短期決戦は全くの別物
11月14日から始まるクライマックス・シリーズ(CS)では、ソフトバンクとロッテが対戦。ロッテは12勝11敗1分と2年連続で対ソフトバンク戦の勝ち越しを決めたが、最終戦で勝利するまでは7連敗を喫するなど苦戦。シーズン序盤は圧倒していたものの、後半は投打で圧倒された印象だ。
ソフトバンクとしては、対ロッテ戦の苦手意識を払拭したと言っていいほどの快勝を重ねたが、かつて中日で指揮を執った落合博満氏が「短期決戦は全くの別物」と言っていたように、CSではリーグ戦とは全く異なる戦い方が求められる。コンディションや相性の悪い選手を試している余裕や、負けた試合を振り返る意味もない。限られた試合で各選手がどれだけ自身の役割を全うできるかにかかっている。
ロッテは最悪の状態を脱した
ソフトバンクとロッテは、過去にCSで2005、2007、2010、2015、2016年と5回対戦している。近年の2015年のファイナルステージおよび2016年のファーストステージではソフトバンクが5勝0敗と圧倒。また、昨季はNPB記録を更新するポストシーズン10連勝を飾るなど、近年のソフトバンクは短期決戦で無類の強さを見せている。
シーズン後半、残り20試合程度になってからの選手マネジメントや采配は一戦必勝の短期決戦同様のもので、相手に全く隙を見せない戦い方で怒濤の快進撃を見せた。
そのソフトバンクとは対照的に、ロッテは10月に入ってからチーム全体の深刻な打撃不振が響いて急失速。土壇場に3連勝してCS進出を決めたものの、シーズン終盤の両チームの状態は明暗がはっきりと分かれた。
しかし、ロッテは最後の最後で投手陣が踏ん張り、打線は相手のミスにつけこみしぶとくつなげ、流れを一気に手繰り寄せる今季の勝ち方を思い出せたことは好材料。戦力と経験値、1勝のアドバンテージと、ソフトバンクが優勢であることは確かだが、今のロッテは負けがこんでいた時の状態ではない。
クリーンナップはPayPayドームでの出塁率が.450以上
今季のロッテは、チームの四球数が12球団トップの491個(死球58個も同トップ)。チーム打率は12球団ワーストの.235と振るわなかったが、四死球を絡めて得点を重ねてきた。ソフトバンクもロッテに与えた四死球が126個と対戦球団別では最も多く、例外ではない。
ロッテ各選手の対ソフトバンク戦での出塁率を見ると、終盤で4番を任された清田育宏は.452(対5球団トップ)、5番に座っていた中村奨吾は.454(対5球団トップ)、7番の藤岡裕大は.345(対5球団トップ)と高出塁率を誇る上、直近の試合で先発出場している選手の多くは、PayPayドームでの出塁率が特に高くなっている。
表は、8-2と打線がつながり快勝した11月8日の西武戦(CS進出を決めた試合)の並びだが、クリーンナップ3選手のPayPayドームでの出塁率は.450以上。7番の藤岡も.417と高く、つながりに期待がもてる。特に藤岡はここ6試合で19打数8安打と大当たりで、調子を維持できればクリーンナップが出塁した後のポイントゲッターにもなりうる。
ここ最近9番に座っている安田尚憲は、ソフトバンク戦の数字からクリーンナップだと打線を切ってしまう可能性があるが、9番だと怖い存在。また、打線のつながりを考えれば、PayPayドームでの出塁率が低い福田秀平と角中勝也は先発では厳しい。CSでも8日の西武戦と同様の打順で臨むのが好ましいだろう。
同試合の6回裏、安打で出塁した井上晴哉を一塁に置き、藤岡が犠打に失敗するも、次の田村龍弘が犠打を成功させて2死2塁。続く荻野貴司が一塁への内野安打を放つと相手の送球ミスを誘い、貴重な追加点。続く藤原恭大にも適時二塁打が飛び出し、試合の大勢を決めた。
さらに、その後の菅野と清田も四球で出塁しており、得点にはつながらなかったが二死満塁の好機も作っている。これこそが、今季のロッテを象徴する攻撃のシーンだったが、2者連続で犠打を試みるなど1点をもぎ取りにいく姿勢が着火点となった。ロッテの犠打数は両リーグトップの96個。投手陣が最少失点に抑え、四球、犠打、進塁打、走塁を絡め1点を取りに行く攻撃をいかに徹底できるかがカギとなる。
1点という重い扉をいかにこじ開けるか
CSでの先発が予想されるのが千賀滉大、東浜巨、石川柊太、和田毅。これらの投手にシーズン後半は特に抑えられたが、千賀には荻野(5打数3安打)や井上晴哉(4打数2安打)。東浜には清田(4打数2安打)、和田康士朗(5打数2安打)、田村(12打数4安打)。石川には菅野(5打数2安打)、安田(3四球、1本塁打)と、それなりに相性の良い打者をいかに機能させるかを考えなければならない。
問題は和田だ。中村(4打数1安打、3四球)に少々の投げにくさはあるのかもしれないが、対和田のチーム打率は.145と完璧に抑えられており、先発または第二先発など重要な局面で登板してくるのは間違いない。連打が難しい相手には、前述した西武戦の時のようなしぶとさで、1点をもぎ取りにいく攻撃を徹底して活路を見いだすのが今季のロッテだ。
ソフトバンク戦では、昨季から7連勝中の二木康太をはじめ、今季5勝1敗の美馬学、白星はつかずとも14回を投げて防御率2.57と安定した投球を見せているチェン・ウェインなど、投手陣は防御率2.99と健闘している。
強力なソフトバンク投手陣から1点という重い扉をこじ開けることは容易ではないが、1度こじ開ければ流れを一気に引き寄せられるのが今季のロッテ。幾度となく見せてきた1点への執念を、緊迫した戦いの中でいかにできるかにかかっている。
【関連記事】
・山川穂高と井上晴哉「二大ぽっちゃり砲」をデータで比較
・チェン・ウェインはロッテの救世主となる 一貫して変わらない抜群の制球力
・中村奨吾がロッテ優勝のキーマン ホークス戦は驚異の打率.429、苦手な球種への対応力も向上