期待と17歳の心の乖離
10秒01を出した後のレースは、約1週間後の5月5日に訪れた。海外選手とも走る国際大会のゴールデンプランプリ東京大会。桐生にとっては、初めての海外選手への挑戦だった。
「見たことのない世界。しっかり走りたい。もう1回、10秒0台を出せれば」。レース前にはそう語っていた。
結果は10秒40で3位だった。タイムはいまいちだったが、向かい風1.2メートルと条件に恵まれなかった。このころは「外国人は後半の伸びが違うな」と語る余裕もあった。
いつ、日本人初の9秒台が出るのだろう。桐生への期待はどんどん高まっていった。
次の100メートルのレースは、6月2日のインターハイ京都府予選だった。記録は10秒31の大会新記録。風は向かい風0.1メートル。個人的な印象だが、10秒01を出して以降、桐生が2017年9月に9秒98をマークするまで、条件に恵まれた時が少なかったと思う。特に調子がいいときに限り、向かい風が吹いていたように思う。
このレースぐらいからだっと気がする。桐生が9秒台で走れないたびに観客からは、大きなため息がもれるようになった。
見ている方の期待が分からないでもない。でも、その期待と、17歳の心には乖離が生まれていく。