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日本人初の9秒台を達成した桐生10秒01からの4年を振り返る(5)

2017 9/29 10:57きょういち
陸上競技
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出典 Stefan Schurr / Shutterstock.com


日本人初の9秒台を達成した桐生10秒01からの4年を振り返る(4)

 「サカタ」

 10秒01で日本中の注目を浴びるようになってから、桐生祥秀は通学の電車の中で友人から、そう呼ばれるようになっていた。

 高校3年生が10秒01を出したインパクトは大きかった。

 新聞、テレビにはこぞって取り上げられた。保護者らの関係者が撮影したでであろう、高校の体育祭のリレーでごぼう抜きする姿や、中学生の時のレースもテレビで放送された。

 桐生の顔は、多くの人が知る存在になっていた。

 「スピードに下半身がついていかなかったんです」

 そう桐生は後に話してくれた。

 街や電車で、見知らぬ人のひそひそ声が聞こえた。それが嫌で、「サカタ」という偽名で、友人に呼んでもらった。ちなみに、サカタという名前に、意味はなかったらしい。

 9秒台への重圧とは、友人に偽名で呼んでもらうほど、重いのだ。

スタートに悩んでいく

 10秒01を出してから三つ目の100メートルのレースとなったのは、日本一を決める2013年6月8日の日本選手権。結果は10秒25で2位だった。今もライバルとしてお互いを意識し合う山県亮太(当時は慶大)に0秒14差で敗れた。

 スタートで出遅れた。その差を追いつこうとするあまりに動きが硬くなり、得意とする中盤での加速に乗り切れず、後半でも差を縮められなかった。

 実は山県に対するこのパターン、この後もずっと続いていく。10秒01を出した織田記念の決勝は山県に0秒01の僅差で勝ったものの、この日本選手権での負けは大きかった。

 桐生がそこまでスタートが遅い訳ではなかったが、山県はスタートが世界レベルでみてもかなり速い。それが桐生には重圧だった。

 この負けパターンは、この4年後に急成長してくる、やはりスタートが得意な多田修平(関学大)への負け方と同じ。スタートダッシュ型への苦手意識や負け方が、変な言い方になるが確立されてきたような気がする。

 この日本選手権の時のウォーミングアップでは、しきりにスタートダッシュに悩んでいたという。

 ただ、敗れたとはいえ、男子100メートルで高校生が2位になるのは43年ぶりの快挙だった。そして、この結果でこの年の8月にある世界選手権への代表権を手にした。桐生初の世界選手権代表だった。

9秒台が出ないと失敗に

 次は6月14日にあったインターハイの近畿予選だった。高校生の大会はだいたい、予選、準決勝、決勝とある。ただでさえ、疲労がたまる中で、ゴールデングランプリや日本選手権など、これまで経験したことがなかったシニアの大会もあった。

 疲れがある中で、記録は10秒17の大会新で2連覇だった。桐生にとって自己2番目の記録であり、高校生の記録としてみても、桐生自身が出した10秒01に次いで速い記録だった。すごい記録なのである。

 にもかからず、競技場には驚きの雰囲気はなかった。これがすごい記録だという認識はほとんどなかった。流れた空気は落胆だった。観客からはこの時もため息がもれたと思う。世の中的にも「9秒台が出ない=失敗レース」という図式ができあがっていた。

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