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吉川尚輝は仁志敏久に匹敵? 巨人の「1番二塁」定着に必要なこと

2020 11/12 18:35林龍也
巨人の吉川尚輝
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ⒸSPAIA

大卒4年目の今季キャリアハイをマーク

今季、圧倒的な強さでセ・リーグを制した読売ジャイアンツ。リーグ屈指の戦力層を誇る巨人だが、開幕前にレギュラーと目されていたのは遊撃の坂本勇人、三塁の岡本和真、中堅の丸佳浩くらいで、あとは流動的な状態で開幕を迎えた。

シーズンを戦う中で、期待の若手の台頭や積極的な補強でチームの競争を促し、戦力を保ち続けたことが優勝へとつながった。その期待されていた若手の1人が、4年目のシーズンを迎えた吉川尚輝だ。

岐阜の中京高から中京学院大を経て、2016年ドラフト1位で入団。2年目の2018年こそ92試合に出場したが、3年間で108試合と入団時の期待値からすればもの足りない成績に終わっていた。昨オフ、原辰徳監督が「吉川の完全復活が一番の補強」と語るほど、その潜在能力は高く評価されていたが、ケガに泣かされ続けてきたのだ。

その吉川が今季、111試合に出場して打率.274、8本塁打、32打点と、キャリアハイの成績を残している。開幕戦に1番二塁でスタメン出場するも、しばらくは下位打線での起用が続いたが、9月半ばから1番に定着して自身初の規定打席に到達してみせた。

平成を代表する巨人の1番二塁・仁志敏久

来季以降も強打の1番二塁として活躍が期待される吉川だが、巨人の1番二塁と言えば、90~00年代に活躍を見せた仁志敏久氏を思い出すファンも多いことだろう。171cmと小柄ながら、パンチ力のある打撃と華麗な守備で、1年目からレギュラーに定着。巨人在籍11年間でリーグ優勝3回、日本一1回に輝くなど、リーグを代表する二塁手として活躍した。

仁志は茨城の名門・常総学院で3年連続夏の甲子園に出場し、早稲田大では4年秋に主将としてリーグ戦優勝、明治神宮野球大会準優勝。日本生命を経て、1995年ドラフト2位(逆指名)で巨人に入団している。アマチュア球界のエリート街道を走ってきた仁志と、大学4年時まで全国舞台とは縁がなかった吉川だが、そのプレイスタイルは似たものを感じさせる。

打撃、守備ともに磨きレギュラー定着へ

仁志は横浜での3年間も合わせて、14年間で通算1587試合に出場して1591安打を放ち、打率.268、154本塁打、541打点をマークした。今季の吉川と同年齢(26歳)となる1997年シーズンの成績は、119試合で打率.242、10本塁打、39打点。今季吉川が残した成績とほぼ同等の数字が並んでいる。

吉川尚輝と仁志敏久の打撃成績比較


その中で「率」に着目すると、打率・長打率・出塁率では吉川が上回っていることがわかる。単純に比較するのはやや乱暴だが、数字だけを見れば、26歳時点での成績では吉川も負けていないのだ。

仁志はその後、年々打率を上げるとともに、29歳のシーズンに20本塁打も達成。33歳のシーズンには28本塁打・60打点と、1番打者としては脅威的な成績を残している。守備力にも磨きをかけ、28歳から4年連続でゴールデングラブ賞を獲得するなど、選手として成熟していった。吉川が今後、巨人のトップバッターを担っていくのなら、これらの数字が一つのベンチマークとなるはずだ。

また吉川の場合、ポスト坂本勇人として大学時代の定位置だった遊撃転向もあり得る。もしそうなれば、守備の負担が増し、打撃に影響が出る可能性もあるが、2000安打を達成した坂本の後釜となると、攻守で高いレベルを要求されることになるだろう。

いずれにせよ厳しい道ではあるが、それが優勝を宿命づけられた巨人のレギュラーを張るということなのかもしれない。

巨人の切り込み隊長となるために

吉川の一つひとつのプレーは、決して仁志に劣っていない。天才的な打撃センスや、高い身体能力を活かした華やかな守備は見る者を唸らせるほどだ。

仁志との違いはやはり体力面だろう。1年目からレギュラーに定着し、10年連続で100試合以上に出場した仁志と違い、吉川が100試合以上に出場したのは今季が初めて。試合に出場さえすれば活躍できる吉川だが、まだ2年続けて結果を残すことはできていない。来年はレギュラーとして100試合以上に出場し、規定打席に到達することが、最低限の目標となる。

また打撃においては、今季の対左投手は打率.333と得意としているものの、対右投手は.260と大きく低下。対戦機会の多い右投手との成績が良くなれば、成績アップに直結してくる。ポイントは高めの球への対応力だ。ヒートマップ(※)では右投手の高めの球に対する空振りが多くなっている。ここをファウルで逃げられるようになれば、得意なコースを待つチャンスも増えてくるだろう。

2020年シーズンも、日本シリーズを含めてあとわずか。まずは仁志も1年目に手にした日本一の栄冠を手中に収め、来季以降の飛躍へとつなげたい。その先に、令和の巨人軍を象徴する切り込み隊長への道がある。

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2020年度 吉川尚輝のコース別ヒートマップ