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壁に囲まれた大阪国際女子マラソン、周回コースはありだったのか

2021 2/2 06:00鰐淵恭市
優勝した一山麻緒ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

中継はランドクルーザーで対応、周回遅れに進路ふさがれた前田穂南

周回コースと男子のペースメーカーに賛否両論が集まった大阪国際女子マラソン。高低差がほとんどないコースとなったために、記録が出るとの前評判だったが、優勝した一山麻緒(ワコール)のタイムは2時間21分11秒で、野口みずきさんの持つ日本記録(2時間19分12秒)に約2分及ばなかった。日本記録更新がならなかったのは、選手の体調面の問題もあっただろうが、今回の周回コースは成功だったのだろうか。

ベルリンの壁ならぬ「長居の壁」。長居公園の約2.8キロの周回コースの一部の外周には一般の人が立ち止まって観戦できないように、高さ約2メートルの壁が建てられた。

コースの外から見た壁

コースの外から見た壁ⒸSPAIA


大阪国際女子マラソンの協賛社がゼネコンの奥村組ということもり、同社が壁を建設。日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「周回コースは世界では普通。変わったことはやっていない」と言うものの、大きな壁の横を走るという、異様な雰囲気の中でレースは行われた。

公園の道を使ったコースのために道幅が狭く、中継車はどうするのか、周回遅れをどうするのか、という問題があったが、クリアできている部分とできていない部分があったようだ。

中継車については、中継局が通常の大型の中継車を走らせることは無理と判断し、ランドクルーザーに切り替えた。ほかはバイクで対応。周回遅れの選手もランドクルーザーが近づくと道を譲り、周回遅れによってトップを走る一山が進路を邪魔されるということはなかった。

中継車として使われたランドクルーザー

中継車として使われたランドクルーザーⒸSPAIA


ただ、2位の前田穂南(天満屋)は割を食ったようだ。周回遅れの選手は抜かされる際はコースの外側を走るという申し合わせのようなものがあったようだが、中継車が近くにいない2位以下の選手が後ろに来ているかどうかはわかりづらかったようで、前田の進路がふさがれる場面が度々テレビに映し出されていた。

タイムトライアルのように映った周回コース…やはり街中を走るのがマラソン

レース前、フラットな道を15周する今回のコースは記録が出やすいのではという意見も多かった。これについて実際にどうだったのかというのは断定するのが難しい。

大会前に「日本記録」ということを全面に出していたため、記録のハードルが上がってしまったが、一山のタイムはセカンドベスト(自己2番目)であり、野口さんの持っていた大会記録を上回るものである(今回は男女混合レース扱いなので、女子単独で行われた野口さんの記録も単独レースの大会記録として併記される)。

2位の前田も2時間23分30秒は自己ベストで、決して悪いタイムではなかった。一山は年末に体調不良になって練習ができなかったこと、前田も年末に足を痛めたことなどを考えると、上出来の記録とも言える。3、4位の選手も大幅に自己ベストを更新している。

ただ、瀬古リーダーは世界的に「普通」と言ったものの、日本陸連の尾縣貢専務理事が言ったように、2.8キロという短い周回は「異例中の異例」だ。女子マラソンでバルセロナ、アトランタ両大会のメダリストである有森裕子さんが反時計回りに走り続けることによる足への負担を選手に質問していたが、そういったことが起こっていた可能性もある。

また、「少しぐらいアップダウンがある方がリズムをつかみやすい」という関係者もいた。日本記録を持つ野口さんは「周回コースは、最後は自分との戦いになる」とも言っていたように、景色が変わらず、気分転換のできない周回コースは、いつも以上に強い精神力が必要だったかもしれない。

周回コースにはメリットもデメリットもある。ただ、一つ言えることは、これが常態化していいものではないということではないだろうか。テレビの映像はマラソンというよりも、タイムトライアルに近かった。大会側にも「これがデフォルトになっては困る」という声もあった。

今回はコロナ禍での開催ということで致し方なかったし、記録を狙うときにこういったやり方もあるだろうが、尾縣専務理事が言うように「街中を走って、多くの人に応援してもらうのがマラソンのあるべき姿」だと思う。

男子のペースメーカーの先例となるか

一方、瀬古リーダーが「男子が女子を引っ張って悪いですか?」と語ったように、男子のペースメーカーは「あり」だった。周回コース以上に、男女混合レースが当たり前の海外では普通のことである。

男子ペースメーカーに引っ張られる前田穂南と一山麻緒

男子ペースメーカーに引っ張られる前田(奥)と一山ⒸSPAIA


もともと、日本記録を狙う場合、女子のペースメーカーだと中間点ももたない可能性が高いが、今回のように世界選手権代表の経験もある川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)だと問題がなかった。こまめに一山に声をかけ、契約である40キロを超えても選手を引っ張る気遣いもあった。

日本歴代1~3位は2時間19分台だが、いずれもベルリンマラソンで達成し、男子のペースメーカーが先導した。瀬古リーダーは「女子だけで2時間19分台を出すのは難しい」と語る。そういう意味で、今回のレースはいい前例になった。次は3月14日の名古屋ウィメンズマラソン。主催者の判断に注目である。

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