奇妙なスパイク
屋外でのトラック種目のシーズンは秋で終了するが、冬場には室内での大会がある。
桐生が洛南高校のユニホームを着て出場する最後の試合は、2014年2月に大阪で開かれた日本ジュニア室内という大会だった。
室内大会では100メートルは行われず、少し短い60メートルが短距離の種目になる。会場が狭いから、ゴールした後は高跳びで使うようなマットにつっこんでいくという種目である。
桐生は決して前半型ではないので、60メートルは得手としないのではないかと思っていたが、関係なかった。
この大会でマークしたのは6秒59。ジュニアの日本新記録だった。従来の記録を0秒12も更新する走りだった。
「記録も狙った」という中ででのジュニア日本新だった。
実はこのレース、桐生は奇妙なスパイクを履いている。
普通、短距離の選手が履くスパイクはソールと言われる底の部分が硬くて、薄い。長距離と違い、クッションが不要だからだ。
だが、この時の桐生が履いていたスパイクはソールに少し厚みがあり、つま先からかかとにかけて平らなになっていた。
そして、スパイクのピンが4本だった。スパイクのピンは11本までつけることができる。通常、短距離選手は多めのピンを好む中、4本というのはかなり少ない。
実はこのスパイクが、桐生の迷走を表すものだったと後に分かることになる。