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9秒台へ答えをつかんだ山縣が捲土重来を期す 陸上セイコーゴールデンGP注目選手(2)

2018 5/19 07:00SPAIA編集部
山県亮太,Ⓒゲッティイメージズ
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喪失感から一転

日本の男子短距離陣のトップが久々に集結する「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」。5月20日にヤンマースタジアム長居で開催。この大会で捲土重来を期すスプリンターがいる。

2017年、同じ会場で行われた全日本実業団対抗選手権で、日本歴代2位タイとなる10秒00をマークした山縣亮太(セイコー)だ。

日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀(日本生命)とはライバルとして、長年切磋琢磨してきた間柄。日本人で初めて10秒の壁を突破するのは、山縣ではないかとも言われてきた。それだけに、桐生が持つ日本記録更新にかける思いもひとしおだ。

喪失感から一転

桐生が9秒98をマークした2017年9月9日、山縣は自宅の部屋にいたという。携帯電話にニュース速報の音がした。桐生の快挙を伝えるニュースだった。

2017年シーズン春先に故障した山縣は、思ったような走りができなかった。日本選手権では6位に終わり、世界選手権の代表にも選ばれなかった。

  そんな状況から、日本人初の9秒台は自分ではないのだろうと覚悟はしていたという。だが、ライバルに先を越されて平常心でいられるはずもなかった。

「悔しかった。かなり喪失感は大きかった。2、3日は落ち込みました」

今後も競技人生は続く。だから、気持ちを切り替えた。桐生が記録を出したときは、トレーニングでスピードを上げる時期だった。その時に自分がやることを突き詰めた。

桐生が9秒台を出した2週間後の9月24日、山縣は自己ベストとなる10秒00をマークした。追い風は0.2メートル。桐生が9秒98を出した時は追い風1.8メートルだった。風を考慮すれば、間違いなく山縣の方が速い。

2017年シーズンは山縣にとって苦しい1年だったが、締めくくりに日本人トップスプリンターの意地を見せた。

新しい動きの感覚をつかむ

スタートの反応は世界トップクラス。号砲に対して0秒1未満でスタートするとフライングになるが、山縣は0秒110を切る反応を見せる。走りを突き詰め、安定して10秒0台で走る再現性もあるが、中盤の加速に課題を抱えていたという。この中盤の加速こそ、ライバルである桐生持ち味だ。

中盤の加速を手に入れるために山縣は海外選手のレースやトレーニングの映像を見たり、本を読んだりと試行錯誤を繰り返した。「答え」をつかんだのは、10秒00を記録したレースの1週間前。

新たに得た体の使い方によって、足が後ろに流れなくなったという。シーズン終盤の冬、トレーニングのテーマの一つに、新しい動きの感覚を忘れないようにすることがあった。

「めざすのは日本人1位ではない」

そして2018年3月、シーズン初戦となったオーストラリアでのレースは、追い風1.5メートルのなか10秒15で1位に。タイムは決して良くないが、山縣自身は走りの内容に満足している。昨年得た新たな体の使い方ができていて、中盤に加速できたからだ。

4月29日に山縣の地元広島で行われた織田記念では、追い風1.3メートルのなか10秒17でトップだったが、本人は不満顔だった。

「思ったよりタイムが悪いな」

1月に腰を痛めた影響で、体づくりが1カ月ほど遅れた。その影響で今季はさほどタイムが伸びないのだろう。

調子が上がってくるとすればこれから。だからこそ、5月20日のゴールデングランプリには期待がかかる。

山縣もゴールデングランプリには強い思いがある。

所属するセイコーの冠大会だからだ。昨年はケガの影響で欠場した。責任感の強い男だけに、忸怩たる思いがあったはずだ。

今大会の目標を聞くと、こう返ってきた。

「目指すのは日本人1位ではなく、ガトリンら海外勢にも勝って全体の1位になること」

そして、今季はどこまで目指すのか。桐生の持つ日本記録更新なのか。

「9秒8台を出したい。100%の状態で、いい風が吹けば、ぎりぎり手が届くと思う」

山縣はさらなる高みを目指している。


日本一へ2強を追う多田とケンブリッジ 陸上セイコーゴールデンGP注目選手(3)へ続く