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毎年盛況のプロ野球春季キャンプ 日米キャンプをスポーツビジネスの観点から比較

2019 3/7 15:00藤本倫史
野球ボール,ⒸSPAIA

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アリゾナのスポーツビジネス戦略

2月1日に日本のプロ野球がキャンプインしてからは、連日スポーツコーナーでその様子が報道されている。遅れること2週間余り、アメリカでもMLBのキャンプが始まり、シアトルマリナーズに入団した菊池雄星投手のニュースを皆さんもよく見かけるのではないか。

そのシアトルマリナーズがキャンプを行っているのが、アリゾナ州のピオリアである。その他にも日本人選手が所属するドジャースやエンゼルスもアリゾナ州でキャンプを実施しており、15球団がひしめき合っている。

元々メジャーリーグでは、フロリダ州でキャンプを行っていることが多かった。これは1957年にドジャースなどが西海岸へ本拠地を移すまで、東海岸のチームが多く、フロリダの方が便利だったからだ。

その後、メジャーリーグの球団拡張から生まれたアリゾナダイヤモンドバックスが設立された1990年代後半。アリゾナ州が乾燥地帯で開拓が困難であった土地を、スポーツのまちづくり推進のため開発し、キャンプ誘致を積極的に行った。

その結果、メジャーリーグ30球団の内、半分の15球団を誘致することに成功した。これこそ、まさにスポーツツーリズムのビジネス戦略である。アリゾナ州のカクタスリーグのキャンプによる経済効果は民間の統計によると、約600億円(フロリダは約800億円)と言われ、州外からの経済効果がとても大きい結果となっている。

この大きな経済効果の背景には、アリゾナ州が巨額のスポーツ施設投資とキャンプ地の近くにホテルやショッピングモールを誘致するスポーツのまちづくり戦略がある。ただ、フロリダ州も近年、この状況を見て、施設を充実させるなど、移転を防ぐ手立てを打っている。

現在メジャーリーグには球団拡張の動きがあるため、この2大キャンプ地以外にも、キャンプを誘致しようと動いている街もある。(アリゾナと同じく砂漠地帯のラスベガスなど)アメリカはこのキャンプや合宿によるスポーツツーリズムのビジネスで、今後さらに活性化してくるだろう。

日本のキャンプ地戦略

日本では、沖縄と宮崎が2大キャンプ地になっているが、プロ野球キャンプの聖地といえば宮崎県である。1959年に巨人がキャンプを始めてから、次々と各球団がキャンプ地として選び、今年も1,2軍合わせて7球団がキャンプを実施している。

宮崎県の発表によると、2017年度の経済効果は126億6000万円(前年比12%減)とアメリカに及んでいないとはいえ、大きな成果を挙げている。また、注目したいのがプロ野球だけでなく、Jリーグや韓国野球の球団などもキャンプを行い、キャンプと合宿のブランド力を上げていることだ。これがさらに2次的効果にもつながり、企業や大学スポーツチームの多くが合宿地として宮崎の施設を利用している。

宮﨑の1強状態だったキャンプ誘致に待ったをかけたのが、沖縄県である。1978年の日本ハムファイターズが実施したのをきっかけに多くの球団が行い、今年は9球団が実施している。

りゅうぎん総合研究所によると、2018年のキャンプによる経済効果は122億8800万円(前年比12.1%増)と試算している。沖縄の戦略としては、スポーツビジネス全体を盛り上げようとしている。2015年にスポーツコミッション沖縄を設立し、各ステークホルダーを結びつけ、スポーツツーリズム事業の多様化を図っているのだ。

沖縄のさらなるスポーツ戦略

また、プロスポーツチームに関しても、沖縄市には琉球ゴールデンキングスが本拠地とする1万人収容の多目的アリーナを2020年に完成予定。JリーグのFC琉球は2023年度にJ1規格のスタジアム整備基本計画(場所は那覇市の奥武山公園陸上競技場に2万人を収容予定)があり、スポーツファシリティ整備にも力を入れている。

このように見ると沖縄の勢いが非常に強いが、宮崎も対策を練ってくるだろう。ビジネスはやはり競争がないと成長しない。この沖縄や宮崎の他にもキャンプ地と利用されていた高知、温暖な鹿児島も力を入れている。この他にもウインタースポーツであれば、北海道が盛んで競技や世代によっても、キャンプや合宿などスポーツツーリズムのビジネスには可能性がある。

現在のキャンプ地は集客や購買のために、様々な工夫を行っている。それらを観察するのもキャンプの1つの楽しみかもしれない。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。

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