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審判員の負傷続く、2週間で3人が負傷交代 プロ野球審判員が直面するリスクの現実

2026 4/18 06:00SPAIA編集部
ⒸRichard Paul Kane/Shutterstock.com
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審判員を負傷交代させる3つの原因

2026年4月16日、神宮球場でヤクルト対DeNA戦の球審を務めていた川上拓斗審判員が、打者のバットを頭部に受けて担架で搬送された。試合を中断してブルーシートで目隠しがなされ、救急車で病院へ運ばれるという衝撃的な光景は、テレビ中継を通じて全国に流れた。

それだけではない。同じ4月に深谷篤審判員は2度、負傷交代を余儀なくされていた。4月3日のベルーナドームでの西武対楽天戦ではファウルボールが左手に直撃し、4月15日のZOZOマリンスタジアムでのロッテ対日本ハム戦では折れたバットが右前腕を直撃した。同一人物が1か月に2度、しかも左右両腕を別々の原因で負傷するという前例のない事態だった。

4月だけで3件、2名の審判員の負傷交代は前例のない頻度だ。審判員が引き受けるリスクとは。過去20年以上の記録をたどりながら、その実態を整理する。

審判員の負傷は大きく3つに分類できる。ファウルチップ、折れたバット、そして急病(内科的な要因)だ。

最も発生頻度が高いのがファウルチップによる直撃である。打者がスイングしたバットの先端にかすった打球は、単純にピッチャーが投げたボールのエネルギーだけをもらっているわけではない。スイングが加わることで、投球エネルギーとバットのエネルギーが合成され、球速を大幅に上回る衝撃が生まれる。捕手のミットをかすめてそのまま球審を直撃するまでの距離はわずか数十センチで、球審が身をかわす時間は物理的に存在しない。どんなに経験豊富な審判員でも、ファウルチップは「避けられない衝撃」なのだ。

2つ目が折れたバットによる負傷だ。球が丸ければ空気抵抗によって軌道はある程度予測できるが、折れたバットの破片は不規則な形のまま回転しながら飛来する。空気の切り方が一定ではないため、軌道の変化が読めない。さらに致命的なのは、バットが頭や胸といった防具で覆われた正面ではなく、防具が薄い腕や側頭部に当たりやすい点だ。プロテクターは正面からのボールの直撃を前提として設計されている。深谷審判員の右前腕への直撃は、まさにその「防具の外側」を狙い撃ちにする形になった。

3つ目が急病などの内科的な要因だ。夏場のドーム球場や屋外の試合では、重い防具を着けたまま長時間グラウンドに立ち続ける。体熱が外に逃げにくく、熱中症や体調悪化のリスクは常に存在する。また、長年にわたる心理的なプレッシャーや、真夏でも限られた水分補給などが心臓や循環器系に与える影響も、看過できない要因だ。

NPB主要負傷事例の記録(2000年以降)

審判員の負傷は2026年に突然始まったことではない。記録をさかのぼると、過去20年以上にわたって積み重ねられてきた事例が見えてくる。

2005年4月28日小林和公球審(甲子園)
阪神対中日戦で球審の小林和公審判員が、ファウルチップをマスクの左前頭部に受けた。マスクが衝撃を分散したものの、首の痛みを訴えて病院に搬送された。検査の結果に異常はなかったが、マスクを通して頸椎に強い負荷がかかることを改めて知らしめた事例として記録されている。

2006年4月21日渡真利克則球審(東京ドーム)
巨人対阪神戦で球審の渡真利克則審判員が試合中に突然昏倒し、救急搬送された。心臓疾患による急病で、翌日退院して自宅静養となった。巨人対阪神という注目カード、何万人もの観衆が見守る中での出来事だった。直接的な負傷ではないが、同年5月5日には上本孝一審判員が前日の中日対横浜戦で塁審を務めた後、帰宅後に心筋梗塞を発症して43歳で急逝している。審判員にかかる身体的・精神的な負荷の大きさが原因の一つとして語られている。

2010年4月27日森健次郎球審(ナゴヤドーム)
中日対巨人戦で球審の森健次郎審判員が体調不良を起こした。熱中症などによる体調悪化で、中日の落合博満監督が森審判員の顔色の悪さや動きの鈍さに気づき、自ら交代を進言した。監督が早期に異変をキャッチして運営側に伝えるという、危機管理における協力の好例として語り継がれている。二塁塁審の名幸審判員が球審に回り、控えの橘高審判員が二塁に入って試合は続行された。

2019年5月10日柳田昌夫球審(東京ドーム)
巨人対ヤクルト戦で球審の柳田昌夫審判員がファウルチップを顔面に直撃され、試合が中断した。いったんは治療を経てグラウンドに復帰したが、その後のイニング間に再び退くことになった。衝撃直後はアドレナリンの影響で痛みが麻痺することがある。時間が経つにつれて視野の乱れやめまいが悪化し、時速150キロを超える投球をコンマ数秒で判定する球審の職務が続けられなくなったとみられる。予備審判の本田審判員が二塁に入り、二塁の佐々木審判員が球審を引き継いだ。

2026年4月3日深谷篤球審(ベルーナドーム)
西武対楽天戦で球審の深谷篤審判員にファウルボールが左手に直撃し、試合が中断した。ワンバウンドした後に不規則な軌道で飛んできた打球だった。深谷審判員は痛みを抑えきれず退場し、二塁塁審の長川審判員が球審に移動、控えの山口審判員が二塁に入って試合が再開された。

2026年4月15日深谷篤球審(ZOZOマリンスタジアム)
復帰した深谷篤審判員が再び球審を務めた初回、ロッテの寺地隆成選手が放った二塁ゴロの際にバットが根元から折れ、その破片が深谷審判員の右前腕を直撃した。12日前に左手、今度は右前腕と、別々の原因で両腕を負傷するという前例のない連続負傷に、球場は騒然となった。一塁塁審の牧田匡平審判員が球審を引き継ぎ、控えの笹審判員が一塁に入った。試合は約10分間中断した。

2026年4月16日川上拓斗球審(神宮球場)
ヤクルト対DeNA戦の8回裏、ヤクルトのホセ・オスナ選手のスイングとともにバットが手から離れ、球審の川上拓斗審判員の左側頭部を直撃した。川上審判員はその場に崩れ落ち、担架で搬送された後、救急車で病院へ運ばれた。マスクと防具を着けた状態でも、バットの直撃が側頭部を直撃すれば担架搬送となる。防具の設計がカバーしきれていない現実が改めて浮き彫りになった。

MLBでも続く審判員の負傷

審判員の負傷はNPBだけの問題ではない。メジャーリーグベースボール(MLB)でも、ここ数年で重大な事例が起きている。

2025年8月25日、ニューヨーク・ヤンキース対ロッキーズ戦(ヤンキー・スタジアム)では、ジャンカルロ・スタントン選手の折れたバットのバレル(太い部分)がニック・マーリー球審の頸部付近を直撃し、脳震盪と診断された。マーリー審判員はカートでフィールドから運ばれ、そのままシーズンを一時離脱した。

2026年4月4日、ニューヨーク・ヤンキース対マイアミ・マーリンズ戦(ヤンキー・スタジアム)では、ベテランのロン・クルパ球審がファウルチップをマスクに受け、脳震盪と診断された。試合中にめまいを訴えて自ら退場し、MLBは翌日に最低1週間の離脱と継続的な再検査を命じた。

ここで、NPBとMLBの制度的な違いに触れておく必要がある。NPBの一軍公式戦では、不測の事態に備えて必ず控え審判員1名が待機しており、負傷者が出ても即座に投入できる体制が整っている。一方MLBは、レギュラーシーズンの通常試合には控え審判員が配置されていない。1名が離脱すると残りの3名で試合を続行する「3人制」に移行する。3人制では各審判員のカバー範囲が大幅に広がり、死角が増えるため判定精度のリスクも上がる。残された審判員にかかる負担も増大し、二次的な疲労や負傷が起きやすくなるという悪循環も指摘されている。

審判員の負傷が試合に与える影響

審判員の負傷は、審判団の人員問題にとどまらない。試合の流れそのものに、目に見えない影響を及ぼす。

2026年4月3日のベルーナドームの試合で、楽天の荘司投手はフルカウントという、投手にとって最も集中すべき場面で試合が中断することになった。約10分間、投球を止めて待ち続ける間、指先の感覚やリリースのリズムは確実に狂う。再開後、荘司投手は2点打を浴びた。審判の負傷が試合の結果を間接的に動かした瞬間だった。

4月15日のZOZOマリンでも同様の現象が起きた。日本ハムの加藤投手が試合中断明けに失点している。「中断によるリズムの乱れ」が投手のパフォーマンスに影響を与えるという事実は、投球コーチや捕手であれば実感として知っていることだ。

さらに深刻なのが、球審が交代した際にストライクゾーンの基準がリセットされるという問題だ。試合を通じて、投手も打者も球審ごとのゾーンの傾向を把握しながら組み立てを行っている。序盤に「今日の球審は低めを広く取る」と感じれば、投手はそれを活かす配球を、打者はそれを踏まえた対応を考える。球審が交代すると、その積み上げが白紙に戻る。新しい球審は試合の流れを知らない状態から判定を始めるため、投手と打者の双方が一からゾーンを確認し直さなければならない。試合中の球審交代は、単なる人員の入れ替えではなく、競技の前提条件が変わることを意味している。

球審の防具とリスク回避

防具の素材は時代とともに進化してきた。チタンフレームのマスク、衝撃を面で分散させるハードシェルのプロテクター、ケブラー繊維を使ったレガーズ。技術は確実に前進しているが、それでも川上審判員の担架搬送は起きた。防具の設計が正面からのボール直撃を基本として作られている以上、側方から飛来するバットの破片や、すっぽ抜けたバットへの完全な対応には限界がある。今後は頭部と側頭部を守るヘルメット型マスクへの移行や、前腕部など現行の防具が薄い部位への追加プロテクターの開発が急がれる。

ロボット審判(ABS)の導入議論も、単なる判定の正確さの問題ではなく、球審を捕手の真後ろという最も危険な位置から物理的に遠ざけるという安全上の意味も持っている。

試合を成立させるために、リスクを引き受けながら立っている人たちがいる。次の試合を観るときは黒い服を着てグラウンドに立つ審判員の姿を、少し違った目で見てほしい。

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