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2011年本格的にフリーダイビングを始め、翌年には日本女子代表「人魚ジャパン」の一員として世界選手権で金メダルを獲得するなど、現役アスリートとして活躍する福田朋夏さん。
フリーダイビングという競技を始めたきっかけや、大好きだと語る『海』への想い、競技を通して得られた経験などを語っていただきました。
【ゲスト】
フリーダイバー
福田朋夏氏
1978年生まれ、北海道出身。モデル活動を経て、移住先の沖縄でフリーダイビングと出会い、2011年から本格的に競技を始める。12年の世界選手権で日本女子代表「人魚ジャパン」の一員として金メダルを獲得。16年のバハマ大会ではCWT(※足にフィンを付けての潜水)で94メートルを出し、アジア記録を更新。ホンジュラス大会ではCWTで95メートルを達成し優勝。さらにFIM(※ロープをつたっての潜水)で81メートルを出し、アジア記録を更新。
■沖縄の海が大好きだから移住を決意
――フリーダイビングを始めたきっかけを教えてください。
福田:元々スキューバダイビングをやっていて、沖縄に行っていました。ある時、10メートルぐらい潜ったところで、素潜りの男性の方が来たんです。小さい穴があって、そこをくぐり抜けて出ていくのを見ました。そのとき『タンク』はいらないんじゃないかなと思って。あっちのほうが自由で楽しそうだし、ちょっとやってみようかなと思ったんです。2メートル、3メートル、4メートル、5メートルと徐々に伸ばしていったんですけど、そしたらスキューバダイビングとは違って、海と一緒になれるような、自分が魚になったような感じがして。海の中を自由に動ける!それですごくハマってしまいました。
――2010年に出身地である北海道から沖縄に移住し、フリーダイバーとしての始動を開始しています。沖縄に行くという決断は容易でしたか?
福田:まず、沖縄の海を潜った瞬間に海に恋をしてしまったんです。北海道で働きながら沖縄にずっと通っていたので、それなら沖縄で暮らしながら、海に入るほうがいいかなと。そのときに積み上げてきたキャリアとか全部捨てていったので、勇気はとても必要でしたけど、海の近くで生きるという選択はすごくいい決断だったと思います。
――フリーダイバーになるということについても悩みましたか。
福田:全然。本当に海が好きで毎日潜っていたらこんな感じになっていたというだけで、特に「よし!フリーダイバーになろう」というのはなかったです。もう海が大好きで、ドンドン深く行ったらここまで来ちゃいました。やっぱり、コーチとの出会や良い仲間たちと会ったおかげで、今がありますね。
また、2010年に沖縄でフリーダイビングの世界大会があり、スタッフとして関わらせてもらいました。そのときはセーフティーダイバーといって、選手が潜って上がってくるときに一緒に並走して上がったり、もし選手が倒れたら引き上げるという役割でした。そこで、世界中のすばらしいアスリートを見たんです。彼らの泳ぎがとてもきれいで、100メートル近く潜る人もいて。これは一体何なんだ?と、信じられませんでした(笑)。そのときに私は30メートルぐらいが限界で、何でこんなに潜れるようになるんだろう?という探求心じゃないけど、私も挑戦してみたくなりました。
――2011年、本格的にフリーダイビングを始めてすぐにCWT(※足にフィンを付けての潜水)の競技に出て、58メートルを記録。現在は、徐々に100メートルに記録が近づいています。結果が出ている理由を教えてください。
福田:やっぱり、潜るのが本当に好きなんだなって思います。1日も潜ることを忘れたことがないぐらい、どうやったら深く潜れるかをずっと考えています。そういうモチベーションが大切です。
もちろんトレーニングもやっています。陸ではヨガ、肺や横隔膜の柔軟性を強めるためのストレッチをしたり、あとはプールで潜水して泳いだり。最近は、キックボクシングも取り入れています。マスクを付けて酸素を吸う量を変えながら、高地トレーニングになるような形にしてみたり。また、海の近くにいるときは、深く潜るというのを3日間トレーニングして、1日休むみたいな感じでやっていきます。しかし、90メートル以上潜る週は、1日潜って1日休んでみたいなときもあります。窒素が体にたまっちゃうので、それを出さなければいけないんです。
――ドンドン深く潜っていく、怖さは感じますか。
福田:小さいことから水泳をしていて、水は得意だったんです。でも潜る中で最初は、不安とか恐怖心みたいなのはちょっとありましたが、それを持っている自分が嫌で。なんて臆病なんだろう、なんて弱いんだろうと…だからもっと強い人間になりたいと思って、挑戦していきました。
そしてだんだん慣れてくると、海に潜っているとき、すごく冷静になるんです。潜るときはほとんど目をつぶっているんですよ。使用しているゴーグルは中に空気が入った状態で水圧がかかると顔にへばりついてきて、すごく痛くなるので、中に水を入れています。特殊なレンズが入っていて、(視界は)少しロープが認識できる程度です。
私の場合は、頭のところにアラームを入れているんですけど、深度が分かるように何メートルになったらピピッとなるような感じで、今何メートルぐらいかというのは大体わかります。できるだけパニックならないというか、心拍数が上がらないように潜るので、すごく頭の中もクリアだし、適応能力はとてもある状態だと思います。
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■挫折は毎日。自分をどう成長させるのか
――海外の大会が多い中、拠点はどちらに。
福田:現在はボネールという島国にコーチがいるので、カリブ海のほうを拠点にしています。1年の流れとしては、大体4月ぐらいから大会が始まり、11月後半か12月ぐらいでシーズンが終わるので、冬は解放されます。オフは1~2カ月程度ですが、海の近くで過ごすことが多いので、やっぱり潜ちゃうんですよね(笑)。1カ月以上海に潜らないということはないです。
――今までで一番印象に残っている大会、また印象に残っている海はありますか。
福田:印象に残っている大会は、2012年フランスのニースで行われたAIDA World Team Championship(アイダ チーム世界選手権)です。その試合で、日本女子代表「人魚ジャパン」の一員として、金メダルを獲得しました。そのとき、主催するAIDA(アプネア国際振興協会)が、設立20周年だったんです。AIDAはフランスで生まれた協会で、そこで世界大会をやるという記念すべき中で、優勝できたのは凄く嬉しかったです。
海では、南アジアにあるモルディブが一番印象的でした。競技ではなく撮影で行ったんですが、サメがいたり、いきなりイルカに囲まれたりとか、生命がたくさんあって潜っていてとても楽しかったですね。
――競技を始めて約5年が経ちます。その中で尊敬する選手などはいますか。
福田:もう亡くなってしまったんですけど、ロシアの選手でタリア・モルチャノワさんという方がいたんです。彼女はメンタルが本当に強くて、いつもブレないんですよね。50歳ぐらいでも世界記録を出して、やっぱり印象が一番強い選手です。あとは、ジャック・マイヨールさん。この方も亡くなってしまったのですが、フリーダイング界のレジェンドなので、一度はお会いしたかったですね。
そして、もう一人、海洋探検家で海洋学者のシルビア・A・アールさん。もうおばあちゃんなんですけど、自ら会社を立ち上げて製造した潜水艇に乗り1人で潜っちゃうんですよ。地球の海を守ろうという活動をされていて、とてもかっこいいんです!やはり同じ海を好きな者として、気持ちもすごく分かるので。海に関わる人って、それだけですごく尊敬できますし、家族みたいな感じで仲が良くなるんです。
――一方、2017年5月10日まで行われていたバハマ大会では、耳の怪我があり棄権をしたと自身のブログで書かれていました。
福田:やっぱり水圧がすごくかかるので、一番多いのは耳に穴が開いたり、あと肺が損傷するということはあります。水圧がガッとかかると肺も小さくなるんですよね。パンパンだった肺が本当にこぶし大ぐらいになるんです。それぐらい水圧がすごくて、周りの血管とかが切れちゃって、血痰が出たりとかっていうことはありましたね。毎日水圧にさらしているので、耳と肺が損傷しやすいんです。
――そういった怪我や精神的なことで挫折した経験はありますか。
福田:そんなのいつもですよ。もう毎日です。できた日はすごくうれしいですけど、やっぱりできなかった日は落ち込みますね。いつも自分との戦いというか。自分をどう成長させようかという感じですかね。でも、たまに休みたいなと思うんですよ、海に疲れちゃって。しばらくいいかなって大会の後とか思うんですけど、やっぱり海に入ると潜りたいなと思っちゃうんですよね。潜らないとすごく苦しくなっちゃうんです。
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■今年は記録に挑戦、100メートルを超える
――福田さんにとって海というものは、どんな存在でしょうか。
福田:「海と結婚したい」と思ったぐらい本当に大好きですね!そう感じたのは、素潜りを楽しんでいたぐらいのときだから、フリーダイビングを始める前ですね。その後、彼氏とかできたら、なんか浮気しているような気になっちゃって…ごめんなさい、みたいな、なんか不思議ですよね(笑)。海って全てを教えてくれる、私にとって本当にすごく必要なところなんです。自分の嫌なところとかもすごく見せられるし、教えてくれるんです。良いところ強いところ悪いところも全部気づかせてくれるんです。
心の中にネガティブなものを抱えて潜ったりしたら、跳ね返されるような気がするんです。例えば、いろいろ考えちゃったりすると、いい潜りは全然できません。反対に感謝でいっぱいにしてクリアにして潜ると、すごくいい潜りができるんです。その時はもう自分が水になっちゃったような、地球と一緒になっちゃったような感じになるんです。
残念ながら、その感覚は毎回ではなく、本当に年に何回かですね。そうなったらもう1~2週間ずっとハッピーで、海から上がっても全部が美しく見えるんです!恋をしたときって、全部が鮮やかになるじゃないですか。色とかもキレイに見えたり、あんな感じが続くんです。だからいつも自分を磨かなきゃなと思うんですよね。海は、先生みたいな感じです。
――フリーダイビングという競技を通じて、自身の人生においてどのようなことが得られていますか。
福田:諦めなくなったと思います。昔は、自分自身に壁みたいなのがあった気がします。人間って壁を作っちゃうとそこまでで止まってしまうじゃないですか。だから、それを外す作業をずっとしていて。そうしたら、限界はあるけどないんじゃないかな?というふうに、競技を続けている中で、最近思えるようになったんです。自分の可能性を広げてあげることができたんじゃないかなって感じています。
――最後に、これからの目標や今後の夢を教えてください。
福田:今後は海を守っていけるような活動も視野に入れていきたいと思っていますが、まずは9月に行われるホンジュラス大会に向け、記録が出せるように頑張ります。そして、100メーター越えは今年中にしたいです。現在97メートルまで潜ったんですが、そのときすごく気持ちよくて、結構楽に行けたんです。しかし、その後に耳の鼓膜を怪我してしまい…。だからあともうちょっと、本当すぐそこです。
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(取材・文:太田弘樹/写真:小沢朋範)