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速球左腕・佐野泰雄「一から見つめ直した」 先発ローテ復帰へ一歩一歩

2018 6/29 16:30永田遼太郎
佐野泰雄,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

まさかの左膝故障

埼玉西武・佐野泰雄の魅力は、その力強いストレートにある。先発タイプの左腕で150キロ近くの直球をぶんぶんと投げる。

それだけでもじゅうぶん稀有な存在と言えるのだが、彼にはもう一つ、高校時代からプロのスカウトに高く評価されてきた大きく曲がる縦のカーブという武器もある。

昨年(2017年)は、この二つを織り交ぜた緩急を武器に、一軍で6試合に先発して3勝を挙げるなど、一時先発ローテーションにも加わる活躍を見せた。

しかし、2017年6月17日のナゴヤドーム。この日で、シーズン6度目の先発を迎えた佐野だったが、初回、中日の3番・大島洋平に四球を出したところで、左膝に強い違和感を覚え、マウンドでうずくまった。

診断結果は左膝外側半月板損傷。

平成国際大学からプロ入りし、3年目にして掴んだ先発ローテーションの座だったが、思いもよらない怪我によるアクシデントで、状況は一転。彼は〝振り出し″に戻された。

自分のあるべき姿に

夏の厳しい暑さの中、脂汗をたらしながらのリハビリにも耐え、ようやくランニングを再開したのはシーズンも終わりが近付いた10月になってからのことだった。そこからブルペンに入るまでさらに3カ月。春季キャンプは入団1年目(2015年)以来のB班(2軍)スタートとなったが、佐野は焦らず、ゆっくり復活のときを待った。

佐野泰雄,ⒸSPAIA

佐野は当時をこう振り返る。

「シーズンオフにはしっかりトレーニング出来る状態まで怪我は回復していました。なので、そこでもう一回、基礎筋力の向上をテーマに、その筋力をどう技術に還元できるかも考えて、トレーニングだったり、投げ込みだったりを意識してやってきました」

チームのエースである菊池雄星と自主トレを行うのも今年で3年目になる。同じ左腕ということもあり、学べることも多い。今年も収穫はあったようだ。

「(今年の自主トレは)基礎体力の部分でもだいぶ変わったと思います。フォームで言えば軸足で立つ前のところや、立った時のバランス、そこからの体重移動とか本当にひとつひとつを一から見つめ直して、今年はトレーニングをしました」

シーズンが開幕するとファームの公式戦で徐々に登板時のイニング数を伸ばしていき、4月1日の西武第二球場での千葉ロッテ戦では5イニング、4月11日の西武第二の北海道日本ハム戦でも6イニングと一歩ずつ自分のあるべき姿に戻っていった。

1軍復帰も再びファームへ

そして迎えた5月11日のメットライフドーム(対千葉ロッテ戦)。11カ月ぶりとなる一軍の舞台だったが、佐野は初回から140キロ台後半の直球を低めに集め、先頭の荻野貴司をショートゴロに、4番・角中勝也を見逃がし三振に抑えるなど上々のスタートを切った。

しかし、変化球は思うように決まらない。

2回表、5番・井上晴哉に真ん中に入ったチェンジアップをセンター前にはじき返されると、配球が直球に片寄って、一死後、7番・鈴木大地にストレートを狙いすまされセンター前に。さらに8番・ドミンゲスには3ボール1ストライクからの外寄り甘く入ったストレートをレフトポール際に運ばれて3点を失った。

佐野泰雄,ⒸSPAIA

「やっぱり変化球でカウントがとれないと、相手バッターも迷わずに真っ直ぐ一本待ちが出来ちゃうので、あそこもしっかり変化球でカウントを獲って、真っ直ぐで空振りも獲れるように投げないとって思いましたね」

その後、佐野はズルズルと悪い流れを引きずってしまう。

9番・田村龍弘には一球もバットを振らせることなくフォアボール。さらには荻野貴司、藤岡裕大に連打を打たれ、中村奨吾にはインハイをコントロールし切れず死球を与えた。

結局、この日の佐野は次打者の角中勝也に犠牲フライを打たれたところで降板。試合後には即、ファーム行きを言い渡された。

課題と向き合いチャンスを伺う

佐野がこの試合を振り返る。 「ホームランを打たれたときはしょうがないと思ったんです。ただ次のバッターをしっかり抑えなきゃいけないですし、そこで抑えられなかったのが、そのままズルズルいった要因だったのかなと思います」

現在はファームの実戦の中で、変化球でしっかりカウントを獲ること、直球を強いボールのまましっかりコントロールすることをテーマにしている。

5月27日、戸田の東京ヤクルト戦では7回4安打1失点。6月5日、ジャイアンツ球場の巨人戦では2回4失点。6月13日、ロッテ浦和での千葉ロッテ戦では怪我から復帰して初の9回を投げ切って6安打4失点。

結果に波はあるものの、あくまで課題に向き合った上での結果である。あまり気にしなくて良い。

佐野泰雄,ⒸSPAIA

投球時のプレートの位置も一塁側に一番近い左端を踏むオーソドックスな位置に変えた。以前は真ん中より、やや三塁側を踏んでいた佐野だったが、それでは自身の最大の武器であるストレートもカーブも活かしきれない、角度が出ないとも考えた。相手打者の反応を見ても手応えはけっして悪くない。

チームの交流戦の防御率は4.59。好調な野手陣に比べ、投手陣にはまだ不安が残る。
当然、佐野にも割って入るチャンスはあるし、入って行かなければいけない存在にもなった。

再び先発ローテーションで投げる姿を信じ、浅黒く日焼けした肌に大粒の汗を光らせて、今日もめいっぱい腕を振る。