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高校野球が誇る夏の名勝負5選

2016 10/28 03:11
野球ボール,ⒸShutterstock.com
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Photo by Evgenii Matrosov/Shutterstock.com

夏は高校球児の熱い眼差しと全力プレーを目の当たりにする季節だ。本稿ではこれまでの歴史の中での名勝負にスポットを当てたいと思う。100年近くの歴史の中で、後世に語り継がれる5つの名勝負を紹介する。

【延長17回の死闘】1998年・準々決勝/横浜 vs PL学園

1998年の高校野球界の話題をさらったのは、横浜高校の松坂大輔だった。圧倒的なピッチングで春の選抜で優勝した後の夏の全国選手権、準々決勝でPL学園と対戦する。
当時の横浜高校は松坂に支えられ、公式戦44戦無敗の金字塔を打ち立てたチーム。彼を最も苦しめたのがPL学園だった。
序盤で3点を先制して試合を優位に進めていく。しかし、そこは最強ピッチャーとうたわれた松坂。失点を重ねるも要所は締めるピッチング。延長戦に突入してからも味方の援護もあり、15回裏を終えて6-6。16回表に執念で横浜が勝ち越すも、その裏にPL学園が再び追いついて7-7。17回表に2点を奪い横浜が突き放す。その裏、最後の打者を松坂が三振に仕留めようやくゲームセットを迎えた。試合時間337分、松坂の投球数は250球を数えていた。
この試合を機に、延長に関する規定が見直され、延長戦はそれまでの18回から15回までという変更がなされることにもなった。

【がばい旋風】2007年・夏・決勝/佐賀北 vs 広陵

2007年の夏の決勝は、ドラマティックな幕切れが待っていた。
広陵の久保投手の好投もあり、佐賀北は7回までに打ったヒットがわずか1安打のみと、完璧に抑えられていた。一方で広陵に4点を奪われる苦しい展開。しかし、転機は8回に訪れた。久保投手が前触れもなく制球を乱し、1死満塁のチャンスを迎えたのだ。続くバッターが押し出し四球を選び1点を返す。追撃ムードの佐賀北は、この満塁のチャンスでなんと続くバッターが打ったボールは風に乗り見事にスタンドイン。逆転満塁ホームランとなり、あっという間にスコアをひっくり返し5-4。そのまま反撃を許さず、初の全国制覇を達成したのだ。
開幕戦に登場し、初戦がなんと延長15回引き分け再試合。再試合でも延長戦を制して延長サヨナラ勝ち、2回戦に進出し、そして劇的な決勝。
数々の熱戦を演じ、この大会を大きく盛り上げた。当時流行した「佐賀のがばいばあちゃん」になぞらえ、「がばい旋風」と呼ばれる旋風を巻き起こした伝説のチームだ。

【ハンカチ王子】2006年・決勝/早稲田実 vs 駒大苫小牧

2006年の甲子園を沸かせたのは、早稲田実の斎藤佑樹投手。ポケットに汗を拭うハンカチを仕込ませていたため、「ハンカチ王子」というあだ名が付いていた。延長サヨナラ勝ち駒大苫小牧の田中将大(現ヤンキース)との壮絶な投げ合いを演じたのが、2006年夏の決勝戦だった。
1-1のまま双方譲らず延長15回で引き分け再試合が決定。翌日の再試合。前日の疲労を考慮して駒大苫小牧は田中将大を温存するも、初回に1点を失ったところですぐにマウンドに上がる。一方の斎藤佑樹投手は先発としてマウンドに立ち、執念で投げ続けた。試合は早稲田実が4-1でリードしたまま終盤に突入。駒大苫小牧にとって最後の攻撃となる9回表にドラマが待っていた。ホームランで2点を奪い1点差に迫ったのだ。2アウトとなり最後のバッターは田中将大。鬼気迫る表情でバッターボックスに立った田中だったが、最後は斎藤投手が三振に仕留めゲームセットを迎えた。
2日間に及ぶ見応えのある投手戦に、満員のスタンドからは万雷の拍手が響いていた。

【野球は9回2アウトから】2009年・決勝/中京大中京vs日本文理

「野球は9回2アウトから」という言葉は、「諦めない精神の象徴」とも言える野球界の金言だ。2009年の決勝戦はこの言葉の大切さをかみしめた一戦となった。
中京大中京打率5割超のエース・堂林を中心に得点を量産。対する日本文理も抵抗を見せるも追いつくには至らず、10-4と6点リードを許したままで最終回に突入する。すぐに2アウトを奪われ崖っぷちに立たされた日本文理。しかし、ここから奇跡が始まる。
四球からの2連打で10-6、続く打者に死球を与えたところで中京大中京は投手交代を決断。しかし重圧に耐えられず最初の打者に四球を与えると、続くエース・伊藤が2点タイムリーを放ち10-8、いよいよあと2点差にまで迫る。球場全体の異様な盛り上がりに完全に呑まれた中京大中京ナインは立て直しができず、代打の石塚選手がタイムリーヒットを打たれいよいよスコアは10-9に。スタンドもミラクルを期待するが、最後の打者の強烈なライナーは三塁手のグラブに収まりゲームセット。あと一歩及ばなかったが、奇跡を見た一戦となった。

【史上稀に見る乱打戦】2006年・夏・準々決勝/智弁和歌山vs帝京

夏の甲子園史上稀に見る乱打戦となったのがこの試合だ。両チーム合わせて7本のホームランが飛び出す、派手な試合展開になった。
7回を終えた時点で、4本のホームランで提供を攻略した智弁和歌山が8-2で6点リードを奪っていた。追いすがる帝京は、8回表に2ランホームランでスコアは8-4に。続く9回表、2アウト1・2塁から4連打で3点を奪い1点差に詰め寄ると、続く打者がタイムリーを放ちついに同点、後続打者は3ランホームランで遂に逆転に成功する。6連打で8点を奪い逆転した帝京は8-12で9回裏を迎える。
しかし、代役の投手がおらず、外野手がマウンドに上がらざるを得なかった帝京。連続四球でいきなりのピンチを背負うと、続く打者が打ったボールはスタンドイン。3ランホームランでスコアを11-12にまで戻し1点差に迫る。ここからまた四球と死球で2人が出塁→続く打者がセンター前タイムリーヒットを放ち、智弁和歌山がなんと12-12の同点に追いつくのだ。
この後さらに出塁を許し1アウト満塁。交代投手がいない帝京、イニングの途中では立て直しが効かず、最後は押し出し四球で13-12。意外な形で乱打戦に終止符が打たれた。

まとめ

夏になると、画面越しにも伝わってくる高校球児の心意気。大人になっても心を打たれる。数々の奇跡を目の当たりにするたびに、スポーツの素晴らしさを感じる。今年の夏も新たなドラマが待っているかもしれない。