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ベイビーセリーナが本家を超えた瞬間。歴史に名を残した大坂なおみ

2018 9/11 18:37SPAIA編集部
大坂なおみ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

夢を叶えた“ベイビーセリーナ“

大坂なおみが大きな夢をかなえた。

2018年の全米オープンテニスで、日本人初となるグランドスラムシングルス優勝を達成したのだ。日本人初という記録だけではなく、大坂本人にとっても「いつか全米オープンの決勝で、憧れのセリーナと対戦する」という夢を実現させた最高の一戦。プレースタイルや風貌から“ベイビーセリーナ“と呼ばれる大坂は、セリーナ本人のお株を奪う攻撃的なプレーで圧倒、夢を現実のものにした。

大坂の完璧なプレーを前に苛立つセリーナ

好調な勝ち上がりを見せた大坂と、母になって初のグランドスラム、24度目の優勝をかけて戦うセリーナの決勝戦。

セリーナの出だしは好調ではなかったが、スロースターターの傾向があり、最悪のスタートを切ったわけではなかった。しかし彼女の調子は試合が進むにつれどんどん悪い方向へ向かっていった。

一方の大坂は隙が無かった。

第1セットでファーストサービスの確率は、セリーナが38%にとどまったのに対して、大坂は73%。強烈なサービスを武器とする選手同士の対戦では、ファーストの成功率が試合を大きく左右する。大坂は高い成功率でサービスゲームをキープし、セリーナのセカンドに鋭く返球。2度のブレークに成功した。

大坂のサービスは強烈だった。高確率で成功するファーストサービスは時速180km台。200kmを叩き出すセリーナには及ばないものの、強烈な一撃だ。それをワイド、センター、そしてボディへと正確に打ち分け、セリーナに狙いを絞らせなかった。

ストロークも冴えていた。以前のようにパワー一辺倒ではなく、パワー勝負に挑みつつも、ベースライン際の深い打球を中心に、緩急とコントロールでセリーナを揺さぶる。

そして最も印象的だったのが彼女のセルフコントロールだ。優勝経験者でも取り乱すことのあるグランドスラム決勝の舞台で、目の前の1ポイントだけに集中し続けた。ミスやセリーナの好プレーで流れを失いかけても、セルフトークで気持ちを維持し、目の覚めるようなダウンザラインを決めると「カモン!」と声をあげ、すぐにリズムを取り戻す。

ミスが続くと不安気な顔で俯いていた以前の大坂の姿はそこにはなかった。ネットの向こうで苛立ちを募らせるセリーナの本来のプレースタイルが、大坂に乗り移ったかのようだった。大坂はこのまま6-2で第1セットを先制する。

異様な雰囲気の中で自ら崩れたセリーナと集中し続けた大坂

高い集中力を維持する大坂と、明らかにフラストレーションをためるセリーナ。セリーナは長いラリーを避けはじめ、リスクをとったワンプレーが目立つようになる。

決めきれば点になる一方で集中し切れていないためミスも目立つ。自身とは対照的な大坂の冷静さを前にセリーナはますます苛立ちを強めていく。

事の発端は第2ゲームの4ポイント目が終わったところで起きた。

セリーナにコーチングバイオレーションの警告が出たのだ。これがセリーナの導火線に火を付けた。もともと気持ちを爆発させる選手で、若いころは主審や対戦相手と口論をしていたセリーナ。この後何度も主審に詰め寄り、バイオレーションを宣告され、さらに激高してしまった。

試合はその後、第4ゲームでセリーナが4度目のブレークポイントを奪いブレーク。試合の流れが変わるかに思われたが、続く第5ゲームで大阪は最初のポイントで技ありのダウンザラインを決めて勢いを取り戻すことに成功。一方のセリーナは連続ダブルフォルトとミスを重ね、大坂がすぐにブレークバックしてみせた。

自分のふがいないプレーにフラストレーションが爆発したセリーナはラケットを破壊。先のバイオレーションに続く警告のため、ポイントバイオレーションを受けてしまう。これで第6ゲームは大坂の15-0で開始となった。

その後も繰り返されるセリーナの抗議やゲームバイオレーション、レフェリーの登場などで試合が止まり、会場も騒然となる。主審がコールするたびにブーイングが飛び、セリーナがポイントを取るたびに割れんばかりの歓声が響く。

カンゼンアウェーの雰囲気の中、大坂はとにかく冷静だった。セリーナが目に涙を浮かべ、主審やスタッフと口論し、観衆がざわめく中で、素振りをして試合の再開を待つ。その姿は、一人違う舞台にいるかのようにすら思えた。わずか20歳の大坂は泰然と構え、ポイントを積み上げていく。

そして第10ゲーム、大坂のサービングフォーザチャンピオンシップだ。20歳の初舞台緊張でどうにかなるはずのゲーム。それでも大阪は動じず1ポイント1ポイントに集中していた。フットワーク軽く、1打で決めようとするセリーナの強打を返し続け、2本のサービスエースを決め、ついに2本のチャンピオンシップポイントを迎えた。

1本目はセリーナがしのぐが、次に大坂が放った強烈なサービスをセリーナは返せない。6-4で第2セットが終わり、審判へのブーイングとざわめきの中で新女王が生まれた。

残念な試合後

荒れに荒れた全米オープン決勝の試合は、1時間19分で幕を閉じた。

50周年記念の全米オープンで、日本人初の優勝を果たした大坂。彼女は日本女子テニス、そしてWTAの輝かしい未来だ。

しかし残念なことに試合後の報道は決勝の内容以上に、彼女の生い立ちやセリーナの言動、社会問題に昇華した議論が続いている。

この試合、ひとつのバイオレーションからセリーナは自ら崩れていった。確かにセリーナは万全の状況でプレーできたとは言い難い、しかし自滅を呼び込んだのは大坂の強さあってこそだ。プレー内容でも完全に上回っていたのだ。

諸々の議論は、素晴らしいテニスをした彼女を心から讃えた後ではいけないのだろうか。