何度もはね返されてきた「10秒の壁」
出そうで出なかった9秒台に初めて足を踏み入れたのが桐生祥秀だ。
陸上の花形、男子100m。平成10年に伊東浩司が10秒00の日本新記録を樹立して以来、19年間も「10秒の壁」を破れなかった。
日本記録更新の歴史をさかのぼると、飯島秀雄が昭和43年のメキシコ五輪で10秒34をマークしてから昭和62年に不破弘樹が10秒33を記録するまで19年を要した。その後は小刻みに更新され、朝原宣治が平成5年、8年、9年の3度、日本記録を更新。その朝原の10秒08を更新したのが伊東だった。
しかし、その後は日本有数のスプリンターが9秒台に挑むが、何度も壁にはね返される。平成28年のリオデジャネイロオリンピック男子100mでは、山縣亮太とケンブリッジ飛鳥が準決勝進出、400mリレーでは山縣、飯塚翔太, 桐生、ケンブリッジの4人で銀メダルを獲得するなど着実にレベルアップ。翌年6月には当時無名だった多田修平が、追い風4.5mの参考記録ながら9秒94をマークし、日本人選手が10秒の壁を破る期待は日増しに高まっていた。