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札幌開催案で混乱の五輪マラソン、台風で初の中止の懸念も

2019 10/24 06:00田村崇仁
雨中で行われたロンドン五輪女子マラソンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

暑さ対策以外に五輪憲章の壁

「五輪の競技実施期間は16日間を超えてはならない」。国際オリンピック委員会(IOC)の憲法ともいえる五輪憲章にはこんな一文が明記されており、大会期間の延長は想定されていない。

来年の東京五輪は課題の「暑さ対策」としてマラソンと競歩の札幌開催案がIOCと大会組織委員会の間で突如持ち上がり、花形種目を奪われそうな東京都が反発して混乱必至の展開だが、ここに来てさらなる懸案で指摘されるのが「台風対策」だ。

開催中のラグビー・ワールドカップ(W杯)は日本列島に甚大な被害を与えた台風19号の影響で計3試合が中止となった。競技日程を見ると、五輪の男子マラソンは閉会式と同日の8月9日に予定され、仮に台風直撃などの場合は日程の前倒しも難しく、五輪史上初の中止でメダリストが誕生しない競技となる可能性が高い。

東京五輪・パラリンピック組織委員会は万が一の場合に備え、全34会場で台風対策の「危機対応計画」を近くまとめるが、屋外種目の女子マラソンや競歩も警備の都合などから日程変更は容易でなく、台風が来れば中止になる可能性が出ているという。

台風で自転車コースの道路寸断も

気象庁によると、近年の台風上陸は年4~6回で五輪を開催する7~8月が多い。たとえ急転直下の政治決着でマラソンと競歩が札幌開催となった場合でも、北海道への台風接近数は2018年に3回、2016年に5回となっている。天候ばかりはその年にならないと読めない部分が大きいが、屋外競技はゲリラ豪雨などの天候不順も含めて柔軟な対応が求められる。

東京、神奈川、山梨、静岡の1都3県を通る自転車ロードレースは暑さ対策だけでなく、今回の台風直撃で相模原市のコースで土砂崩れが起き、道路が寸断された。復旧のめどはまだ立たない状況だ。来年もどんな悪天候に見舞われるか予断は許さず、短縮版のコースや別ルートなども今後検討する必要が出てきそうだ。

ラグビーW杯より過密日程

ゴルフ(埼玉県川越市)など16日間の大会日程の範囲内で順延できる競技もある。だが史上最多33競技を実施する五輪は競技ごとに会場が決まっており、ラグビーのW杯より過密な日程だ。急な変更は容易ではない。屋内競技も今夏のテスト大会では台風の影響を受け、交通機関の乱れでスタッフが集まれず、競技開始が大幅に遅れるケースもあった。

五輪の暑さ対策を巡っては男女マラソン午前6時、男子50キロ競歩は午前5時半にスタート時刻を変更、路面の温度上昇を抑える「遮熱性舗装」の導入、人工雪のテストなど試行錯誤を繰り返してきたが、ここへ来て新たな難題に直面し「最悪のシナリオも想定する必要がある」と組織委関係者は受け止める。

「完璧な順調」とIOCからも称賛されてきた東京大会の運営準備は開幕まで10カ月を切り、札幌開催案も含めて直前までドタバタ騒動が続く雲行きだ。

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