには「こうゆう展開の時にタナヤス(田中の愛称)に白星が積み重なってくれてる事象は、これまでタナヤスが淡々と与えられた所で投げてきたストーリーも相まってジ~ンとする」「田中靖洋が投げればロッテは勝てる!」「西武時代から応援してきて本当に良かった。これからも応援する」「今一番頼りになるリリーフ。これまでの苦労を思うと涙が出る」など、その活躍を称賛する声が相次いでいる。

現在30勝34敗でリーグ5位に低迷しているが、首位の楽天までは6ゲーム差と上位進出のチャンスはまだまだある。今後巻き返していくためにはブルペン陣の踏ん張りが欠かせないが、中でも田中にかかる期待は大きい。怪我や戦力外など多くの壁を乗り越えてつかみ取った今のポジションを不動のものにする活躍を続けてほしい。

※数字は2019年6月18日時点