「気持ちに余裕を持てるかがポイント」
第43回大阪国際女子マラソンが28日に開催される(同日正午~カンテレ・フジテレビ系全国ネットで生中継)。
パリ五輪マラソン日本代表の最後の1枠を争う“マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)ファイナルチャレンジ”の1つ。五輪出場権を獲得するには2時間21分41秒の設定記録を突破した上で、3月に開催される名古屋ウィメンズマラソンを含めた日本人最高タイムとなる必要がある。
国内外からトップ選手が多数出場予定。解説を務める高橋尚子氏(シドニー五輪金メダリスト)が今大会の見どころを語った。
「パリ五輪“最後の1枠”をかけた白熱した戦いになると思います。三つ巴と言われている松田瑞生選手(ダイハツ)、前田穂南選手(天満屋)、佐藤早也伽選手(積水化学)が、それぞれどういう作戦でどういう戦い方をするのか目が離せないです!」と期待感を抱く。
「招待選手の記者会見で良い表情をしていたのは松田選手です。ここまで良い練習を積めてきたんだろうな、手応えをしっかりつかんでいるんだろうな、という印象で、達成感を感じさせる表情でした」と話した。
続けて「それぞれタイプの違う選手ではありますが、今回は30キロまでペースメーカーがつくので、そこまでいかに温存した走りができるのか。そして、30キロ以降動き出すレースに、どういう対応をとり、どう自分の展開に引き込んでいくのかがポイントになると思います」と切り出した。
「1キロを3分20秒で走るのは、設定記録突破に必要不可欠なタイムになります。これ自体が自己ベストよりも速い選手も当然いますが、いかに気持ちに余裕を持てるかがポイントになりそうです」と指摘。
さらに「自己ベストが設定記録を上回っている松田選手と、それ以外の選手とではやはり精神的に違うと思います。今回の大阪に限らず、世界大会のかかったレースや五輪を走る時もそうですが、スタートラインは一緒でも、実はスタートラインはそれぞれ全然違うところにあるんです。2時間15分で走れる人と、20分、25分で走れる人とでは、戦い方が変わってきます。全力で1番良い走りをしないといけない選択肢が少ない人と、余裕をもって自分の好きなようにレースをコントロールできる人。心の持ちようが明らかに違うと思います」と五輪金メダリストならではの分析をした。
その上で「設定記録で走れた経験のある松田選手にとっては、確実に精神的に有利に働くので、目に見えないスタート地点をいかに有利に進められるかがポイントになりそうです。ただ、前田選手は2時間20分を切ることを念頭において日々練習をこなしていると聞いていますし、他の選手もタイムを想定して練習を組んでいると思うので、意外と不安なくチャレンジすることができるとも思います。“私はいける”と信じて挑んでくるので、逆に自己ベストはあまり重視せずに臨んでほしいです」と力強く語った。
前田穂南は30キロまでに飛び出す可能性も
また「それぞれの選手が、今大会までに出場してきた試合の流れをいかせるんじゃないかと思います」と推測。
松田については「怪我をしましたが、しっかり治した上で、駅伝をきっかけに練習を積めています。バランスよく力を持っているので、冷静に状況を見極めながら、外国人選手を含めた先頭集団を意識してレースを作っていくんじゃないかと思います」と展開を予想した。
一方、佐藤は「暑い中挑んだ世界陸上の疲れをしっかり取って大阪に来ています。スタミナに少し不安を抱えつつも、最後に出すスピードはクイーンズ駅伝で見た通り強いものを持っているので、30キロから40キロの間が鍵になってきそうです。しっかりつくことができていれば、彼女にも勝機が見えてくると思います」と期待。
東京五輪代表の前田には「MGCでものすごく良い練習ができていたのに、結果を出しきれませんでした。でも、そこまでの蓄積を終わらせてしまうのはもったいない。一から作り上げるには、時間も限られてしまっている。そこを踏まえて、それまでのことを土台にし、今回の大阪にしっかりとつなげてきています。MGCでは答えが出なかったので、それを大阪でしっかり確かめたい気持ちは強いんじゃないかと思います」と予想した。
「もちろん設定記録を切るようなレースになってきますが、松田選手や佐藤選手が30キロまでペースメーカーについていこうとする中で、前田選手はその前に出る可能性があります。過去に25キロで飛び出た経験もありますし、最後に勝負するよりも逃げていたいタイプなので、ロングスパートで早く逃げの体勢に入るのが理想だと思います。仕掛けどころやポイントはそれぞれ違いますが、誰が自分のレースに引き込んでいくのかが楽しみです」と期待を寄せた。
天満屋のチームメイト多い前田穂南は「力の受け渡しができる」
今大会では、前田を筆頭に天満屋からの招待選手が多数出場。「同じチームから同じ大会に何人も出場すると、練習では相手を気にしてしまって、ものすごくシビアになります。女子チームだと特に難しいなと思いますが、試合になると一緒に練習してきたからこそ、チームメイトが頑張っているから苦しくても頑張ろうという励みになると思います」と分析する。
「前田選手にとっては、松下菜摘選手や大東優奈選手が近くにいることによって、力の受け渡しができる。松下選手に関しては、MGCの時に“前田選手が1人で引っ張っているから少し交代して楽をさせてあげよう”と思って前に出たと聞きました。同じチームの選手をアシストできる、ライバルだけど仲間になれるというのが、精神的に大きな助けになると思います」と独自の視点で語った。
最後に、今年も務める解説に向けては「せっかく現役を引退してまだ日の浅い福士(加代子)さんや渋井(陽子)さんがいらっしゃるので、できるだけ現場に近い声も届けながら、マラソンの楽しさを伝えられたらいいなと思います」とやる気十分。
「マラソンは、1つの出来事をとっても、いろいろな考え方ができます。それに対してどう思うかは人それぞれで、答えがありません。トップアスリートの言うことが正解というわけでもありません。マラソンにはいろいろな楽しみ方があることを皆さんに知っていただいて、マラソンの可能性を感じてもらえたらうれしいです」と笑顔で締めくくった。
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