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大坂なおみ、年間グランドスラム達成のカギとなるサーフェスへの適応

2019 6/8 11:00橘ナオヤ
大坂なおみⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

3回戦敗退で幕を閉じた全仏

世界女王の赤土での戦いは今年も3回戦で終わった。ノーシードのカテリナ・シニアコバ(チェコ)に完敗。WTAランク1位で、全米、全豪と連覇中の大坂なおみだったが、4大大会3連覇の夢を果たすことはできなかった。

既に多くの報道記事が分析しているように、女王という立場と3連覇にかかる期待がプレッシャーとなり、大坂をナーバスにさせたことが大きな敗因と考えられている。だがそれ以外にも、大坂がハードコート特化の選手だということも指摘しておきたい。

「ハードコート特化型」の女王

大坂はこれまでのキャリアで、5度決勝に進出し3度優勝している。しかし、それは全てハードコートに限られたもの。

優勝したのは、アメリカ開催のインディアンウェルズ(プレミアマンダトリー、2018年3月)と同年開催の全米オープン、そして今シーズンの全豪オープン。準優勝は2016年、18年の東レ・パン・パシフィック・オープン(WTAプレミア)での2度。室内と屋外の違いはあるが、すべてハードコートだ。

一方で、2012年から始まった彼女のキャリアで、グラスコートとクレーコートではタイトルはおろか、決勝進出の経験もない。これには、大坂がハードコートを主流としているアメリカで育ったことが大きく影響している。

ハードコートはグリップがよく効く足場で、ボールは高くバウンドし、球足もそこそこ保たれるサーフェスだ。相手の勢いあるボールもそのまま来るため、うまく踏ん張って面を合わせることができれば、ウィナーを取ることができる。しっかり踏み込んでパワーヒットする大坂のプレースタイルは、このハードコートで培われた。

“クレー仕様”のフットワークを学べ

ハードコートでは真価を発揮する大阪のプレースタイルだが、クレーコートにはまだ対応できていない。クレーコートでは、“クレー仕様”の動きが必要となる。クレーコートが多く設置されているスペインやフランス出身の選手の動きが良い例だ。

スペイン人選手の”赤土の帝王”ラファエル・ナダルや全仏優勝経験のあるガルビネ・ムグルサは、ともにフットワークでスライディングを多用する。砂粒の影響で滑りやすいことを利用してコート上を滑ることで移動距離を稼いでいるのだ。バウンドが低く球足が遅くなるため、前後左右に振り回されるとボールを追いかけるのが大変なのだが、ナダルやムグルサといったクレー巧者はスライディングを駆使してボールに追いつく。

さらにその際の体重移動は、足をしっかり地につけるハードコートの場合とは異なりコツがいる。大坂はスライディングと体重移動のコツがまだつかめていないため、苦戦を強いられている。

パワーよりスピンの影響が大きい

もう一つ、ボールが受ける影響もある。大坂の打球は強力だが、クレーコートではバウンド時に赤土に力が吸収され、ハードコートほどのパワーは残らない。

そのため、通常のトップスピン気味のボールやフラットな打球に加えて、スライスや強烈なトップスピンなども織り交ぜて相手を揺さぶることが必要となる。ナダルの超強烈なトップスピンが最たる例だ。さらに、ドロップショットやアングルショットの効果もバウンドしない分、より効果的になる。

大坂の場合、こうした球種に翻弄される場面が目立った。もちろん、持ち前の強力なショットでウィナーを奪うこともある。3回戦のシニアコバ戦の数字を振り返ると、ウィナーの数は25対12で相手の2倍以上決めている。だが、クレーでのプレーに十分適応できていないためミスが多かった。シニアコバが手にした67ポイントのうち38が大坂のアンフォーストエラーによるものだった。

全サーフェスに対応する選手に

グランドスラム全大会で優勝するために、大坂が超えるべき壁は高い。ここまで述べてきたクレーコートのクセに対応する必要があるだけでなく、6月半ばにはグラスコートシーズンがやってくる。グラスは球足が最も速く、滑る地面だがクレーとは異なる質感だ。

それぞれのサーフェスの特徴を掴むだけでも大変だが、同時にこの時期は負傷にも注意しなければならない。5月からクレーシーズンが始まり6月の全仏が終わると、グラスシーズンへと環境が急変する。サーフェスの特徴が大きく変わるため、足腰に負担がかかり、負傷する選手が多いのだ。

シーズンの移り変わりに上手く対応し、あらゆるサーフェスで自分のテニスができるようになって初めて、グランドスラム全大会優勝に近づく。そのためには、トレーニング環境を整え、コーチ陣を揃える必要がある。

幸い大坂はまだ21歳。彼女が尊敬するセリーナ・ウィリアムズも、最初の全米優勝(1999年)から次の4大大会優勝まで3シーズンを擁した。ここからの1、2シーズンのうちに、全サーフェスで戦える選手になれれば、セリーナやマリア・シャラポワに次ぐキャリア・グランドスラム達成も見えてくる。