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全米テニスの猛暑問題は他山の石 東京五輪での対策検討を

2018 9/8 13:00SPAIA編集部
錦織圭,全米オープン,2018,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

異例となる全米でのヒート・ポリシー採用。猛暑に錦織も懸念

猛暑が続いたこの夏。暑さは日本だけでなく、欧米でも猛威を振るっている。全米オープンが行われているニューヨークでも、40度近くの高温が続いているのだ。男子シングルスでは、1回戦が行われた2日間で負傷も含めて実に10人の選手が棄権した。この状況で、主催の全米テニス協会は1981年以来となる「エクストリーム・ヒート・ポリシー」(EHP)の導入を決めた。

EHPはいわゆる猛暑対策だ。気温などが大会の定める基準に達した場合に、試合開始時間を遅らせたり中断させたりなどの措置をとる。今年の全米では、女子シングルスでは第2セットと第3セットの間に、男子では第3セット終了後に10分間の休憩が設けられた。

女子では初日から導入され、男子は2日目の午後に導入が決定された。38度を超え、体感温度は41度にまで達したことを受けての緊急対応だ。

途中棄権したメイヤーは「コート上で死ぬのはごめんだ。そんなことのためにテニスをしているのではない」とコメントし、過酷さを訴えた。

初戦で快勝した錦織もこの暑さでは「どんなルールがあっても無理」とコメント。10分間の休憩も「リズムを崩す」と好意的ではない。また真夏に開催される2020年東京オリンピックにも触れ、「楽しみで来ている人が体調崩すのが1番怖い」と懸念を示した。

絶好調で大会に臨んだジョコヴィッチも暑さに苦しんだようだ。ただEHP導入には満足しているようで、休憩中にアイスバス(氷風呂)に入り、気分をリフレッシュさせたという。

全米ではまだEHPについて具体的な基準を設けていない。今後恒常的にEHPを採用するのか、その場合どのような基準を設けるのか不透明なままだ。

全豪でのEHPには賛否も

EHPについて良く知られているのは全豪オープンだ。南半球にあるオーストラリア・メルボルンで1月に開催される同大会は、全米同様に真夏に行われるため、灼熱のコートでの戦いをどう乗り切るかが大きなカギとされている。

1998年にEHPを導入して以降、何度かの変更を経て現在は「気温40度以上、暑さ指数32.5度以上」という判断基準を設けている。この基準を超えたら開始時間を遅らせる、休憩を挟む、会場に設置されている開閉式屋根を閉める(準々決勝以降のみ)などの措置がとられる。

基準にある「暑さ指数」というのは、気温に加えて湿度や日射などを加味した指針。日本体育協会では、この暑さ指数が28度を超えたら「厳重警戒」、31度を超えた際には「原則運動中止」としている。

全豪のEHPの基準はそれよりも上に設定されている。そして厄介なことに、この暑さ指数は湿度や日射などの数値も加味されるため、条件さえ揃えばたとえ気温が50度に達しても全豪の基準にある32.5度を超えることはない。

ここ数年の全豪では気温が40度を超えても暑さ指数が基準以下だとして試合が続行され、選手や観客が体調不良を訴えるケースが増えた。

2018年の全豪では、女子の3回戦でコルネが気分が悪くなりコートに倒れ込んだ。またマルティッチは灼熱のコートでプレーしたため足の裏に水膨れができたという。

また最終的な判断は主審に委ねられており、放映権やスケジュール順守の観点から導入をためらっているという批判もある。EHPが導入され30年が経つ全豪でも、その基準や運用について選手からは異論が出ているのが現状だ。

猛暑が予想される東京五輪に向けて考えるべきこと

この猛暑、錦織が懸念するように東京オリンピックを控える日本も他人事ではない。

東京オリンピックでテニス会場となる有明テニスの森は2018年8月現在、本番に向けて改装中。大会期間中はセンターコートの有明コロシアム(インドア)のほかに2つのショーコート(屋外)、8面のインドアコート、屋外コートが練習用コートを合わせて26面の計37面となる予定だ。

全米や全豪に比べるとインドアコートが多い。だがオリンピックはグランドスラムと同様に開催期間が限られるため、猛暑続きでも屋外コートでの試合延期はできず、12面の屋外コートでは厳しい暑さが選手と観客を苦しめることは明らかで、猛暑対策を考える必要がある。

考えられる対策は3つ。
1.夕刻以降の開催
試合を17時以降などナイターに限るというもの。ピーク時の暑さは避けられるが、夕刻以降に試合を行うとなると一日にこなせる試合数が約半減し、スケジュールがタイトになる。

2.全米式のEHP
現在開催中の全米が採用している、セット間に通常より長めのブレークをとるもので、一定の効果はあるだろう。だが錦織が指摘したように試合の最中に長時間の休みがあると選手によってはプレーリズムを崩す恐れがある。

3.全豪式のEHP
全豪のように気温や暑さ指数などで基準を設けて、それを上回る時には開催時間を遅らせる、会場を変更するなどの措置をとる。おそらくこれが最も現実的なものだろう。だが現行の全豪がそうであるように、基準自体の設定が難しい。また、開催期間が限られている中では基準を超えていても試合を行わなければならなくなる。

今年の猛暑を経験した我々は、その危険性を身をもって知っている。選手と観客の健康と生命を第一に、明確な基準で猛暑対策をするべきだ。

全米オープン、全豪オープンで起きている問題を他山の石とし、選手全員が健康で、最高のパフォーマンスを披露できる環境を構築する必要がある。