異例のツアー中断
ATPとWTAは、6月7日までのツアーを中断した。理由はもちろん、世界中に感染が拡大した新型コロナウイスによる肺炎、COVID-19だ。中国武漢市に端を発するといわれるこの感染症は、いまやアメリカやイタリア、スペインといった欧州で急速に感染者数を増やしている。スポーツ界への影響も甚大で、その中でテニスは男女ともにシーズン中断という決定が下された。
ATPツアーのうち、中止が決定した大会は以下の通り。
ランキングは3/9終了時点
3月上旬の米国でのマスターズ1000が2大会。その後はクレーコートシーズンがはじまるはずだったが、今回の中止・延期の措置で、2020シーズンは延期となった全仏オープン以外、クレーシーズンがまるまるなくなってしまった。
スペインやフランス(モナコ)、イタリアといった国々で新型肺炎の感染拡大が深刻な状況に陥っており、イタリアやスペインでは外でトレーニングすることすら禁じられている。そのため選手たちは、コンディションの維持が非常に難しい状況におかれている。
これはテニスのみならず、全ての屋外競技のアスリートが直面している問題だ。このほか、5月24日~6月7日に開催予定だった全仏オープンは、9月20日~10月4日に延期となっている。
マスターズ1000が5大会中止に
今回中止になった大会のうち、マスターズ1000クラスの大会は実に5つ。グランドスラムに次ぐこのクラスの大会は、獲得ポイントと賞金もグランドスラムに次ぐ規模だ。そのため、選手たちにとっては大一番。そしてこのマスターズ1000はシーズンに9つしかない。うち5つがなくなることの、選手への影響は大きい。
ツアーポイントについては、昨シーズンのポイントが保証されるため、昨シーズンのこの時期に好成績を収めていた選手にとってはポイントの心配は幾分和らいだだろう。クリスティアン・ガリンやブノワ・ペールは今回中止となった期間で、それぞれ2大会で優勝しており、不幸中の幸いと言えるかもしれない。
一方、昨年負傷していた選手や、不振を挽回したかった選手にとっては納得し難い決定だ。クレーコートを得意とする選手の中で、昨シーズンタイトルのなかったスタン・ワウリンカと錦織圭にとっては残念な状況となった。
2人ともクレーコートを得意としており、ポイントの積み上げが期待できたからだ。錦織は2月からツアー復帰、ワウリンカは昨シーズン後半から調子を戻してきており、このクレーコートシーズンは復活の舞台となりえた。
賞金は保証されず…
選手にとってもう一つの重大な懸念事項が賞金だ。これはプロの全選手に関係する。さすがの協会といえども昨年稼いだ賞金と同額を保証するわけにはいかないからだ。
表を見ると、マスターズ1000の賞金額が大きいことがわかる。上位クラスの大会は参加者数も多いため総額が膨らむわけだが、それでも1回の勝利で稼げるポイントと賞金は下位クラスの大会に比べて多い。トップ選手たちも経済的なダメージを受ける事態となった。
ちなみに、BNPパリバとマイアミ・オープンが他のマスターズ1000の大会より賞金総額が大きいのは、この2大会のシングルス参加者が多いためだ。例えば、BNPパリバとマイアミ・オープンはシングルスに96名が参加。その一方でモンテカルロ、マドリード・オープン、BNLイタリア国際は56名が出場する。
ATP主催の大会だけでなく、この期間は下部大会も同様に中止となった。ランク上位の選手以外は高額なスポンサー収入が見込めず、テニスで賞金を稼ぐほかない。ランキングの低い選手の中には、テニスレッスンの生徒を募集するなど、仕事探しに奔走せざるを得ない者もいた。いまはそうした行動も制限されているため、経済的に苦しむ選手が出てくる懸念がある。
もちろん、観客や関係者、選手たちの生命と健康が第一であり、シーズンごとに更新されるポイントやお金は二の次だ。特に今回パンデミックを引き起こしているのは肺炎で、これはアスリートにとっては怖い病気だ。万一症状が進行し、呼吸器系を侵され重症化すると、そのまま選手生命を脅かしかねない。中止や延期は、こうした点からも納得できる判断だ。
ただ、パンデミックが収束する兆しはいまのところ見られない。それどころか、6月29~7月12日開催のウィンブルドンも中止を検討していると伝えられた。これはグラスコートシーズンも開催が危ぶまれていることを示唆する。コート上を躍動する選手たちの姿を見るのは、もう少し先のことになりそうだ。
新型コロナウイルス感染拡大による影響まとめ