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【チームの将来10年を左右する男】阪神・近本光司 変化球への対応次第で劇的進化も?速球には球界屈指の強さ

2020 4/29 11:00青木スラッガー
阪神タイガースの近本光司ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

61年ぶりのセ新人安打記録更新 華々しいデビューを飾った近本

未だ開幕の見通しが立たないプロ野球。話題が乏しく、なかなか今季のことは考えづらい状況だ。しかし、そんな時期だからこそ、今ではなくもう少し将来のことに目を向けてみたい。チームの将来10年間を見据えると、重要となるのはこれから成長していく若手選手だ。今後の成長度合いが、2020年代のチームの命運を左右しうる選手に注目していきたい。

今回は昨季ルーキーにして阪神の中堅手レギュラーを掴み、半世紀以上も前の記録を更新して注目を集めた近本光司を取り上げる。

社会人出身のドライチとして即戦力を期待された2019年シーズンの近本。オープン戦から結果を残して開幕スタメンを掴むと、3・4月は打率.327をマークし、早々に「1番・中堅手」の定位置を確立した。

オールスターのファン投票ではセ・リーグ外野手部門2位にランクイン。シーズン折り返しの時点で既に虎党から圧倒的な人気を獲得していた。後半戦もヒットを積み重ね、9月19日のヤクルト戦ではシーズン154安打に到達。長嶋茂雄が持っていたセ・リーグの新人安打記録を61年ぶりに更新した。

シーズン成績は打率.271、9本塁打、42打点、36盗塁で盗塁王を獲得。新人の盗塁王獲得は赤星憲広以来、2リーグ制以降でNPB史上2人目となる。新人王こそ36本塁打を放ったヤクルトの村上宗隆に譲ったものの、新人特別賞を受賞するなど、数々の快挙を達成する華々しいプロデビューを飾った。

赤星以来の不動の中堅手期待も…出塁率に課題

右中間・左中間が深い甲子園をホームにする阪神にとって、中堅手はチーム全体の守備力を大きく左右する非常に重要なポジションである。

かつては90年代に新庄剛志、00年代に赤星と、守備だけではなく打線の中でも中心を担う絶対的な中堅手がいた。しかし、首の怪我によって赤星が2009年に突然引退して以来、攻守に優れ、レギュラーとして何年も活躍できるほどの中堅手がなかなか出てこなかった。特に、ここ数年は中堅手を固定できないシーズンが続いていた。

そういったチーム事情のなか、中堅手として鮮烈な登場を果たしたルーキーの誕生により、チームも前年の最下位から一転して3位に浮上。「近本の登場が、将来的には阪神のターニングポイントになるのかもしれない」と、期待させてくれるプロ1年目になった。

近本が昨季放った安打はリーグ5位タイの159本。リードオフマンに定着したこともあり、レジェンドの記録を塗り替えるほどの安打を積み重ねることができた。一方で、出塁率.313は出塁能力が重視される1番打者としては決して高い数字とは言えない。選球眼を表す指標IsoD(出塁率-打率)の.042は、セ・リーグの規定到達打者で下から2番目で、四球を選ぶことに関しては課題を残した。

これから長く中心選手として活躍していくならば、さらなるレベルアップも求められてくる。ただ、昨季の打撃を詳細に振り返ると、打者として伸びしろを感じさせるデータがあった。

小兵でも力負けしない、150キロ以上の投球に球界トップクラスの強さ

アマチュアの打者がプロの世界に飛び込んできて最初に苦労することのひとつに、今まで見たことがない剛速球への適応がある。そこに関しても、近本は150キロ以上の投球に対して打率.375をマーク。これはセ・リーグの規定到達打者で2位、パ・リーグを含めても3位の数字だ。

2球種別成績ⒸSPAIA


セ・リーグ1位は広島・鈴木誠也(.396)。3位から5位は巨人・丸佳浩(.359)、中日・阿部寿樹(.355)、ヤクルト・青木宣親(.348)、パ・リーグ1位はオリックス・吉田正尚(.500)というメンツで、球界を代表する打者の名前が並ぶ。プロ1年目の近本も彼らと同レベルでトップクラスの速球への対応を見せていたのだ。

またゾーン別の打率を見ても、インコースは多くの打者が苦手とするインハイには打率.188と苦戦したものの、インコース真ん中は打率.409をマーク。身長171センチ、スピードが売りとあって体のラインも細めの小兵タイプながら、初めて対戦するプロの投手に対して速球とインコースをしっかり弾き返し、決して「力負けしない」というところを見せてくれた。

2019年セ・リーグ 150キロ以上の打率ランキングⒸSPAIA


そうなると、課題はやはり変化球。ストレート、カットボール、ツーシームの速球系はいずれも打率3割以上をマークしたものの、スライダーは.177で、フォークも.131だった。決め球として扱う投手が多い、この2球種に苦戦している。速球は球界トップレベルの強さを持っているだけに、変化球への対応次第で飛躍的に打力が向上する可能性があるだろう。

追い込まれてからの決め球を見極める精度は、昨季課題を残した「出塁率」にも直結する。進化を遂げ、文句なしの1番あるいは2番打者としてチームを引っ張っていくことができるか、虎のスピードスターのこれからが楽しみだ。

2020年プロ野球・阪神タイガース記事まとめ