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赤土の王ナダルとチチーパスに勢い 錦織は復調の兆しも不安残す【全仏オープン】

2019 5/25 07:00橘ナオヤ
BNLイタリア国際ディエゴ・シュワルツマン戦でプレーする錦織Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

本来の姿を取り戻した“赤土の王” ラファエル・ナダル

5月26日に開幕するグランドスラム全仏オープン。今季のクレーコートシーズンはトップ選手勢が苦戦し、若手や中堅の活躍が目立った。それゆえに、今年の全仏は多くのドラマが期待できそうだ。混戦が予想される今大会の注目の選手を見ていこう。

優勝候補の筆頭は“赤土の王”ラファエル・ナダル(スペイン)とノヴァク・ジョコヴィッチ(セルビア)だ。両者は前哨戦のBNLイタリア国際(マスターズ1000)の決勝で顔を合わせた。この試合はナダルが完勝し、今季のクレーコートシーズンで初タイトルを掴んだ。

ナダルは今季のクレーで例年通りの強さを見せられていなかった。この大会前までの成績は、モンテカルロ・マスターズ(マスターズ1000)、バルセロナ・オープン(ATP500)、マドリード・マスターズ(マスターズ1000)と、3大会連続でベスト4止まりだった。痛めた箇所もあるため万全ではないものの、この完勝で全仏連覇への弾みはついた。

No.1選手も疲労には勝てないか

対抗馬のATPランク1位ジョコヴィッチもベストと言うわけではない。モンテカルロでの2回戦ではサーブの不調に苛立ち、放り出したラケットが客席に入るハプニングを起こすなど、感情を抑えられない様子が目立った。

マドリード・オープンで優勝したものの、その次に出場したBNLイタリア国際では雨天によるダブルヘッダーに始まり、連日のフルセットマッチで疲労困憊。決勝では第1セットをベーグル(0-6)でナダルに奪われ、第2セットは返したものの、第3セットも奪われ敗戦。アンフォーストエラー(対戦相手ではなく自分に原因があるミスショット)の数はナダルの倍と、精彩を欠いた。

ジョコヴィッチほどの選手でも、疲労が溜まったところで強敵と当たればこのように崩れてしまう。全仏でダブルヘッダーは余程のことがない限りないだろうが、唯一屋根がないグランドスラムである全仏オープンでは、雨天中止や中断が発生する。試合開始の遅延や中断で疲労が蓄積された頃に、ナダルクラスの選手、あるいは勢いのある若手との対戦となれば、No.1選手と言えども今回のように圧倒される可能性もある。

飛躍を続けるチチーパス

いま一番勢いがある若手と言えば、ステファノス・チチーパス(ギリシャ)だ。昨シーズンのNext Gen ATPファイナルズで優勝した期待の若手で、今シーズンはATP250カテゴリながら、ハードとクレーの大会を1つずつ優勝している。

さらに全豪オープンではフェデラーを破りベスト4、マドリード・オープンをはじめ3大会で準優勝と結果を残している。BNLイタリア国際では準決勝でジョコヴィッチとフルセットマッチを演じ、No.1を苦しめた。イタリア国際でのベスト4もあり、大会後のATPランキングで錦織圭を上回る自己ベストの6位に浮上した。

チチーパスはフォアハンドと粘り強いプレーが持ち味のオールラウンドプレーヤー。ネットプレーの技術も高く、多彩なプレーで相手を苦しめる。中でも特徴的なのがバックハンドだ。両手打ちの選手が多い中、チチーパスは片手バックハンドを打つ。精度はまだまだ改善の余地があるが、コンパクトなスイングから素早く繰り出されるショットは強烈だ。

グランドスラムならではの5セットマッチの連戦は全豪で経験済みで、クレーコートとの相性も悪くない。ローランギャロスでも活躍が期待できそうだ。

ローマで苦杯を舐めた錦織

気になるのは錦織圭だが、ここまでのシーズンを振り返ってみると、1月の全豪で4試合中3試合がフルセットマッチになり、準々決勝途中で身体が限界を迎え棄権。それが尾を引いたのか、モンテカルロまで初戦敗退を重ねた。その後クレーコートシーズンが本格化すると、バルセロナでベスト4、マドリードは3回戦敗退、BNLイタリア国際はベスト8と少しずつ調子を取り戻してきた。

だが、素早く自信を持ったプレー判断や粘り強さといった錦織らしいプレーはまだ取り戻せたとは言えない。ローマで敗れたディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)との試合では、上向いていたサーブの調子がいま一つ。フォアハンドで目的がはっきりしないショットが多く、ミスも目立った。

何より、シュワルツマンが粘り強くボールを追い、好プレーを連発したことで試合のペースを掴んだのが試合の行方を決めた。シュワルツマンが見せたプレーこそ、錦織にいま必要なものだった。

全仏オープンのクレーコートはボールがバウンドせず、ラリーが続くため、長期戦になる傾向にある。全豪ではフルセット続きでスタミナ切れを起こした。粘り強くボールを拾うタフさが求められる赤土。錦織がローマで最後に見せた姿は全仏での苦戦を予感させた。初戦までに心身を整えることができるだろうか。