大舞台で勝てない
9秒台を出した今でも言われる桐生の弱点が、大きな大会での弱さ。日本一を決める日本選手権や、世界選手権、五輪といった大舞台になると、なぜか力を発揮できない。
そのスタートとなったのが、この2013年でもある。
8月中旬、インターハイを終えたばかりの桐生は、モスクワで開かれる世界選手権へ向かった。
17歳の桐生は、エントリーされた58カ国79人の中で、参加標準記録を突破して出場する選手の中では最年少だった。練習で初めてウサイン・ボルトを間近に見て、「でかいです。1歩で進む距離がすごいです」と、興奮していた。高校生らしく、初々しさを感じさせていた。
レースは予選落ち。準決勝にほんのわずかだけ届かなかった。
距離にして10センチ程度。準決勝に進むためには各組3着までに入る必要があったが、桐生はその3着に100分の1秒届かずに4着となる10秒31だった。
スタート前は、6月のダイヤモンドリーグの経験をいかした。「レース前は周囲を見回した。あの時(6月)は一点集中し過ぎた」。得意とは言いがたいスタートもよかった。「60メートルまでは良い感じ」。
だが、終盤で伸び悩んだ。ゴール前で硬くなる悪癖が出てしまった。「最後の2、3歩でいかれた」
「悔しい、しかない。世界とタイム差はかなりある」と語りながらも、17歳の桐生は前を向いた。「でも、高校生は基本作りで、大学生になったら技術練習も取り入れる。これから先いけるかな」
だが、この100分の1秒差が痛かった。桐生が100で出場した世界選手権、五輪は、この2013年の世界選手権と2016年のリオデジャネイロ五輪の2回だけと以外に少ないが、いずれも予選落ちに終わっている。
特にリオの予選は全く走りに精彩を欠いたが、この2013年の世界選手権でもう0秒01速くゴールして準決勝に進出していたら、その後の桐生の大舞台での苦手意識は、生まれていなかったかもしれない。