日本ハム・新庄剛志監督の公式応援ソングなどを歌うシンガーソングライター・HARTYさんは、高校時代に甲子園に出場したものの悔しさだけが残り、大学を中退して音楽の道に進みます。プロデビュー後、憧れだった新庄剛志氏と奇跡的な出会いを果たし、嫌いになった野球と向き合うことになりました。数奇な半生を振り返るインタビューの後編をお届けします。

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■憧れの新庄剛志からまさかのダイレクトメッセージ

司会：香川西高校で甲子園に出場し、卒業後は大学に進学されたんですか？

HARTY：大阪の堺にある羽衣国際大学に進みました。本当はもう野球を辞めたかったんです。甲子園に出たものの、こんな終わり方をするなら嫌だという気持ちになって野球を嫌いになったんです。音楽をするタイミングかなとか思ったり、何をしたらいいのか分からなかったですね。新庄さんにはなれてないのに終止符を打っちゃったというか、甲子園に出ても活躍できない、どこからも声がかからない、もういいわみたいな。ふてくされてました。

司会：でも、結局は野球を続けたんですよね？

HARTY：香川西の岩上昌由監督に進路を相談したら「お前が野球をやめるなら俺は縁を切る」と言われたんです。地元の岸和田にも帰りたいし、だんじり祭にも参加したいし、でも何をしたいかも分からないし、野球をやらなかったら恩師に縁を切られる。そこからの経緯はハッキリとは覚えてないんですが、実家から通える羽衣国際大学で野球を続けました。当時は近畿学生野球3部リーグで監督もいないチームだったので、ここならゆっくり野球をできるし、岩上監督にも縁を切られないしということで入りました。

司会：入ってからはどうだったんですか？

HARTY：僕は1番・ショートでした。監督がいない中、3部から1部まで上がったんですよ。でも、2年の終わりくらいで肩と足が痛くて限界だったので、これはもう野球を終わるタイミングだなと思って辞めました。新庄剛志になれないまま挫折したんです。

司会：そこから音楽の道に進んだんですね？

HARTY：新庄さんになりたいというのは、あの人のように大歓声を浴びたかったんですよね。で、大歓声を浴びるためにはどうしたらいいか考えた時、並行してやっていた音楽が出てきたんです。それで大学も辞めて海外に修行に出ました。

司会：高校時代は音楽活動はやってなかったんですよね？

HARTY：夏の甲子園が終わるまでは一切できなかったんですが、実は終わってから軽音楽部に入ったんです。音楽をやりたかったんでしょうね。

司会：海外で修行を積んで、帰国後に歌手としてプロデビューされたと？

HARTY：そうですね。バイトしながら音楽に没頭していました。2017年頃にインディーズでアルバムを出して、いろんなFM局とかで流れるようになって、少しずつHARTYという名前は売れ出したんです。なんとか音楽だけでご飯を食べられるようになったんですが、33歳の時に1年後も今のままだったら音楽をやめて実家の塗装業を継ぐという話になったんです。

司会：自分を追い込んだわけですね。

HARTY：そのタイミングで、新庄さんが「プロ野球選手を目指します」と宣言した動画がインスタグラムで流れてきたんですよ。それで新庄さんのインスタをフォローしたら、次の日に友達から連絡があって、新庄さんが「良い歌を歌う歌手を見つけた」って、僕の歌ってる写真をインスタにアップされていたんです。

司会：奇跡的な展開ですね。

HARTY：しかも、その後に新庄さんからダイレクトメッセージが届いて、「僕は歌を歌っている人を尊敬します。もっともっと聴いてくださっているお客様に最高の歌を届けてください」と書いてあったんです。ヤバい！ってなるじゃないですか。家のキッチンの換気扇の前で震えながら「新庄さんに負けないように、もっともっと聴いてくださってる皆様に感動や勇気を与えられる歌を頑張って作っていきたいと思います」と返事を打ったのを覚えてます。

司会：そんなことがあるんですね。

HARTY：やり取りはそれで終わると思ったら「歌を作るのに頑張るなんて必要ないんだよ。楽しむことが大事なんだよ。僕に勝つとか負けるとかじゃなくて、もっとバカでかい目標を持って、そこに向かう過程を楽しんでください」というメッセージが届いたんです。それだけでお腹いっぱいだったんですが、さらに次の日に「僕がもう一度プロ野球選手になった時、君に作詞作曲をしてもらって登場曲を歌ってほしい。いいかな？」って来たんですよ。もう、今思い出しただけでも鳥肌が立ちます。

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■あてもなく飛び立ったバリ島へ深夜に到着すると…

司会：憧れ続けた新庄さんから連絡が届くなんて夢のような展開ですね。

HARTY：はい。それでバリ島に住んでいた新庄さんに会いに行こうと「2020年2月28日にバリ島に行きます」ってダイレクトメッセージを送ったんです。でも、バリ島までの飛行機代やホテル代が用意できなかったんで、自分で営業して、1カ月かけて一軒家の塗装をして資金を作りました。

司会：実家でお父さんの仕事を手伝っていた成果が出たんですね。

HARTY：でも、それから新庄さんにダイレクトメッセージを送っても全く返事がなく、全て遮断されたんです。僕は戸惑って、偽物だったんかなとか疑心暗鬼になりました。

司会：どんなシナリオライターにも書けない、ハラハラする展開ですね(笑)。

HARTY：出発予定だった2月28日の朝5時くらいに起きて、どうしようかな、行くって決めたし仕方ないなと思ってインスタを開いたら、ちょうど新庄さんがインスタライブをやり始めたんです。それまで2カ月くらいフル無視されてたのに、僕が入った瞬間に「今日来るんだよね。待ってるよ」って言ったんですよ。よかった～と安堵すると同時にメチャ腹立ったんです。この2カ月間の俺の情緒返せよ、みたいな。

司会：新庄さんはダイレクトメッセージを見てたんですね？

HARTY：そうです。それで僕は「今からバリ島に行きますが、新庄さんがどこに住んでるかも分かりませんし、インドネシア語も話せません。だけど、あなたを自力で探してみせます。お返事いりません」とだけメッセージを送って飛んでいきました。

司会：その行動力も凄いです。

HARTY：新庄さんが好きな、きな粉餅と切り餅とラーメンだけバッグに詰めて、バリ島でボールがないと言ってたので硬式ボール2球だけ持って、深夜1時にバリ島に着きました。でも、税関で止められたんです。きな粉を違法薬物と疑われて、開けて調べるって言われても「お土産やからあかん」と言ったら余計に怪しまれて、結局1時間くらい足止めをくらいました。やっと解放されたのは深夜2時くらいでしたね。

司会：途方に暮れますよね？

HARTY：タクシーもほとんどいないし、どうやってホテルにチェックインしようかと思って歩いてたら、「HARTYくん！」という声が聞こえたんです。空耳かなと思ったけど、もう一回「HARTYくん！」と聞こえたんで、声のする方を見たら新庄さんが待ってたんですよ。僕が何時に着くかも知らんないんですよ。早い時間から最終便まで1人で待ってくれてたんです。

司会：ピンチに現れる、まさにスーパーヒーローですね。

HARTY：「疲れただろ。車乗りな」と言って、すぐ車に荷物を乗せてくれてホテルまで連れていってくれました。チェックインも手伝ってもらって、「じゃあ、明日から練習に付き合ってね。9時に迎えに来るからよろしくね」ってポンと肩を叩いて帰っていったんです。僕、そこから朝9時まで一睡もできなかったです。

司会：憧れの新庄さんに会ってみてイメージ通りでしたか？

HARTY：日本では宇宙人とか言われてましたけど、イメージとは違って誰よりも人情味があるし、誰よりも礼儀をきちんとしてるし、誰よりも計画的だし、誰よりも努力を惜しまないし、全然宇宙人じゃないって思いました。僕が憧れの人に会って緊張してるから、話しかけてHARTYの気持ちを和らげてあげようとか、新庄さんじゃなくて“つーさん”と呼んでって言われたりとか、気を遣ってくださるので僕もすぐ溶け込めました。後で聞いたのですが、「お金を騙し取られてバリ島に来たから人のことを信じられない。だから、君のことも試した」と説明されて、ダイレクトメッセージの返事がなかった理由が分かりました。その時に「僕は絶対に裏切ることなく、信じてもらおう」と心に誓いました。

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■現役復帰の夢を追いかけた共同生活

司会：バリ島ではどんな練習をしたんですか？

HARTY：1週間滞在したんですが、打撃マシンはないし、ティー打撃すらできないんで、トレーニングの一環で一緒に海で泳いだりとか、買い物も汗をかくくらいの早歩きでしてました。買い物もトレーニングなんです。凄いですよ。僕、買い物に行くたびバテバテでしたもん。

司会：ちょうど新型コロナウィルスが感染拡大した頃ですよね？

HARTY：日本に帰国したら2週間隔離措置が取られたんですが、新庄さんが帰国したタイミングで、僕は都内で新庄さんと一緒に住むことになりました。ほかに新庄さんを応援していた2人も一緒に計4人で一緒に生活して、トライアウトに向けて準備を進めました。隔離中の2週間は、家の階段を1階から3階までずっと走ってましたね。屋上にネットを張ってティー打撃もしました。

司会：あのトライアウトの前には、そんな陰の努力があったんですね。

HARTY：その後は室内練習場を借りたり、球場を借りて練習したり、いろいろな方から応援していただきました。トライアウト前日は最後のキャッチボールの相手をさせてもらったんですけど、高校時代に甲子園に出た時に使ったグローブを突き破ったんです。室内練習場から帰り際に「もうちょっとボールを投げたい」と言い出して、小さな街灯しかない公園で、塁間くらいの距離で思い切り投げてくるんです。夜だから暗いんですよ。でも、新庄さんが真剣なので必死で受けて、最後の1球で僕のグローブの網を突き破りました。

司会：気付いた人はいなかったんですか？

HARTY：まさか、あんな所で新庄剛志がキャッチボールしてるとは思わないような公園で、しかも暗かったんで誰も気付かなかったですね。

司会：トライアウトに向けて手応えはあったんでしょうか？

HARTY：本人は「HARTYにこの距離で受けられるくらいやから全然ダメ」って言ってました。そりゃ、そうですよね。だって元メジャーリーガーですよ。でも、僕からしたらバリ島で初めてキャッチボールをした時とは全然違いました。グローブを突き破られましたから。サポートしていたメンバーは全員が間違いなく現役復帰できると思ってました。

司会：トライアウト当日はどんな感じだったんですか？

HARTY：当日は朝3時か4時くらいに起きて、みんなでサウナに行って風呂に入りました。筋肉を柔らかくするには風呂が一番良いみたいです。それから神宮まで4人で車を運転していきました。

司会：どこから見てたんですか？

HARTY： 僕は球場には入れなかったので、神宮球場の隣のホテルの部屋を取って、部屋から見てたんです。球場を見下ろせる部屋は全て新庄ファンで埋まってました。僕と新庄さんのインスタライブに集まっていたメンバーばかりでしたね。

司会：トライアウトでヒットを打ったものの、NPB球団から獲得のオファーは来ませんでしたね。

HARTY：結局プロ野球選手には復帰できなくて、東京の家の3階の部屋に呼ばれて「どこからも連絡はなかった。仕方ないな。俺も次の夢に向かうからHARTYも大阪に帰って一からやり直せ」と言われたのを覚えてます。そこでいったん解散したんですが、新庄さんは1年後に監督になりました。

司会：新庄さんの次の夢は監督だったんですか？

HARTY：今思えばそうだったんでしょうね。その時に聞いたら「次の夢は誰にも言わない」と言われましたけど。

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■新庄剛志から与えてもらった夢を、今度は子供たちに与えたい

司会：その後はHARTYさんも日本ハムや関メディベースボール学院、ポニーリーグの応援ソングを歌うなどご活躍です。今も新庄さんとは連絡を取ってるんですか？

HARTY：今年の開幕戦の前日もお菓子を持ってご自宅まで遊びに行ったんです。そしたら「明日歌うんだろ？」と言われて「いや、何も聞いてないですよ」と笑って返しました。でも、シーズンに入ってからはあまり連絡が来なくなりましたね。今年は相当、気合いが入ってると思います。

司会：新庄さんと何か約束してることはあるんですか？

HARTY：バリ島に行った時に、武道館で「新庄ナイト」をしたいって言ってたんですよ。新庄さんが大好きな歌手をいっぱい呼んで武道館で一緒にライブしようぜって話は、まだ果たされていない約束ですね。

司会：新庄さんなら実現しそうですね。

HARTY：僕自身、高校時代に甲子園で試合に出られず、ボロ負けして嫌いになった野球とまた向き合えたのも新庄さんと出会ったからなんです。野球を嫌いになった男に、また野球を好きになるきっかけを与えてくれました。不思議ですね。小学校で初めて見た新庄さんのホームランから始まって、中学、高校、大学と苦しい思いをして野球をやってきたのは、全てこのためだったのかなと思います。

司会：ドラマチックな人生ですね。

HARTY：プロ野球選手にはなれませんでしたけど、いろいろな方に応援していただいて、プロ野球の試合で歌わせてもらったりとか、本当にありがたいですね。関メディベースボール学院やポニーリーグなど、子供たちの野球にも携わらせてもらえてますし、野球をやっていて本当によかったなと今は思えます。

司会：今後の夢や目標はあるんですか？

HARTY：今までは紅白に出たいとか、もっと有名になりたいとか思ってたんですが、今は未来のヒーローたち、子供たちに夢や希望、感動を与えられるような歌手、そんな男になりたいというのが目標です。

司会：小学校1年生のHARTYさんが甲子園で新庄剛志のホームランを見た時のように、今度は夢を与える側になりたいと。

HARTY：そうですね。この間、球場で歌った時、日本ハムの試合を初めて見に来た幼稚園の年長さんの子がいて、僕のオープニングライブを見て「HARTYになりたい」と言って後日、お母さんと僕のライブに来てくれたんです。凄く嬉しかったですね。

司会：歴史は繰り返されたんですね。

HARTY：僕になりたいって言った子はまだまだ少ないですけど、新庄さんになりたいと思った人は日本中にたくさんいると思います。僕もまだ新庄さんを追いかけてるのかもしれないですね。プロ野球選手になりたかったんじゃなくて、あの人になりたかったのかなとかも思いますし、人に夢や希望や感動を与えられる歌手になりたいですね。

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