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男子テニス第3のチーム戦大会“ATPカップ”とは

2019 1/2 15:00橘ナオヤ
テニス,ⒸShutterstock.com
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新たな国別対抗大会が誕生

近年、チーム戦の導入と活性化に積極的なテニス界。2016年9月にはチーム・ヨーロッパ対チーム・ワールドで戦うレーバー・カップの第1回大会が開催され、100年以上の歴史を誇る国別代表戦デビスカップもリニューアルされることになった。

こうした動きに合わせるかのように、もうひとつの国別対抗の大会として新しく男子テニスに加わることになったのがATPカップだ。プロテニス協会(ATP)より正式に、2020年1月にオーストラリアで開催されることも発表された。

また、この大会設立にあたり、テニス・オーストラリアとFCバルセロナのCBジェラール・ピケが会長を務めるコスモス・グループがパートナーになったことも話題となった。

24カ国が参加する全豪の前哨戦

現時点でわかっている大会のレギュレーションを見てみよう。

ATPカップ第1回大会は、2020年1月の第1週に10日間の日程で開催される。そしてこの大会の1週間後に開幕する全豪オープンの開催地はオーストラリアで、会場は国内3か所となっている。1月のオーストラリアは灼熱で過酷な環境ということもあり、全豪オープンではヒートポリシーを採用。選手たちも早くから現地入りし、調整を進める。

全豪オープン前哨戦として、最適なものになると期待されているATPカップ。大会には24カ国が参加し、1チームは5人で構成。予選ラウンドでは、4チーム1組の6グループに分かれて総当たり戦を行う。

グループ分けの際に用いられるチームのシード権は、各チームでATPランクが最高位の選手の順位に応じて決まる。日本なら錦織(9位)、スイスならロジャー・フェデラー(3位)、セルビアならノヴァク・ジョコヴィッチ(1位)のランクが反映されるのだ。

そして、予選ラウンドの各グループ1位である6チームと、グループ2位のうち上位2チームの計8チームが決勝トーナメントに進むことができる。

1ラウンドあたりシングルス2試合、ダブルス1試合の計3試合が行われ、各試合3セットマッチの予定で、大会賞金は総額1500万米ドル。出場する全試合に勝利し、チーム優勝も果たした選手にはATPポイント750点が与えられる。

このATPカップとITF主催のデビスカップとの大きな違いは、賞金総額の桁とATPポイントが付与される点だ。

より多くの選手が賞金獲得の機会を得る

この新たな大会には何が期待できるのだろうか。 ATP、ITFら協会側は、チーム戦というフォーマットや国別対抗戦という性質から、新たなファン獲得が見込めると考えている。個人競技であるテニスに団体競技の要素が加われば、選手も国の代表としてプレーする機会が増え、ファンにとっても新たな観方や楽しみが増えることになる。

選手にとって何より一番のメリットは、賞金やポイントの獲得機会が増えることだろう。ATPツアーで賞金を獲得するのはトップ20に入るほんの一握りの選手だけで、その他多くの選手たちとの差が大きい。

だが、国別の団体戦ではトップ選手をリーダーとしながら、若手や低ランク選手を含んだチーム構成になる。そこで彼らのチームが勝利すれば、ポイントや賞金を獲得することができる。つまりトップ選手にかかわらず、チャンスを掴めるということなのだ。

スケジュールはますます過密に

最大の問題はスケジュール面。この大会を1月開催にした理由のひとつが「過密なツアースケジュールの中で1月は比較的薄く、大会を入れる余地があった」だ。しかしこれで「1月も余裕のないスケジュールになってしまった」ということになる。

現在のATPツアーは、62大会に4大大会、そして2つのファイナルズ(ATPファイナルズ、NexGenファイナルズ)がある。その他ツアー大会ではないものの、1月には混合ダブルスによる国別対抗戦ホップマンカップもある。

アレクサンダー・ズベレフが「こんなに長いシーズンがあるプロスポーツは他にはない。長すぎるよ」とコメントしているように、1シーズンが11カ月にもおよぶテニスのオフは11月半ばから12月半ばまでのたった1カ月のみ。ATPカップが加わることで、シーズンがより過密になる懸念は払拭されない。

デビスカップとのすみわけは

もう一つの懸念点は、デビスカップとのすみわけだ。デビスカップは2019年からリニューアルされ、2月に予選、そして11月末に本戦が開催。そのわずか6週間後の1月半ばにATPカップが催され、さらにその数週間後には次年度のデビスカップ予選と、間隔が非常に短い。新たなフォーマットを設けるとしても、本当にこの過密スケジュールで新たなファンを獲得できるのだろうか。

またポイントが付与されるATPカップに対して、デビスカップにはそれがない。選手協会の会長でもあるジョコヴィッチは、歴史あるデビスカップへの敬意を示したうえで、「プレーヤーの観点からの価値という意味で、高い位置にある“ATPカップ”が生まれた」と好意的に受け止めている。

しかし、本当のところ選手たちはどう考えているのだろうか。スケジュールに無理はないのだろうか……その答えは、新生デビスカップとATPカップの開催を待つのみだ。