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あの「公務員志望」発言から3年。ドラフト候補 日本通運・生田目翼の現在地

2018 10/2 07:00永田遼太郎
生田目翼,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

3年前、突如現れた公務員志望のドラフト候補

今年のドラフトはあれやこれやと目移りするほど人材が豊富だ。

すでにプロ志望届を出した高卒、大卒選手のリストをながめても、1~2位の上位指名で消えそうな選手がすでに十数人。ここに本稿の執筆時点で、プロ志望届を出していない大阪桐蔭の根尾昂、藤原恭大、柿木蓮に、金足農の吉田輝星ら競合必至と言われている〝大物″たちが控えているのだから、各球団ともに嬉しい悲鳴をあげていることだろう。

それだけにここは腕の見せ所とも言えるのだが、そうした中、プロ球団からどれくらいの評価を受けているのか個人的に注目をしている選手がいる。社会人野球・日本通運の生田目翼である。

生田目の名が野球ファンに広く世間に知れ渡ったのは2015年6月の全日本大学選手権。

当時、流通経済大学の3年生だった生田目は、2回戦の城西国際大学戦で先発して最速151キロを計測すると9回途中までに10三振を奪う力投を見せ一躍注目を浴びた。

さらに準決勝の神奈川大学戦で2安打1四球の完封勝利を挙げるなど同大学の躍進に大きく貢献。惜しくも決勝で敗れ準優勝に終わったが、来年のドラフト候補と逸るマスコミの声が一部で飛んでいたほどだ。

そうしたヒートアップをよそに、生田目が「地元に戻って公務員になりたい。野球を続けるのは大学まで」と発言したものだから、マスコミ関係者だけでなく、多くの野球ファンが驚いた。

「公務員になりたい」ドラフト候補の素顔

当時の発言について、彼はこう振り返る。

「あの当時は自分がそういう(上を目指せるような)人間だと思えなかったんです。プロ野球選手ってやっぱり別次元じゃないですか?そこは第三者として見ているわけじゃないですけど、そんな感じで当時は見ていたので、現実として捉えることが出来なかったんです。まるで夢でも見ているみたいなそんな感じです。だから、当時は『プロ』という考えを持てなかったというのもありました」

今回の取材で、生田目と1対1で話をするまで筆者はもう少し軽めの発言をする選手かなと想像していた。

しかし、実際は違った。

取材の席につく際にはしっかりとした挨拶を行い、こちら側から声をかけるまで着座しないで待っている。生真面目過ぎると言っても良いくらい礼儀礼節が出来た青年だった。

こちら側が、聞きづらいと思っていた質問でも、しっかりと考えてから丁寧に答えてくれる。日本通運でコンビを組むキャッチャーの木南了に話を聞いても「(しっかりと自分の意思を持っているピッチャー」と彼を称賛していたほどだ。

その言葉を生田目に伝えると、彼もこう返した。

「僕的には自分を持つって感じじゃないんですけど、他の何かで心がぶれる、そういう自分にはなりたくないなって思っています。自分の意思を持つじゃないですけど、自分がどうしたいのかは、たとえば練習とかにも出てくると思うんです。だからちゃんと自分の考えを持つというか自分の概念じゃないですけど、常にそこを意識はしていますね」

「考えて投げる」社会人で磨いた投球術

試合での配球でもしっかり自分の答えを持っている。

「サインにただ頷くんじゃなくて、どういう意識でそのコースに投げるのかとか、キャッチャーがどういう意図でそこに構えてくれているのかとか、考えながらなんですけど投げています。ただ、そこら辺は全然まだまだなんで、自分がもっと理解できるようになってから、(木南さんとは)いいバッテリーだなって言ってもらえるようにと考えていますね」

社会人1年目の2017年は右肩の怪我もあって、主に抑え役を任されていた。

そして2年目の今年(2018年)は怪我をしないフォーム作りに着手、同時に自慢の速球をどう活かすかにも取り組み、投球の幅を広げた。

3月のJABA東京スポニチ大会のパナソニック戦では2番手として登板し、6回1安打無失点。都市対抗野球の南関東二次予選でも大事な初戦の新日鐵住金かずさマジック戦の先発を任されて4安打完封勝利。JFE東日本戦でも先発で8回を無失点に抑え、ネット裏で見ていた関係者たちを驚かせた。

元プロから教わったカーブと大人の投球

この春、彼の投球で特に印象に残ったのはカーブだ。今年から投手兼コーチとしてチームに加わった元北海道日本ハムの武田久から教わったボールである。

「そのカーブも感覚をちゃんと覚えれば絶対試合で使えるからって、自信をつけさせてくれる指導をしてくれたんです。まだ抜けたり、引っ掛かったりするボールなんですけど、最近はストライクもとれますし、バッターが引っかけてくれたりもしているので、自分でもいい感じで投げられているのかなって思いますね」

カーブを身につけたことで、緩急を意識した投球を再確認出来た。周囲はそんな彼について大人の投球が出来るようになったと口を揃える。

3年前の夏、プロの世界に飛び込むことにまだ自信が持てなかったと考えた青年は、社会人野球で過ごしたこの2年間で心身ともに開花したのだ。

2回目のドラフト会議へ、語ったプロへの想い

間近に迫ったプロ野球ドラフト会議について、生田目はこう語る。

「あれから社会人でやって、少しずつですが通用するようにはなって来たので、いずれは(プロに)行ってみたいなというのはあります」

いずれは?という部分に少し引っ掛かったので、もう一度彼に聞き返した。すると彼はこう続ける。

「今、行けたらもちろん最高ですけど、そういうのは後から付いてくるものだと思っているので」

そう答えると軽い照れ笑いを浮かべた。かつて田中正義、池田隆英らと並び称された大学球界屈指の右腕が、2年間の社会人野球生活を経て、満を持して次の舞台の扉を開く。