金光大阪、浦和学院を撃破して堂々の準優勝
甲子園の大観衆がグッドルーザー(素晴らしき敗者)を称えていた。自然発生的に起きた拍手と歓声が銀傘に響く。選抜高校野球大会決勝戦。大阪桐蔭が17点をリードし、勝負の行方が見えた9回裏なのに、スタンドは近江の「反撃」に期待のリアクションを示した。
1死から石浦暖大が右前打で出塁し、準決勝でサヨナラ3ランを放った大橋大翔が右前打で続く。コロナ禍を一瞬忘れる興奮が聖地によみがえる。最後は併殺打でゲームセット。夢の続きは見られなくても、優勝した大阪桐蔭ナインに対するのと同じ熱量の拍手が準優勝の近江ナインにも降り注がれた。
「すべてにおいて、大阪桐蔭さんは日本一のチームだった。代替出場でここまで来れるとは思ってなかった。この結果はチームにとって、本当に大きな経験になる」
あまりに潔い姿勢で、近江・多賀章仁監督(62)は大敗を受け入れた。決勝こそ、昨年の神宮大会王者に地力の差を見せつけられた形でも、ファイナルに進むまでの足取りは称賛に値した。
京都国際がコロナで大会を辞退し、近畿地区の補欠1位だった近江の出場が決まったのが開幕前日の3月17日。宿泊先が見つからず、滋賀県彦根市から早朝移動で臨んだ長崎日大との1回戦(20日)をタイブレークの延長13回に制し、勢いをつかんだ。
2回戦では、聖光学院に快勝。準々決勝は「因縁」の金光大阪との再戦だった。昨秋の近畿大会準々決勝。近江は4回まで6点をリードしながら、大逆転負けを喫した。リマッチを制して選抜で初めてのベスト4に進むと、「東の横綱」浦和学院も真っ向勝負で撃破した。
時の勢いや運が大きく作用した快進撃ではない。地に足のついた力を証明した5試合だった。
エース山田陽翔が故障していた昨秋近畿大会
ただ、代替出場校として初優勝を逃した結果より、これだけの実力校が代替出場だった事実に目を向けたい。選抜出場校を決める重要な参考資料が各地区の秋季大会成績。7枠の近畿地区は優勝の大阪桐蔭、準優勝の和歌山東、ベスト4の天理と金光大阪が当確と目され、残りの3枠を8強の京都国際、市和歌山、東洋大姫路、近江が争った。
同じステージで敗れた場合、選考の判断基準で次の3点が比較材料に用いられることが多い。①試合の内容②戦力③地域性、だ。4チームの準々決勝を見ると、近江は前述のように4強の金光大阪に6―7で惜敗。京都国際も同じく1点差負け(2―3)とはいえ、相手の和歌山東は決勝まで進んだ。
東洋大姫路は優勝校の大阪桐蔭に0-5、市和歌山が1―5で敗れた天理は準決勝で敗退しており、地域性も含めて、ここまでは市和歌山が一番、分が悪いように見える。
となると、最終的なジャッジは、純粋な戦力比較に委ねられた。近江は昨夏の甲子園4強に導いたエース山田陽翔が故障のため、近畿大会のマウンドに一度も上がれなかった。2試合で17失点。他の要素では拮抗する一方、最も分かりやすい形で優劣が表れた投手力が明暗を分けたようだ。
フタを開けてみれば、その山田が甲子園で復活を遂げ、獅子奮迅の働き。負傷の回復具合まで考慮(期待?)して、これほどの逸材を抱えるチームを選ぶべきでは、とは少し無理な注文かもしれない。
「優勝、準優勝校は無条件で選出」など明文化すべき
思えば、1月28日の選抜出場校発表でも、物議を醸す「ジャッジ」があった。東海地区で、昨秋の同大会準優勝の聖隷クリストファーでなく、ベスト4の大垣日大が選出。こちらは明らかな逆転現象で、ネットを中心に百花繚乱の議論が出た。
同地区の責任者は「投打に大垣日大が勝ったということです」と説明したものの、大会が開催されて、勝敗が決している以上、かなり無理のある主張には違いない。多くの野球ファンが選考に違和感を抱く結果を招いた。
大会名に「選抜」と銘打たれている以上、どの学校が選出されたとしても、だれも文句は言えない。同じく議論の対象になる「21世紀枠」も含め、「選抜」のシステムだからこそ生まれた夢もあったはずだ。
ただ、出場選考に関しては、明らかに曲がり角に来ている。「優勝、準優勝チームは無条件、それ以外は秋季大会の結果などで総合的に判断」など、ツッコミどころを排除して明文化するのはどうか。万人は無理でも、少しでも多くの人が納得するような基準が求められている。
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