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サニブラウン出遅れなければ決勝進出できた…87年ぶり快挙逃す

2019 9/30 17:00鰐淵恭市
決勝進出を逃したサニブラウンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

世界陸上男子100m「9秒台トリオ」準決勝敗退

日本の期待を背負った「9秒台トリオ」は世界の高い壁にはね返されてしまった。ドーハで開幕した陸上の世界選手権の男子100メートルに出場したサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)、桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)の3人はいずれも準決勝には進んだものの、決勝進出はならなかった。

サニブラウンの自己ベストが9秒97、桐生と小池が9秒98と、史上初めて日本代表全員が9秒台となった今大会。1932年ロサンゼルス五輪で6位入賞した吉岡隆徳以来となる87年ぶりの決勝進出を期待されたが、今大会も日本の悲願はならなかった。

最も楽な組で痛恨の出遅れ

準決勝で敗れた「9秒台トリオ」の表情は、三者三様だった。 一番悔しそうにしていたのは、日本勢で唯一2回9秒台をマークし、決勝進出に一番近い存在とみられていたサニブラウンだった。サニブラウンが走った準決勝の1組では、10秒12を出せば自動的に決勝に進める2着になれた。3組ある準決勝の中で、レベル的には最も楽な組だった。サニブラウンのタイムは10秒15。0秒03及ばなかった。

敗因は誰の目にも明らかだった。スタートへの反応が明らかに遅すぎた。反応時間は0秒206。通常、0秒2を超えることはあり得ない。日本で最もスタートがいい山県亮太(セイコー)は0秒10台で反応する。いかに今回のサニブラウンが遅いかが分かる。

この組で2着になって決勝に進んだブラウン(カナダ)は0秒161。「たられば」になるが、もし、サニブラウンがブラウンと同じ反応時間だったら、決勝に進んでいることになる。中盤以降の追い上げを見ると、実にもったいないレースだった。

レース後のサニブラウンは、眉間にしわを寄せながら、インタビューに答えていた。「(ピストルの)音が小さくて、全然聞こえなかった」「自分が集中し切れていなかった部分があるのかもしれないが、本心的にはよく分からない」。何か自分で消化しきれない思いを抱えているようだった。

自己ベストに0秒30も及ばなかった小池

世界選手権初出場の小池は動きが硬く、前半から伸び悩んだ。記録は10秒28で7着だった。自己ベストに0秒30も及ばなかった。

小池の走った2組では、10秒09をマークすれば決勝に進める2着に入れた。レース後、小池は悔しさを全面に出さず、サバサバとインタビューに答えた。「スタートでちょっと失敗した。もったいないレースだった」

「大舞台で弱い」を払拭した桐生

3人の中で一番前向きなコメントを残したのは、最も厳しい組で走った桐生だった。自己ベストが全員9秒台という厳しい組に入ったが、スタートがぴたりとはまった。反応時間は0秒125でこの組では2番目に速い反応で、中盤までは先頭を走った。

ただ、後半は力の差を見せつけられ、10秒16で6着。自動的に決勝に進める2着には0秒11届かなかった。

「大舞台で弱い」と言われる桐生だったが、いわゆる世界大会(五輪、世界選手権)では初めて準決勝に進んだ。そして、準決勝も彼が走った世界大会では、力を出し切ったという意味ではベストレースだったかもしれない。「今回、ワクワクした状態でスタートラインに立てたのは収穫」と語ったのもうなずける。

確実に決勝に行くには9秒台が必要

準決勝でどれだけの走りをすれば、日本勢悲願の決勝進出はなるのだろうか。2000年以降の世界大会での決勝進出ライン(準決勝のタイムが最も遅い決勝進出者)は次のようになる。

決勝進出ラインⒸSPAIA

ⒸSPAIA


風やトラックの違いがあるので、一概には比較できないかもしれないが、2008年北京五輪からレベルが上がっているのが分かる。それまでは10秒2台でも決勝に進んでいるが、北京五輪以降は10秒0台前半を出さないと厳しくなっている。

北京五輪以降で決勝進出ラインが最も高いのは2015年北京世界選手権の9秒99。それに続くのは、2013年モスクワ世界選手権の10秒00になる。逆に最も低いのは2011年大邱世界選手権の10秒16だ。

確かに世界のトップ8となる決勝に進むのは、楽なことではない。が、日本勢の自己ベストを見れば、決して不可能な記録でないことも分かる。9秒台で走って準決勝で敗退した大会はないのだ。そして、日本代表の3人の自己ベストはいずれも9秒台である。準決勝という大一番でベストのレースができれば、新たな道を切り開くことができる。

かつての日本勢は海外のレースにあまり出場せず、それが世界大会での弱さにつながると指摘された時期もあった。だが、今や桐生や小池は、世界のトップ選手が集うダイヤモンドリーグに参戦し、高いレベルに常にもまれている。

今大会、桐生もこう言っていた。「9秒台が全員なのは別に珍しいことではない」。そういった気持ちがあれば、日本勢の決勝進出も夢物語でなくなる。

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