一振りに懸ける仕事人
野球は9人で戦うスポーツだが、多くの選手が所属し、分業制が進むプロ野球では中継ぎやクローザー、守備固め、代走などその道のスペシャリストも少なくない。そのうちのひとつ、一振りに懸ける仕事人が「代打」だ。
もちろん、ここ一番の勝負所だけでなく、レギュラーに比べると実力が足りない場合や試合終盤で投手に打順が巡ってきた場合など起用されるシーンは多種多様だが、打席に立つ代打にとっては貴重な1打席に変わりない。
そんな一振りに懸ける男たちにスポットを当ててみたい。まずは2024年のチーム別代打成績ランキングから見ていこう。
楽天が断トツの打率.279、強打のソフトバンクが最下位
DH制のパ・リーグはどうしても代打の出場機会が少なくなるが、12球団を打率順に並べてみると楽天が61打数17安打の打率.279で頭一つ抜けている。交流戦で初優勝に導いた今江敏晃監督の用兵も見逃せない。
2位は打率.226のオリックス。本来ならレギュラーの杉本裕太郎や森友哉らが不振のためスタメン落ちして代打起用される機会も多く、代打成績を押し上げている。
3位は121打数27安打で打率.223の阪神。代打の切り札を「代打の神様」と呼ぶようになったのは、1990年代後半から代打として活躍した八木裕が最初だ。代打通算400打数94安打の打率.235、13本塁打、98打点をマークした「神様」の伝統は受け継がれている。
ロッテも打率.222と高い。ベテランの角中勝也や打数は少ないながらもポランコ、中村奨吾あたりも代打で結果を残している。
5位は打率.219の巨人。後述するが、長野久義や萩尾匡也、岸田行倫、秋広優人、大城卓三らが代打として起用されており、層の厚さを示している。
.208で6位のDeNAまでが打率2割以上となっており、以下、西武(.185)、広島(.171)、中日(.163)、ヤクルト(.161)、日本ハム(.152)、ソフトバンク(.148)と続いている。強打のソフトバンクが最下位とは意外だが、それだけレギュラー陣が不動ということだろう。
茂木栄五郎、福永裕基、長野久義がTOP3
続いて個人の代打成績ランキングも見ていこう。打数が少ない選手も多いため、10打数以上を対象としている。
1位に輝いたのは茂木栄五郎(楽天)で、なんと15打数9安打の打率.600。早稲田大から入団9年目の今季は4月23日の日本ハム戦で2年ぶりの一発となる代打同点アーチを放ち、6月5日の阪神戦では延長10回に代打で決勝三塁打を放つなど、「神様」と呼ぶにふさわしい活躍を見せている。
2位は11打数5安打で打率.455の福永裕基(中日)。日本新薬からドラフト7位で入団して2年目の今季は43試合に出場して打率.279と、代打だけでなくスタメンでも結果を残している。
39歳のベテラン・長野久義(巨人)は13打数5安打の打率.385で3位。6月25日のDeNA戦の9回に代打で中前タイムリーを放ち、通算1500安打を達成した。
宇草孔基、戸柱恭孝、萩尾匡也、楠本泰史もランクイン
4位は14打数5安打で打率.357の宇草孔基(広島)。4月20日の巨人戦の7回に代打で登場し、2年ぶりの一発となる1号ソロを放つなど存在感を発揮している。
戸柱恭孝(DeNA)と萩尾匡也(巨人)が10打数3安打で5位タイに並んでいる。戸柱は捕手としても出場しながらバットでも勝負強さを発揮。2年目の萩尾は11試合出場にとどまったルーキーイヤーに比べて出番を増やしている。
7位は11打数3安打で打率.273の楠本泰史(DeNA)。5月まで勝負強さを発揮していたが、5月12日に登録抹消されてからは二軍で再昇格のチャンスをうかがっている。
8位から前川右京、糸原健斗、原口文仁の阪神勢
8位から10位まで阪神勢が並んだ。前川右京は15打数4安打で打率.267。智弁学園高から入団3年目のスラッガーはスタメン出場も増えており、6月16日のソフトバンク戦で石川柊太から満塁弾を放つなど首脳陣の信頼も日増しに厚くなっている。
9位は23打数6安打で打率.261の糸原健斗。粘り強い打撃で2018、19年には143試合フル出場したが、最近は代打での出場も多い。ただ、6月に入って月間打率.179と調子を落としているのが気掛かりだ。
現在の阪神で切り札的存在が原口文仁だ。今季は26打数6安打の打率.231にとどまっているが、2018年は代打で57打数23安打の打率.404をマークした実績を持つ。15年目の今季も勝負所で頼りにされるだろう。
試合終盤の勝負の分かれ目で起用されることが多い代打の1打席は、他の打者の1打席より圧倒的に密度が濃い。高い集中力とプレッシャーに負けない精神力、ボールを確実に捉える技術を全て発揮しなければ結果は残せない。プロ野球を熱くする「一振りに懸ける仕事人」にこれからも注目だ。
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