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【野球の未来シリーズ:第4回】

リアルの野球と、ゲームでの野球のさらなる共同戦線はどんな可能性があるか?

野球

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【ゲスト】

株式会社バンダイナムコエンターテインメント

CS事業部 第2制作宣伝部

森⼝拓真

1986 年神奈川県出⾝。県⽴横浜平沼⾼校、法政⼤学法学部卒業後、株式会社バンダイナムコエンターテインメントに就職。モバイルコンテンツ、スマートフォン向けゲームアプリ開発、家庭⽤ゲームソフトの営業を担当後、現職にて活躍。


【聞き手】

一般社団法人 日本女子プロ野球機構

事業理事

石井宏司

東京大学大学院にて認知科学、教育×ITについて研究。1997年にリクルートに入社し、インターネット関連の新規事業、エンターテインメントの新規事業、地方創生コンサルティング、人材コンサルティング、事業再生などに従事。その後野村総合研究所にて経営コンサルティング、スポーツマネジメントコンサルティングに従事。アメリカにてスポーツ×ITのテーマのカンファレンスに多数参加。現在は日本女子プロ野球リーグ事業理事。日本女子プロ野球リーグは、現在世界で唯一ある女性選手によるプロ野球のリーグ。日本の女子野球のレベルは世界ランキングNo.1で、世界大会は現在5連覇。世界でも活躍する選手が在籍しているリーグ。

■はじめに
「野球の未来」と名付けたシリーズの中で、今回はいわゆる「野球市場」への最初の入り口として、子どもたちが野球にどう触れるか、ということをテーマに探ってまいりたいと思います。

子どもたちの環境は大きく変わってきています。少子化で今の子どもはお稽古事や塾などで、とても多忙です。また、小さな頃から1人1台、3DSやスマートフォンなどの携帯端末を持ち、インターネットが生まれたことから存在していること当たり前の時代です。こういった中で、「ゲーム」というソフトウェア、コミュニケーションツールが、野球の市場においても今まで以上に非常に重要な存在となってきていると思います。

今回は、そういったいわゆる「野球のゲーム」というものが、今後の野球市場とどんな共同戦線を張れるのか?そこにどんな可能性があるのか?ということを探ってまいりたいと思います。(敬称略)

■今の「野球」の現実をどう捉えているか

⽯井: まずは森口さんの野球歴、そして野球ゲームのプロデューサーとして感じていることを教えてください。

森⼝:野球は小学校3年生から始めました。今でも草野球を続けています。 高校の時は強豪高校ではありませんでしたが、キャプテンをやらせていただきました。もちろん野球をするのも好きなんですが、野球用品もすごく好きで、街の小さな野球用品店とかを見つけたりすると、絶対入りますね。私はキャッチャーなので、キャッチャーミットを手入れするのも大好きですね。

森口さん

 

⽯井:キャッチャーなのですね。そういう経験はゲームプロデューサーとしても生きていそうですね。

森⼝:そうですね。私の場合は本当に20年キャッチャーをやってきてますので、自分の考え方の中に色々と影響があると思います。
扇の要として、1人だけ選手全員の顔を見ながらやるポジションとして、当時は思考は古田さんタイプで、セオリー重視で配球などを考えていく。でもキャッチングは谷繁さんみたいに、捕球時にミットを動かさずに正々堂々と補球する、というキャッチャースタイルを目指していました。今でもプロデューサーという仕事にそういうことが生きていると思います。

⽯井:まさに野球という経験が仕事に生きているのは素晴らしいですね。そんな森口さんから見て、今の野球の環境はどう見えていますか?

森⼝:私は30歳ですが、自分の世代はまだまだ野球に興味を持つ機会が比較的多かったと思います。中学も普通の公立校でしたが、部員が1学年20人前後、全員で50人ぐらい部員がいました。でも今はすごく減っている。これは他のスポーツに取られているという考え方ももちろんありますし、そういう事実もあるかもしれません。

が、ゲームプロデューサーとして考えていることは、「そもそも今のご時世、他に面白いことがありすぎる」ということなんですよ。
忙しい現代人の限られた時間の中で、隙間の時間の中で映画を見ているかもしれませんし、他のゲームをやっているかもしれない。SNSをやっているかもしれないし、スマートフォンで撮影して加工して楽しんでいるかもしれない。

趣味、時間の過ごし方が多様になっていることにもっと着目しています。 自分たちが提供するものは、他の面白いものよりも本当に面白いのか? ゲームも野球も、無くたって生きていける。 こういった現実からスタートすることが大事だと感じています。

■野球ゲームとは、「気軽な疑似体験のツール」

⽯井:なるほど、プロデューサーだからこそ、そういった厳しい現実を捉えてお仕事をしている、というわけなんですね。そういった現実の中で、野球のゲームというものは、一体どんな存在として価値を持ち得る、とお考えなのですか?

森⼝:野球と一口にいっても、実は楽しみ方は様々です。グラウンドで週末に実際に野球をするのが好き、という人もいる。プロ野球を応援するのが好き、という人もいる。データを楽しむ人もいる。イケメン選手を追いかけたい、という人もいる・・・。

それぞれの楽しみ方の中で、実は「気軽に野球そのものを疑似体験できる」というのがゲームの良さ、ゲームならではの強みだと思います。
実際には野球をしようと思っても、9人集められない。グラウンドがない、公園はキャッチボール禁止、時間がない、道具が高い、雨が降っている。プロ野球を応援に行くにはお金がかかる、そういった難しい要因がリアルな野球には色々とあります。そこで「いいや」と諦めてしまっている人も結構いるのだと思います。

そういった人に「これで手軽に野球の疑似体験ができますよ」というものを提供することを、私たちは大事にしています。

⽯井:そういう風にビジネスを明確に定義すると、とてもわかりやすいですね。プロデューサーをしているファミスタシリーズでもそういう工夫があるわけですか?

森⼝:特にファミスタシリーズは、その手軽さ、簡単さということを大事にしています。私も野球をやっていましたので、例えばホームランを打つのはなかなか難しい、ということはよくわかっています。
でも、ファミスタはタイミングに合わせて一つボタンを押すだけで、カキーンと飛ぶ。気軽にホームランを打つ爽快感を味わうことができるようにしています。
それはもともと「寝る前の10分で1試合楽しめる」というコンセプトがあるからなんです。他の野球ゲームよりも、あえて簡単にしているんですよ。

あと、ゲームパッケージや説明書には子どもでも読みやすいようにできるだけひらがなのルビを入れています。

⽯井:非常に興味深い考え方ですね。ゲームをまさに一つのサービスとして考えているんですね。今日は忙しかった、もう明日のことを考えると寝ないといけない、でもちょっと何かリフレッシュや気分転換したい・・・寝酒じゃないですけれど、寝る前にすっきりしてもらう、という、ユーザーのエクスペリエンスに沿った価値がコンセプトに明確になっているのは、非常にビジネス上でも重要な観点ですね。

■プラットフォーム、ゲーム特性を⽣かした市場拡⼤

⽯井: さて、話は変わりますが、今後このファミスタをどうマーケティングしていくのか?ということは、実は野球普及や、野球という市場を再度復活させていくために非常にヒントがあると思っています。どんな風にしていこうとお考えですか?

森⼝:最初に3DSというプラットフォームから考えますと、全世界で約6500万台以上と、かなり普及しています。お子さんが若い家族なら、1人1台、一家で2~3台所有していたりします。そういう中で、これまでのファミスタの売り上げデータの傾向から、「誰がきっかけになって購買しているのか」を分析すると、実はパパなんですね。

ファミスタはちょうど30周年を迎えるので、38歳から43歳ぐらいの若いパパというのが、小学生の時にファミスタ初代をやっていた世代なんです。こういう世代がファミスタを見ると、「懐かしい」と思う。またやってみたいなと思って購買をしていただいている。

そして、次に購入してゲームをしていただいているのが、小学校の1年生から5年生ぐらいの男の子という風になっています。 ただ、小学生が自分の財布からファミスタを買う、となることはちょっと考えにくい。となると、ファミスタ世代のパパがきっかけになって、小学生の子どもに買ってあげてるんじゃないかと思うんです。ジャンル的にも親が買い与えやすいジャンルですし、自分でやりたいから、お子様と一緒になって、ママを説得して買うみたいなストーリーが見えてくる。

だからこそ、「簡単でわかりやすい」「小さい子どもでも遊べる」「色んなモードがあって息が長く楽しめる」「野球というスポーツ、安心できるゲーム」ということを大事にしてマーケティングすることを大事にしています。

⽯井:誰をフックに購買に結びつけるのか?そこで購買者の心理をどう考えるのか、ということが非常にストーリーとして筋が通ってますね。野球というスポーツを普及させる場合にも、改めて参考になることがたくさんあるように感じます。

■変わりつつある⼦どものゲームの「型」に合わせる努⼒

⽯井:実際に店頭やイベントなどでお子さんに触れながらマーケティングや企画をしていて、最近の子どもについて感じていることや、それに応じてゲームをこう変えてきている、というのはありますか?それも今後の野球普及の上で非常に参考になると思います。

森⼝:昔は野球にしても野球ゲームにしても、例えば巨人対阪神みたいに、「チーム」で試合をする、という考え方が強かったと思います。

でも今の子どもたちは、カードゲームとか、モンスターが進化する、といった環境に触れて育ってきている。どちらかというと、まず「個」のプレイヤーが先に来ているように思います。
プレイヤーを進化させるとか、自分のオリジナルの戦士を作るとか、その戦士をストーリーの中で戦わせて、あたかも自分が戦っているような疑似体験をする、といった型(ゲームフォーマット)があるように感じます。

そういうスタイルでプロ野球選手に「なってみる」といった気持ちや、自己投影する気持ちが強くなっているという傾向があると思います。 だからこそ、いろいろなキャラクターを増やしたり、感情移入できるようなストーリー仕立ての機能を準備したり、球場を作れるモードとかで環境づくりそのものを楽しめるとか、そういう風に進化させてきています。

⽯井:ネットにつながらない時代と、ネットにつながる時代で、何か考え方を変えたり、進化させたりしてきたところはあるのですか?

森⼝:ネットにつながるということは、「楽しみ方の拡張」ができると考えています。オンラインで知らない誰かと対戦できる、ということそのものが新たな楽しみ方を提供しているわけですね。

例えば特に野球が一番好きではないけど他人に勝つことが楽しい、好きというゲーマーがいたとして、そこに野球というゲームの型(フォーマット)を使えば気軽にオンライン対戦が楽しめる、となれば、野球ゲームをやってくれる、そういう流れが作れると思います。野球でなら自分が育てた選手で知らない人と腕試しができる、というストーリーをいかにきちんと提供できるかだと思います。

⽯井:それは非常に野球の普及というところでもヒントですね。野球という型(フォーマット)を使えば、誰もが気軽に楽しめるというのは、少年野球や、野原の草野球の原点みたいなところですよね。小さい子どもならバットにちょっとでも当たったら塁に出ていいとか、ホームに帰塁したら3点あげるとか、誰でも参加し楽しめるようにうまく工夫していた時代があったと思います。

今はどちらかというと、少年野球も「競技」としての洗練度が増してしまっていているように感じます。それはそれでいいことなんですが、逆に気軽に参加しにくい、ハードルの高いスポーツになってしまっているような気がします。道具もそろえないといけない、土日は練習漬けにならないといけない、遠征が多い、父母も役割分担が多い・・・などですね。
何かもっとハードルが低い、気軽に「野球」という楽しみ方を経験できるような仕組みがいるのでしょうね。

■ゲームが男⼥のアンバランスを修正するきっかけになる可能性に

⽯井:野球という競技スポーツはもともと男女バランスが非常にアンバランスなスポーツです。野球ゲームというジャンルで見るといかがですか?

森⼝:それは残念ながら、ゲームにおいても同じだと思います。実際ファミスタの購入者アンケートも98%ぐらいが男性です。

ただ、私自身は高校の野球部に女性の部員がいたので、自分の中では女性が野球をやるというのは、自然な感覚があったんですよ。なので、それも一つのきっかけとなって、今回、30周年版のファミスタクライマックスには本物の女子プロ野球選手を入れようと思ったんです。女の子が野球というものにもっと触れて、プロを目指そうかなと思う一つのきっかけになったらいいなと思って。

⽯井:「する」野球の女性への普及のきっかけになるということですね。「みる」野球という観点でいうとどうでしょう。

森⼝:ファミスタのドット絵(初期のコンピュータであった、四角い点で絵を描く方法)がかわいい、ということが女性の声であって、以前からパルコさんと組んで、ファミスタのドット絵を入れたTシャツやトートバッグをプロデュースしています。
野球にあまり縁がない女性でも、こういうキャラクターやアパレル、雑貨から野球というものに親しんでもらうことはあると感じています。

■終わりに

⽯井:色々とありがとうございました。最後に、今後の森口様の挑戦について教えていただけますか?

森⼝:私自身が実はファミスタと同じ1986年生まれ、縁をとても感じています。これからもファミスタというブランドを30年、40年、50年と続けられるように、変えてはいけない大事なことは守りつつ、新しい変えるべきことを取り入れていきたいと思っています。

チャレンジングなことをやりやすいゲームタイトルだと思っています。宇宙人と対戦できる、ボールが3つに増える、とかいう楽しみ方を取り入れてきましたが、これからも枠を越えた楽しみを提供していきたいと思います。

森口さん


(取材/構成/写真:石井宏司)

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