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【スーパーボウル】49ersはなぜ負けたのか、不可解だった若き指揮官の判断

2020 2/5 17:16末吉琢磨
49ersのカイル・シャナハンHC
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Ⓒゲッティイメージズ

どちらに勝利が転ぶかわからない熱戦のスーパーボウル

マイアミでおこなわれた第54回スーパーボウルは、31対20でカンザスシティ・チーフスがサンフランシスコ・49ersに勝利し、その幕を閉じた。最終的に11点差がついたものの、勝敗はどちらに転ぶかわからない、そんな試合内容だったが、勝利したのはチーフスだった。それはなぜなのか? 理由の一つに49ersを率いた若き指揮官、カイル・シャナハンが試合を通して見せた不可解な判断がある。

正攻法の守備で試合に臨んだ49ers

49ers守備の最大の強みは、強力なディフェンスライン(DL)。4人のDLのみでプレッシャーをかけても、クオーターバック(QB)にプレッシャーをかけられることはシーズンを通して証明済みだった。ブリッツを入れないことで十分な人数をパスカバーにあてることができる49ersは、コーナーバックがスピードに不安を抱えていたにもかかわらず、チーフスの高速バックス陣にロングゲインをほとんど許さなかった。

早いタイミングパスによる攻撃を徹底したチーフス

チーフスはそんな49ersのDLをやはり恐れた。DLのプレッシャーを回避するため、チームの司令塔、パトリック・マホームズに、早いタイミングでパスを投げることを徹底させたのだ。早いタイミングで投げることができない場合には、フラットゾーンにいるランニングバックへのパスか、もしくは投げ捨てさせた。

チーフスはQBを49ersの強力フロントによるプレッシャーから守ることを優先したが、このプランは上手くいったとは言い難い。インターセプトで有利なフィールドポジションを獲得しながらも、チーフス自慢の攻撃陣が前半に10点しかあげられなかったことがそれを証明している。

49ers首脳陣に見られた判断の揺らぎ

序盤は両チームともに攻撃が上手く機能しなかったが、チームの強みを考えると、49ersにとってロースコアの展開は望むところだった。しかし不安要素も垣間見えていた。それはフィールドではなく、サイドラインで試合の判断を下すヘッドコーチ、シャナハンだ。

まず第1クオーター、チーフスの攻撃選手が反則(無資格捕球者ダウンフィールド侵入)を犯したときである。第2ダウン残り2ヤードのプレーで、反則による罰退は5ヤード。陣地の取り合いであるフットボールにおいては、反則の罰退を受け入れ、第2ダウン7ヤードでプレーを始めるのが通常の選択である。しかし、49ersは反則による罰退ではなくダウンを更新することを選ぶ、つまり、パス失敗による第3ダウン2ヤードを選んだのである。第3ダウン2ヤードは、守備にとって対応が非常に難しい状況だ。この選択の結果、49ersはランでダウンを更新され、結局このシリーズはチーフスにTDを奪われてしまう。

次に49ers前半最後の攻撃である。前半残り時間59秒から始まった攻撃を、49ersは時間が止まらないラン攻撃から始めた。ゲインは3ヤードに留まり、3つ残っていたタイムアウトも取らなかった。スタンドで見ていた49ersのGMで、元NFLプレーヤーのジョン・リンチが、タイムアウトを取るよう手で示したのも当然の反応である。

試合後にシャナハンはこの判断について、チーフスが3回のタイムアウトを持っている状態で攻撃権を渡したくなかった、と述べている。彼は自分たちの攻撃陣が、1ミニットオフェンスを遂行できないと判断。そして、それまでわずか10点に抑えていた自慢の守備が点を取られることを想定した、ということになる。味方の指揮官が下したこのような判断は、果たしてチームの士気にどのような影響を与えただろうか。

最後の局面でも見せた消極的な選択

第4クオーター、ついに火が点いたチーフスの攻撃によって逆転を許した49ersだったが、時間は2分39秒残されており、再逆転は十分可能であった。しかし、ここでもシャナハンは消極的な選択をおこなってしまう。

ハーフウェイラインまで進んだ49ersは、第3ダウン10ヤードと追い込まれた状況にあった。ここで、シャナハンはチームで最高のタレント、タイトエンドのジョージ・キトルをダウンフィールドに出さず、パスプロテクションにあてた。ワイドレシーバー、エマニュエル・サンダースへの確率の低いロングパスによる一発TDを狙ったのだ。

チーフスのディフェンダーはディープゾーンをケアしていたため、ショートゾーンはがら空き。第4ダウンでのギャンブルは当然の状況であり、2回の攻撃で第1ダウン更新と考えるほうが可能性は高かったはずだ。このクリティカルな状況で、チーム最高のレシーバーをブロッカーにあてる消極的な選択はどう捉えればいいのだろうか。続く第4ダウン10ヤードでも、キトルはパスプロテクションに入った。彼こそがその10ヤードを手繰り寄せるための適任者であったはずなのに。

逆にチーフスが第4クオーターに見せたサミー・ワトキンスへのロングパス成功と、トラビス・ケルシーが獲得したパスインターフェアランスは、どちらも49ersの数少ないブリッツを狙い、マンツーマンの状況でおこなったパスだった。チーフス陣営には「マンツーマンなら我々は負けない」という選手に対する確固たる信頼が根本にあり、それがあの決定的な2つのプレーに繋がったと言える。それはシャナハンが見せたチームに対する姿勢とはあまりに対照的なものであった。