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絶対王者不在の全米オープン 錦織優勝の鍵は「貫く心」

2018 8/30 13:00SPAIA編集部
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Ⓒゲッティイメージズ

優勝者は四大大会最多 連覇もない波乱の大会

一年で最後のグランドスラム、全米オープンが開幕した。ニューヨーク郊外のフラッシング・メドウズで開かれるスポーツの祭典。これは近年、四大大会のなかで最も展望が難しい大会となっている。四大大会のうち、全豪オープン、全仏オープンそしてウィンブルドンではこの10年それぞれBIG4(ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マリー)や、スタン・ワウリンカが優勝を分け合ってきた。それに対して全米オープンは、実に6人の選手が優勝している。しかし連覇したものはいない。全仏で5連覇するナダルや全豪で連覇を繰り返すジョコヴィッチらが尋常ではないのだが、そんな彼らでも全米オープンが連覇できていない。

マスターズなど、主要大会で上位に勝ち進む強豪選手たちはすでに多くの試合をこなしており、疲労が蓄積。また過酷な夏のシーズンで消耗し、万全なコンディションではないまま大会に臨む選手も少なくない。

過去に故障歴のある選手などはシーズン序盤はプレーできても、蓄積する疲労とともに古傷が悪化し、全米オープンのころには治療に専念するというケースもみられる。BIG4が精彩を欠き、大会を欠場することも多い。

2017年大会では前回王者のワウリンカを筆頭にマリー、ジョコヴィッチ、錦織らが負傷欠場。2016年大会でもBIG4のうちジョコヴィッチ以外の3人は準決勝進出を逃した。


<全豪オープン> ※2009~2018
ノヴァク・ジョコヴィッチ(5回:3連覇、2連覇)、ロジャー・フェデラー(3回:2連覇)、ラファエル・ナダル(1回)、スタン・ワウリンカ(1回)

<全仏オープン> ※2009~2018
ナダル(7回:5連覇、2連覇)、ジョコヴィッチ(1回)、フェデラー(1回)、ワウリンカ(1回)

<ウィンブルドン> ※2009~2018
ジョコヴィッチ(4回:2連覇)、フェデラー(3回)、アンディ・マリー(2回)、ナダル(1回)

<全米オープン> ※2009~
ナダル(3回)、ジョコヴィッチ(2回)、マリー(1回)、ワウリンカ(1回)、マリン・チリッチ(1回)、フアン・マルティン・デル・ポトロ(1回)

有利不利のないサーフェスも“絶対王者”無き大会に

もうひとつ見ておきたいのがのは、サーフェス(コート面の材質)だ。 全米のサーフェスは最も普及しているハードコートで、特徴としては球足がやや速く、他のサーフェスに比べバウンドが高い。ちなみにグラスコートは球足が速くバウンドが低いのでビッグサーバーに有利、クレーコートは球足が遅く、さらに滑りながら打つこともできるため、ナダルのようにストロークに長けた選手が有利とされる。

ハードコートは、多くの選手にとって慣れ親しんだサーフェスであるためか、向き不向きが出にくいとされる。これは様々なタイプの選手がファイナルまで勝ち進んできた理由といえる。2014年に決勝で錦織を破ったチリッチや、2017年にファイナリストとなったアンダーソンはビッグサーバー。アンダーソンを破ったナダルと錦織は、細かいプレースタイルは異なるがストロークを武器とする選手だ。

疲労もたまる8月9月の開催でコンディションの維持が難しく、サーフェスが標準的で有利不利が少ない。ゆえに、ここ10年、この大会には全仏のナダルのような“絶対王者”がいないのだ。

全米オープン決勝戦結果

ⒸSPAIA

錦織優勝の鍵は精神面「貫く心」

そんな中、優勝のチャンスがあるのはBIG4と、それに続く勢力に絞られる。そしてそこには錦織圭がいる。

2014年大会では準優勝、2016年大会ではベスト4と、全米オープンは錦織が最もグランドスラム優勝に近づいた大会だ。今シーズンはウィンブルドンでベスト8に入り、優勝を狙える力はある。あと少しの壁を破るカギはメンタル面だろう。

2014年大会決勝では、ビッグサーバーという個性に自信を持ち、決勝という特異な舞台に臆することなく自分のプレーを貫いたチリッチに敗れた。そして2016年大会の準決勝、この年優勝するワウリンカに敗れた際も、「肉体的にも精神的にもつらかった」と語っている。

錦織は器用な選手だ。上背が無いためパワープレーはできないが、敏捷さに加え粘り強さがある。そしてプレーの判断も素早い。BIG4相手でも試合を支配できるが、焦りと不安からミスを連発し、自滅する試合も多かった。そうしたミスを減らすために、とくに全米のような心身の疲労が溜まった状態で迎える大会では、精神的な安定から生まれる集中力の有無が決め手になる。

全米オープンは彼が育ったアメリカが舞台で、サーフェスでの有利不利もない。過去の成績からも錦織が最も輝ける大会であることは間違いない。

彼を待ち受ける壁はもはやBIG4ではなく、己のプレーを貫けるかどうかだ。