赤土に鍛えられたスペインの選手たち
スペインの選手と言えば、ラファエル・ナダル選手に代表されるように、クレーコートを得意とする選手が多い。球足が遅く、クセのあるこのサーフェスに強い選手が多いのはなぜか、考えたことはあるだろうか。それは、実はスペインの建物と関連がある。レンガ造りの家が多いスペイン。
老朽化した家屋や建築物に使われていたレンガは、砕いて赤土にされる。それが公園やテニスコートの土として使用されるのだ。球足が遅いためラリーが続きやすく、またバウンドの変化も読みにくいクレーコート。このサーフェスで幼いころからトレーニングを積むため、スペインのトップ選手たちはスタミナに優れ、粘り強く、精神的にも屈強な選手が多いのだ。
今回はそんなスペインのテニス選手から4名を紹介する。
”赤土の王者”ラファエル・ナダル
現在のテニス界に君臨する“ビッグ4”の一人、ラファエル・ナダル選手は、スペインテニス界においてNo.1の存在だ。
これまでにグランドスラム15回優勝。これは歴代第2位の成績で、長年のライバル フェデラー選手の18回に次ぐ成績だ。2010年にはグランドスラム4大会中3つで優勝し、キャリアグランドスラムも達成している。特筆すべきは全仏オープン2017年大会で、前人未踏の10回優勝を成し遂げたことだ。
2010年以降は負傷の影響もあり苦しむこともあったが、2017年は全豪で準優勝。決勝は復活したフェデラー選手との対決で、両者ともに復活を示す一戦となった。そして全仏では決勝も含むすべての試合でストレート勝ち。落としたゲームは35ゲームだけという圧巻のプレーぶりであった。なお大会期間中である6月3日が誕生日のため、2005年の初出場以来、ローラン・ギャロスで祝われることが恒例となっている。
ナダル選手といえば“赤土の王者”の異名をもつほどの圧倒的なクレーコート上での強さで知られる。クレーでの通算成績はなんと50勝以上。前述の全仏10回優勝のほか、全仏の前哨戦であるモンテカルロ・オープン、バルセロナ・オープンでも10度優勝、BNLイタリア国際でも7度優勝と、いくつもの金字塔を打ち立てている。
プレースタイルはいわゆるカウンターパンチャー。ベースライン上に構え、たくましい左腕から放たれる打球は強いスピンがかかっている。フットワークとスタミナ、ボディバランスに優れており、コートカバー能力が図抜けている。強烈なスピンとカバー能力は、クレーコートの特徴との完璧な相性を持つ。
一時は自身の不調とジョコヴィッチ選手の台頭などもあり、下降線をたどるのではと不安視されたが、2017年には見事な復活劇を果たし、まだまだトップ選手としての活躍が期待される。
”貴公子”ダビド・フェレール
長年ツアーのトップレベルで戦うベテランプレーヤー。世界ランキング3位の経験を持ち、ナダル選手に次ぐNo.2として長らくスペインテニス界をけん引し続けている。端正な顔立ちの持ち主でルックスによる人気度も高いが、なにより気持ちが入ったプレーに対する評価が高い。
上背は無いが疲れ知らずのタフな選手で、コートを縦横無尽に走り回り、鋭い回転を掛けたストロークを打ち込む。また劣勢にあってもボールを追うことをやめない強い精神力の持ち主としても知られる、スペインらしい選手だ。
フェレール選手といえば、友人のベルダスコ選手、フェリシアーノ・ロペス選手らとともに出場したデビスカップで2008年、2010年、2011年の優勝に貢献したことで知られる。次に述べるようにグランドスラムのタイトルこそないが、国旗を背負ったこの大会で栄冠をつかんだ選手として、この3選手はナダル選手同様に国の英雄と称されている。
選手としてキャリアハイと言えるのは2013年。前年の2012年に全仏オープン、USオープンでベスト4進出と好成績を残すと、13年も好調を維持し、全仏オープンではグランドスラム初の決勝進出。決勝は全仏の王者ナダルに敗れたが、準優勝と自己最高成績を収めた。この活躍でナダル選手、ノバク・ジョコビッチ選手に次ぐランキング3位となり、ついに彼らとアンディ・マリー選手、ロジャー・フェデラー選手が築く“ビッグ4”の壁を破ることに成功した。
クレー以外のサーフェスでも安定した成績を残したことから、2010年から2016年まで6年連続でツアー・ファイナルに出場するなど、ランキング上位の常連として知られているが、近年はトップ20から陥落するなど、少し元気がない。今後も粘り強いテニスを見たいものだ。
次代を担うパワーヒッター カレーニョ・ブスタ
続いてはナダル選手たちの次にスペインテニス界を背負う、パブロ・カレーニョ・ブスタ選手だ。彼は1991年生まれのヒホン出身。2011年にプロデビューすると、2013年にはフューチャーズ大会で7大会連続優勝するなどブレーク。期待の若手としてその名を知らしめた。
飛躍の年となったのは2016年。シングルスでは8月のウィンストン・セーラム・オープンで初優勝。またダブルスではUSオープンでは男子ダブルスでガルシア=ロペス選手と組んで準優勝となった。この年はシングルスでツアー2勝と準優勝2回、ダブルスでもツアー2勝と準優勝4回という成績を残した。
翌2017年もガルシア=ロペス選手とペアを組み全豪ダブルスでベスト4と好調を維持。2月に行われたリオ・デ・ジャネイロ・オープンでは、シングルスでマスターズ・500シリーズで初めての決勝進出を果たすも、ティーム選手に敗れて準優勝。同大会ダブルスではウルグアイのクエバス選手と組んで見事優勝している。
3月のBNPパリバではベスト4進出を果たし、5月には前年準優勝だったエストリル・オープンで優勝しツアー3勝目をあげた。全仏ではディミトロフ選手やラオニッチ選手といったシード選手を次々に破り準々決勝進出を果たしたが、同郷のナダル選手との戦いの中、わき腹を負傷し無念の途中棄権となった。
ツアータイトルはマスターズ・250シリーズの3勝のみだが、各大会で印象的な試合を続けており、全仏オープンを終えた2017年6月のランキングではスペイン勢でナダルに次ぐ17位につけている。
プレースタイルは、188cmの長身から繰り出す強烈なストロークと、スペイン選手らしい粘り強さが武器のパワーヒッター。シングルスのみならずダブルス、そしてハードコートのプレーも得意としており、今後さらなるブレークを予感させる選手だ。
”美しきパワー・ガール”ガルビネ・ムグルサ
最後に女子テニスから期待のプレーヤーを紹介しよう。ガルビネ・ムグルサ選手だ。1993年生まれで、スペインのバスクと、南米ベネズエラにルーツをもつ。
2011年にプロに転向すると、2012年にはUSオープンでグランドスラム初出場を果たした。2014年にツアー初タイトルを獲得すると、全仏のシングルス2回戦で前大会女王にして世界No.1のセレナ・ウィリアムズ選手をストレートで破る大金星をあげた。結局この大会ではシングルスでベスト8と、得意のクレーで大躍進を遂げる。
その後セレナ選手とは大舞台で顔を合わせ、因縁めいたものを感じさせる。快進撃を見せた2015年のウィンブルドン。シード選手を次々と破り、自身初めてとなる4大大会決勝へ。そこでの相手がセレナ選手だった。この試合ではムグルサ選手はストレートで敗れてしまい準優勝。だが世界ランクで一時3位につけるなど成長を続けた。
2016年は全仏で決勝進出。ここでの相手はまたしてもセレナ選手。だが今度はクレーに強いムグルサ選手がストレートで勝利し、念願のグランドスラム初優勝を果たした。この大会後、世界ランクでも自己最高の2位となった。
2017年の全豪、全仏とも前年程のパフォーマンスを見せられていない。後半戦で調子があがることを期待したい。
プレースタイルは約183cmという長身から繰り出す強打が最大の武器。フォア、バックハンドともにフラットでパワフルなストロークが持ち味で、相手をベースラインに貼り付けてしまう。同様にサービスも強力で、サービスゲームのキープ率が高い選手としても知られている。スペイン人選手らしくクレーコートを得意としているが、そこで力を発揮する彼女のフットワークは、男子ではナダル選手も見せるスライドを駆使したもの。しかしこの負荷の大きいプレーのせいか、比較的負傷が多い選手でもある。
また精神面の成熟が課題とされており、試合展開に左右されアンフォースドエラーが多くなる。とはいえ、心技体が揃ったムグルサ選手は現在の女子ツアーでは非常に強力で、あと一歩成長すれば更に強力な選手になると期待されている。
気迫に満ちた情熱的プレーを見逃すな
スペインの選手は粘り強く気迫のこもったプレーで観客を沸かせ、相手選手を消耗させる。そのタフなプレーはクレーコートで培った体力と技術、そして諦めない強い気持ちに裏打ちされている。復活の王者や未完の若手選手など期待できる選手が揃っているのもスペインテニスの魅力だ。
ぜひ彼らのプレーから、諦めない闘志を感じとってほしい。