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センバツ準優勝右腕・山田陽翔が近江を選んだ理由、決意を胸に最後の夏へ

2022 4/15 11:00柏原誠
イメージ画像,ⒸmTaira/Shutterstock.com
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準決勝・浦和学院戦でケガに負けず170球完投

「近江ブルー」と言われる水色のユニホームが今年も甲子園に大きな爪跡を残した。第94回選抜高校野球大会。決勝で大阪桐蔭に大敗を喫した近江(滋賀)に大きな拍手が送られた。

大会開幕の前日、京都国際のコロナ感染者多発により、代替出場が決まった。2回戦までは彦根市から甲子園に日帰りするという、難しいコンディションでの快進撃だった。

ハイライトは準決勝の浦和学院(埼玉)戦だろう。山田陽翔投手(3年)が5回の打席で左足首に死球を受けた。その痛がりようにプレー続行は不可能か思われたが、アイシング、テーピング処置を受けてマウンドに戻ってきた。足を引きずりながら―。

主将で4番打者、エースも担う山田。強打を誇る浦和学院が相手だけに、大黒柱の負傷は分が悪すぎる。だが、山田は延長11回、170球を1人で投げ切った。その裏に女房役の大橋大翔(3年)の3ランでサヨナラ勝ちという、劇的エンディングが訪れた。

翌日の決勝も先発したが3回途中でベンチに交代を直訴した。やはり限界だった。昨夏の4強に続く近江の快進撃は、頂点まであと1歩のところで終わりを告げた。滋賀県勢のセンバツ4強以上は初めて。近畿では滋賀だけが春夏通じて甲子園での優勝がなく、悲願はまたも持ち越された。

2017年秋以降で8度優勝の近江

山田は漫画の主人公のようなドラマティックな選手だった。傷だらけのエースの姿には当然、賛否両論あったが、決勝戦で自ら降板を申し出たように、決して向こう見ずな選手ではない。ずっと交代機を迷っていた多賀章仁監督(62)も山田の性格を熟知した上で、起用を続けていた。

近江は言わずと知れた全国的な強豪校だ。近年、滋賀県内では圧倒的な成績を誇る。ここ5学年(17年秋以降)は秋、春、夏の12大会(20年春は中止)で8度優勝。準優勝も2度。甲子園がかかった秋と夏は全て優勝、または近畿大会出場を果たしてきた。夏は3大会連続で甲子園切符を勝ち取っている。

これだけの成績を残しても、世間のイメージは大阪桐蔭、智弁和歌山など近畿地区の強豪校より「少し下」といったところではないだろうか。滋賀県勢が近畿で唯一、甲子園優勝がないことにも起因している気がする。

滋賀県内だけでなく、甲子園でも勝ち上がっていくことで名声はさらに高まるのは間違いない。18年夏のベスト8、21年夏のベスト4、そして今春の準優勝。近年は文句のない実績を積み上げてきた。あとは優勝だけだ。

東邦で甲子園ベスト4の父を超え、狙うは「滋賀から日本一」

山田が近江を選んだ理由もそこにある。あまたの選択肢がある中で「滋賀で日本一になりたい」と近江を選んだ。父は愛知・東邦で甲子園ベスト4の実績があったが、あえて地元に残った。「父を越すのは最大の恩返しと思っていた。近江高校で日本一に近づけたのはすごくいいことかと思います」。センバツ後に発したコメントは印象的だ。

近江は高校球界において一種の「特別なチーム」になろうとしているように映る。18年夏の準々決勝で、金足農(秋田)にサヨナラ2ランスクイズを決められたことで、逆にその戦いぶりが高校野球ファンの心に刻まれた。

近江の試合はいつも特有のムードに包まれる。ブラスバンドも一役買っている。学校がある彦根市に本社のある総合スーパー「平和堂」のイメージソングを取り入れたり、滋賀出身のアーティスト、TMレボリューションの「HOT LIMIT」を急きょ演奏したりと、アルプススタンドから「滋賀代表」を積極的にアピール。ピットブルの「Fireball」など洋楽をアレンジした応援スタイルは、すでに名物化した。

山田の左足はすっかり回復し、春の大会、そして最後の夏に向けた準備に入っている。鮮やかな水色のユニホームは琵琶湖をイメージしたもの。「湖国の盟主」たる近江のチャレンジがまた続いていく。

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