シカゴでコスゲイが2時間14分4秒
2時間19分46秒。これは2001年9月30日、ドイツのベルリン・マラソンで、シドニー五輪金メダリストの高橋尚子が当時マークした女子マラソンの世界最高記録だ。Qちゃんが「2時間20分の壁」を世界で初めて突破してから18年。10月13日、シカゴ・マラソンで25歳のブリジット・コスゲイ(ケニア)が驚異的な2時間14分4秒の世界新記録をマークして2連覇を達成した。従来の記録は2003年にポーラ・ラドクリフ(英国)が樹立した2時間15分25秒で、これを16年ぶりに塗り替えた。
世界歴代トップ5のうち男子は4位までが昨年以降に出たもの。女子は今年の記録が1、4、5位を占める。来年の東京五輪を控え、アフリカ勢がマラソン高速化に拍車を掛けている現実が再び浮き彫りになった形だ。かつて「夢物語」ともいわれたが、女子で「2時間10分の壁」を破る日も現実味を帯びてきた。
5キロ16分前後の高速レース
沿道からの拍手喝采の中、コスゲイは余力を残したまま両手を挙げてゴールした。スタート時の気温は5度前後。男子のペースメーカー2人を追って最初の5キロを15分28秒の超ハイペースで通過すると、その後は5キロ16分前後のラップタイムをキープ。30キロ以降もペースを落とさず、独走態勢を築いて軽やかに偉業を達成した。これまでの自己ベストは優勝した今年4月のロンドン・マラソンで出した2時間18分20秒だった。
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男子はエリウド・キプチョゲが昨秋に2時間1分39秒の世界記録をつくり、このレース前日には公認されない特別レースながら人類初の「2時間の壁」突破の快挙を達成したばかり。女子マラソンの前世界記録保持者ラドクリフもテレビ中継のゲストとして自身の記録が塗り替えられる瞬間を見届け、一緒に記念撮影に収まった。
トップ10に日本選手の名前なし
女子マラソンの世界歴代記録を見ると、トップ10に今や日本選手の名前はなく、2005年にベルリンで2時間19分12秒の日本記録を出した野口みずきの12位が最高。歴代2位のラドクリフ以外はケニアとエチオピアのアフリカ勢が席巻する。
マラソンはコースや気象条件にも影響されるが、記録だけで見ると、日本勢の渋井陽子は歴代21位、高橋尚子は24位。女子の東京五輪代表に決まった前田穂南(天満屋)の自己ベストは2時間23分48秒と、世界の背中ははるかに遠いのが現状だ。
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長距離王国ケニアではトップ選手で相次ぐドーピング問題が暗い影を落とす中、英紙ガーディアンによると、ニューヒロインになったコスゲイはレース後の記者会見で「女性にとって2時間10分の壁を突破することは可能だと思う。さらにタイムを縮めていくことに集中したい」と意欲的に語った。
東京五輪は高温多湿の過酷な条件で高速レースにならない見方もあったが、ここへ来て暑さを懸念した国際オリンピック委員会(IOC)などの方針で札幌開催に変更されることが確実な情勢となっている。
耐久レースになればチャンスもあるとみられたが、札幌開催でどんな影響があるか。五輪で一時代を築いた日本女子マラソン界にとっては、スピードレースを加速させるアフリカ勢が今回も大きな壁として立ちはだかりそうだ。